第183話 ~合流前~
俺の愚痴が今回は功を奏したのか、クロウのあたりかまわずイライラをぶつける行動は鳴りを潜め、元の人を見下した感のある尊大なクロウが戻ってきた。
イライラしているクロウよりも元のクロウの方が安心感があるというのはアメリア談だ。
これには俺も苦笑したが、隣でうんうんと頷いているリアも初めて見るクロウのポンコツさに戸惑っていたらしい。
唯一、一緒に旅をしているとはいえクロウと接点の少ないアマリリスが、こちらを見て首を傾げながら何やら煎じていた。
休憩をするために止まるたびに何かを煎じているのだが、いったい何をしているのだろうか。
相変わらずずっと何かを考えて黙ったままではあるが、明らかに元に戻ったクロウを先頭に一行は着々と進み、そしてついに自分たち以外の誰かの野営のあとを見つけた。
こんな場所に来ている団体なんて、勇者メンバー以外にいないだろう。
「全員生き残ってる?」
勇者メンバーの女子と交友を深めていたアメリアが、火を焚いていたであろう所を見ながら不安そうに俺に聞いてくる。
俺は周辺をぐるりと見渡して、少し考えてから頷いた。
「さすがに大まかにしかわからないが、ここに何か料理がこぼれた跡がある。そっちには寝床に使っていた場所が。おそらく食事中かその前に魔物に襲われたんだろう。少なくともこぼれた料理の量と寝床の数を見る限り、襲われる前には全員そろっていただろうな。荷物も中途半端に落としているし、足跡も隠れてないから追跡は可能だ」
さすがに魔物に襲われたその後はわからないが。
逃げる最中に武器など必要なもの以外は捨てていったらしい。
のちのち必要になるかもしれないので拾っておいてやることにした。
勇者、京介、ジールさん、細山、上野、和木、津田、七瀬。
うん、そろっている。
「……にしても、これだけの食料をよく見つけることができたな」
こぼれていた料理を見て俺は呟く。
魔物の肉は襲ってくる魔物からだとは思うが、他にも人間に害のない薬草などを選別するようなスキルを誰か持っていただろうか。
ジールさんもサバイバル能力はあまりなかったと思うのだが。
「人間に害のあるものが一切入ってないけぇ、『鑑定』か『毒見』っぽいスキルを誰かが取得しよったんやね。毒素がある薬草はこっちに集まっとる」
俺と同じように地面にしみ込んだ料理を見てアマリリスがぽつりとつぶやき、雑草が山になっている場所を指さした。
俺が前に視た限り、勇者メンバーは誰もそういった類のスキルを所持していなかったと記憶している。
誰かが新たにスキルを取得したと考えるべきだろうな。
「早く合流したいですね」
戦闘があったと思わしきえぐれた地面をみてリアがしんみりと呟く。
俺はそのセリフで自分の心情に気付き、息を呑んだ。
心の底から、俺もそう思った。
俺はどうやら自分でも思っていたよりも勇者メンバーのことを心配していたらしい。
これまで覚える気もなかった名前をしっかりと覚えるくらいに。
「魔族領に近づくにつれてどんどん魔物の力は強くなる。希望を抱いてもいいが、期待はするな」
冷たい声で言ったクロウの言葉がやけに頭に響いた。