第228話 ~情報~
「ええと、どこまで話したかな? ……そうそう! 僕は伯父さんに育てられたんだ。変な人でね。魔族の発展のためには他の種族と力を合わせることが必要だといつも言っていたよ。特に魔法について魔族でも解明されていない部分を人族が解明してるのを知って感激してたな。僕にもいろんなことを教えてくれたんだ」
懐かしそうに目を細めて微笑むラティスネイルに俺はサラン団長らしいなと笑った。
レイティス城で俺に色々と教えていた時、どこか教え慣れているというか説明慣れしていると思ったが、きっと幼いラティスネイルに同じように教えていたからだろう。
「いつだったかな。先代魔王つまり僕のおじいちゃんが亡くなられて、叔父さんとお父さんのどちらかが魔王を継ぐことになったんだ」
魔王は世襲制だったのか。だが、初代勇者が当時栄えていた場所つまりは首都諸共吹き飛ばしたのなら今の魔王一族はその血を継いでいるわけではないのでは? もし継いでいるのだとしたらどうやって逃がされたのだろうか。
「昔はそうじゃなかったって聞いたけど、魔族以外の種族が嫌いになった父さんと人族や他の種族が好きな叔父さんは度々喧嘩をしていて、それが周りにも波及していつの間にか後継者争いなんてことになった」
まあ確かに、妻を他種族に殺された弟相手に今までと同じ調子で多種族賛美を唱えていればそりゃあ喧嘩にもなるだろう。サラン団長ってそこまで空気が読めないというかデリカシーのない人だっただろうか?
「サラン団長ならそもそも弟さんに継承権を譲りそうなものですが……」
ジールさんも、見知っているサラン団長像と合わなかったのか首を傾げてそう言った。
この中でラティスネイルを除いて一番サラン団長と一緒にいたジールさんが言うのならやはりそうなのだろう。
「僕はその時伯父さんから遠ざけられてたから噂でしかないけど、伯父さん派の魔族が暴走したらしいね。自分たちが担ぎ上げたかった人が王になる気はないってそりゃ焦るだろうけどさ」
つまりサラン団長はサラン団長を魔王にしたかった魔族のせいでしたくもない後継者争いに巻き込まれたらしい。可哀想に。
サラン団長のサーモグラフィ魔眼もその時の兄弟喧嘩でできたものなのだろうか。確か、魔王やそれに近い実力の魔法攻撃を目に受けると稀に現れる現象だったか。サラン団長は魔王による傷のせいだと言っていたし、魔王になった弟によってできた魔眼だったのだろう。まあ、兄弟喧嘩の末にできたなんて格好がつかないもんな。
「結果的に後継者争いは父さんが勝って、伯父さんや伯父さん一派は城から追い出されたらしいよ。だから今の魔王城には魔族一強、排他主義の魔族が揃ってる。勇者なんて最優先で排除すべき人間だから気をつけてね」
そう言って勇者を見るラティスネイルだったが、残念ながらすでに魔族から襲撃は受けている。
「すでに魔族がこの船を襲った後だ。ダリオン・シンクと名乗っていた深緑の髪に蜂蜜色の目をした魔族だ。知ってるか?」
俺の言葉にラティスネイルは目を見開いた。
どうやら彼女がこの船に忍び込んだのはダリオンがいなくなってからのことらしい。
「えっもう来たの!? しかもダリオンってことは多分十魔会議で勇者を早めに殺すと決まったんだろうね」
十魔会議とは魔王を含めた魔族の上から十人で行う会議だそうだ。勇者をどうするかの他にも普段は魔族全体の行く末などを決めているらしい。
俺がこれまで戦ったことのある真尋やアウルム、ダリオンもそのメンバーなんだとか。正直アウルムが真面目に会議をしている様子など想像もできない。
「十魔会議に出れる魔族は魔王から名を与えられるんだ。ウノ、トレース、シンクなんてね」
確かどこか海外の数字の数え方に同じようなのがなかっただろうか。
義務教育で習うわけじゃないからよく覚えていないが。
「十魔会議に出ている魔族の特徴を後で表にして渡すよ。きっと君たちが魔族領に着いても色々と妨害してくるだろうし」
これまで二番手、三番手、五番手に出会ってそれを退けているからといって油断するわけにはいかない。そもそも退けたのは俺じゃなくてクロウとアイテルだ。相手の情報がもらえるのならそれは願ったりだろう。
「で、お前はこいつらに何を望む? そろそろ、こいつらに止めてほしい父がしている内容と経緯を話せ」
ノアが苛立ったようにラティスネイルに言う。
確かに、回り道しすぎただろうか。
「……僕の父さんは亡くした僕の母、つまりは妻を蘇らせようとしている」