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第238話 ~対価~




「それで? 先代勇者パーティのクロウと闇の暗殺者様が魔王の後継と右腕を連れて何の用だ? どんな情報が欲しい?」



 ぶっきらぼうな物言いで、客を前にしているとは思えない態度だが、それで少し見えてきたものがあった。



「……あんた、魔王が嫌いなのか?」


「どうしてそう思った?」



 上へ煙を吐いて灰皿に灰を落とす。

 ひどく様になっている一連の動作を観察しながら俺はじっとその目を見つめる。



「最初に違和感を感じたのは先代勇者の手記にこの店が勧められていたこと。俺は一文しか読んでいないが手記を全部読んだクロウがこの店を一切警戒していないこと」



 ちらりと目を横に向けると、クロウは知らん顔で出されたグランドスラムを呷っていた。おい。



「あとは一目みてラティスネイルと夜の正体に気付いたのにあんたの態度や目からは敬意が見られないどころかこいつらを嫌っているようにも見えた。こいつらの共通点と言えば魔王だ。あとは勘とか雰囲気とかでなんとなく」



 普通自国の王の娘や右腕と分かって目の前でタバコは吸わないだろう。こちらのタバコに副流煙があるのかは知らないが臭いも見た目もあちらの世界のタバコと同じもので、室内で吸われると鼻と目が辛かった。目の前にいる俺に煙を吹きかけないように煙を上へ吐いていると思ったが、もしかすると立ったままのラティスネイルに向けていたのかもしれない。この世界に来てタバコを初めて見たがこれもいつかの勇者がもたらしたものなのだろうか。

 理由を述べたが満足かとマスターを見れば、ふうんと言葉を零して再び煙を吐いた。



「さすがは噂に名高い闇の暗殺者殿。今代の勇者よりも強いってのは本当らしいな。鋭い洞察力だ」



 灰皿に落とされる灰と共に零された言葉に目を見開いた。

 レイティス城でのステータス開示を回避したため俺のステータス情報を知っているのは世界で俺だけのはずだ。そして俺と勇者を比べるほど一緒に戦いの場に立ったことは少ない。カンティネン迷宮くらいだろうか。ということは情報源はクラスメイトか元騎士団の人か?

 横から手が伸びてきたので俺は目の前のグラスをクロウに渡した。どちらにせよ俺には飲めない。空挺船の船内には料理酒しかなく、久々の嗜好品としての酒にクロウは心なしか嬉しそうだ。毒なんかは入っていないと『世界眼』から保障はできるが普通は飲まないだろうに。



「なるほど? 先代勇者リッター・ガナドールに魔王城の情報を売ったのも魔王が嫌いだからか。思えば魔族領に入ってからのあいつはおかしかった。一度も訪れたことのない場所のはずなのに方角を確認することもなくすいすいと進み、どこから仕入れたのか分からない情報を落としてくる。あの時は聞いてもニヤニヤと気色の悪い顔しかしなかったから面倒で聞かなかったが、今思えばあいつはここで情報をもらっていたのだろう?」


「だから出された酒を飲んでも問題ないって? お前はもう老化が始まっているだろう。ああ、妹も友人も死んだから死に急いでいるのか」



 ピリピリとした空気が二人の間を流れた。

 マスターを見たとき誰かに似ているとは思ったがこうして見るとクロウと雰囲気が良く似ている。ということはノアにも似ているということで、船を降りて別行動をしていても仲裁をしなければならないのかと思わずため息を吐きそうになった。



「おい、言い争いは後にしてくれ。それより、ここで情報を売るということは対価が必要なはずだ。あんたは俺たちに何を要求する?」


「ああ、対価な。俺がお前たちに売れる情報は三つ。その対価に本当はお前やエルフ族の王女サマが持ってるその目が欲しいところだが……」



 『世界眼』の事も知っているのかと思わず口の中で舌を打つ。

 この世界にも『世界眼』の劣化版ともいえる『看破』系スキルや『鑑定』系のスキルを所持している人は多くいる。俺も相手のステータスを視たり紛らわしい薬草を見分けたりするような使い方しかしていないが、この眼はおそらくそれだけではない。俺よりも長くずっと使用しているアメリアでさえスキルレベルが3のままであることから、レベルを上げるために使用時間以外の要素があるのだろうくらいにしか分かっていない。そしてカンティネン迷宮で一瞬見えた未来の光景のような景色、世界のすべてを見通すような感覚。できればこの眼とは敵対したくない。



「そいつは欲しいと思っても手に入れられないタイプのものだから仕方がない。そうだな……このヴォルケーノ大陸から逃がしてほしい三人兄弟がいる。お前たちに要求する対価はその三人を他の大陸へ亡命させること。大陸に着いたあとは三人がどうにかするだろうからひとまず着くまででいい」


「着くまででいいのか?」



 船に乗せておけばいいだけで簡単じゃないか? もっと無理難題を吹っ掛けられるのだと思っていた。

 思わずそう考えたことが顔に出ていたのか、マスターは鼻で笑う。



「簡単? 本当にそう思うのか? お前たちが向かうのは魔王城。世界最強と謳われたメンバーがそろった先代勇者パーティが二人になるまで減り、さらにそこまでしても魔王の元までたどり着けなかった場所だ。俺はそこから生きて帰って、ついでに他にも足手纏いを三人連れていけと言っているんだぞ」


「その三人の素性は?」



 クロウが俺の分のグランドスラムを飲み干し、三杯目に手を付ける。

 泥酔したところは見たことがないが、少々ペースが早くないだろうか。抱えて船まで帰ることになるのは勘弁なんだが。



「明日会わせてやる。詳しい話をするかどうかは三人に任せるから俺の口からは言えない」


「お前の情報に人間三人の人生を対価にする価値があるのか?」



 俺の純粋な疑問にマスターは肩を竦めた。



「ああ、俺はこの世界で一番の情報屋だと自負している。そこの男が使っている情報屋よりもはるかにな」


「売れる情報が三つあるとのことだが内容は?」


「魔王城の裏口、魔族が人族に卸しているとある水晶の情報、そしてサラン・ミスレイを殺した武器について。でどうだ?」



 思いもしなかった名前に俺は自分の表情が崩れたのを自覚した。

 後ろに立っているラティスネイルと肩にいる夜も少し動揺したのか身動ぎする。



「サラン・ミスレイ、本当の名はサラン・エルメス。その女と一緒に行動しておいて、仇まで討っておいて自分の師が何者か知らないとは言わないよな?」



 そこで初めてマスターの目がラティスネイルに向けられた。

 もし船の中でラティスネイルにサラン団長の正体を聞いていなければ今この瞬間とても取り乱していただろう。



「魔族で今の魔王の兄なんだろう。つい最近だが聞いたよ。それで?」



 こいつは一体どこまで知っているんだ?





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