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第180話 ~限界突破~ 佐藤司目線



全身が淡く光っている。

上野さんのスキルだというこれがいつまでもつのかはわからない。

それまでにこれを倒さなければみんな死ぬ。

ここまで連日死線をくぐったことがないからか、それとも俺の体力が限界まで来たのか、身の一部となるまで練習し、振るったはずの剣が異様に重く感じた。

魔物の攻撃を受けるたびに腕が悲鳴を上げ、体を動かすたびに足や動かした筋肉が引き攣る。

色々と考えながら立ち回らないと攻撃を食らってしまうため頭も痛くなってきた。

考えるまでもなく限界だ。



「あと少しだったのに……」



目的地であるセーフハウスまであと少しなのだ。

だというのに、ここにきて一番の強敵が立ちふさがっている。

戦闘に加わっている三人はもはや気力で動いているようなものだ。

七瀬君が後衛で、遠距離魔法が効かないため俺たちに補助魔法をかけてくれていたが、そろそろ魔力切れだろう。


攻撃が通らない相手をどう倒せばいいのか、頭を働かせる。

最初に考えたのは、近接戦闘で腕や足の関節を外し、あわよくば手足をもいで戦闘不能にさせるという作戦だったが、そもそも剣を交わす以上の接近ができない上に、関節の弱点周辺には特に硬い素材が使われていた。

剣がはじかれてしまう。

二つ目に考えたのは最初のものよりもレベルを下げて、とりあえずこかせるという作戦。

なんにせよその機動力を封じようと足元を全員のタイミングに合わせて攻撃をしたが、片足が上がったときに軸になる足を狙ったにもかかわらずビクともしなかった。

なんなんだこの強度は。

一体何を想定して作られた?

というか誰がこんな悪魔的な意地の悪いものを作った?


だめだ。

思考が変な方向にずれてまとまらなくなってきた。



「あのときの力が出せれば」



あの時、津田君や上野さんと一緒にみんなのために食料を探しにでた森で魔物と戦闘になり、死闘を繰り広げた俺は戦闘不能となったが、津田君が持っていたポーションで復活し聖剣術でそこにいた魔物を一撃で消滅させた。

あの力を今出すことができれば倒すことができるのだと思う。


だが、あの時以前も以後も聖剣術が発動できたことはないし、そもそも俺が今持っているのは普通の剣だ。

他のものよりも丈夫ではあるが、聖剣ではない。

そもそも聖剣とは何なのか、文献もほとんど残っていないらしい。

昔、人族領の大和の国にあったが、紛失したとか。


そう考えると聖剣術が発動できたあの時が特別なのだと思うしかない。

とすると、一撃必殺は望めないわけだ。



「ぐっ!?」



そんなことを考えているうちに、視界の隅で朝比奈君が倒れた。

死角から迫っていた攻撃を食らってしまったらしい。

朝比奈君が倒れ、戦闘を離脱したことで今までギリギリを保っていた均衡が崩れる。

倒れた朝比奈君は七瀬君の魔法で津田君の盾の後ろに運ばれていった。

これで、戦えることができるのは俺とジールさん、そして七瀬君のみとなった。

津田君はまだ意識が戻っていないらしく、盾は依然和木君が構えたままだ。

和木君も力がないわけじゃないけど、経験やコツは津田君に劣る。

きっと一撃は防げてもその次は防げない。

後ろに遠距離攻撃を逃がすのもダメになった。



「司!次来るぞ!!」



七瀬君の怒鳴り声でハッと再び戦闘に意識を集中すると、ジールさんと斬り合っていたロボットがこちらに来ていた。

まずい。

後ろには和木君たちがいる。

攻撃をまともに受けてしまえばその余波が後ろに行くかもしれない。

とはいえ、受け流すと後ろが標的に変わってしまうかもしれない。

それだけは、絶対に避けなければならない。

どうすれば……。

とりあえず攻撃を受けるにせよいなすにせよ、剣を構えようと思った。

だが、手足が動く気配はなかった。

ロボットがすぐそこまで来ているというのに、限界を迎えた体が脳からの命令を無視する。

そこら辺の人体構造がどうなっているのかは知らないが、ともかく動かない。

地面に垂れた剣すら、ピクリとも動かなかった。

俺はここまでなんだろうか。

すべてがスローモーションのように見えた。

俺が死んだとしても、せめてみんなは守らなければ……。



『それで、お前のことは誰が守るんだ?』



不意に晶の声が聞こえた。

こんな言葉、晶から言われた覚えがないが、この声は晶のものだろう。

そういえば、呪いが発動していた迷宮での記憶が一部飛んでいたな。

そのとき言われたのだろうか。


腕から垂れ下がった剣がピクリと動く。



『勇者は、みんなを守るためにいるんじゃない。お前の力は魔王を倒すために使うべきだ』



全身の感覚が戻ってくる。



「そうだ。俺の力は魔王を倒すために」



こんなところで倒れるわけにはいかない。



スキル『限界突破』――発動



無風だったはずの俺の周囲に突然突風が起こり、髪が巻き上がる。

今まで動かなかったのが嘘のように体が動く。

あれだけ脅威に感じたロボットの攻撃を俺は片手で持った剣で受け止めた。

後ろには一切衝撃はいっていない。



「でもな、晶。俺はお前のように切り替えられないし、無情になれない。……俺は、自分も守り、みんなを守り、それでもって魔王も倒す!」



両手で剣を持ち、力をこめる。

一瞬だけ拮抗した力は、ロボットが吹っ飛ぶことで決した。

湧き上がる思いをそのままぶつけるように、ロボットが地面に衝突しないうちに追いかけ、剣をロボットに叩き込む。

あれだけ攻撃が入らないと苦しめられた装甲はあっさりと俺の剣を通し、その腕はあっという間に細切れに分解された。

さらに剣を振るい、足もバラバラに崩れる。

四肢を分解されたロボットは地面に激突した衝撃でさらに下半身が吹き飛んだ。

螺子やら歯車やら、様々な部品があたりに飛び散る。



「っはぁ、はぁ」



そして俺も地面に倒れこんだ。

喉の奥が悲鳴を上げている。

どうやら『限界突破』中は息をしていなかったらしい。

ロボットが完全に停止しているのかも確かめずに細山さんが駆け寄ってきた。

もし完全に倒しきれていなかったらどうするんだ。

危ないな。

酸素が足りずに意識が朦朧とした中で考える。



「佐藤君!しっかりして!!」



細山さんの『治癒』と、上野さんの『解毒』によって視界が光に包まれた。

どうやらいつの間にか上野さんのスキルが切れていたらしい。

なるほど、体が動かないと思ったら、疲れももちろん原因の一つではあるが麻痺毒が体中に回っていたようだ。



「無茶しすぎよ!!」


「ホンマやわ!心臓止まるかと思った!」



魔物を倒したにもかかわらず女子二人からの叱責に思わず苦笑が漏れる。

こうした時間が嫌いではなかった。

と、緩んだ空気に鞭を打つようにジールさんが声を上げた。



「警戒!!まだ動いています!!」


ガバッと起き上がると、近くに落ちていた倒したはずのロボットと散らばった部品が小刻みに震え、動いていた。



「まさか、まだ動くのか!?」



愕然としながらも、地面に落ちていた剣を拾って二人を後ろに庇いながらじりじりと後退する。

小刻みに動いていたロボットが地面から浮き上がり、部品がその周りを浮遊する。

俺は喉の奥でうめき声をあげた。



「まさか、自己再生か?」



俺の呟きを肯定するように部品がそれぞれあった場所へ、剣に斬られたものも自分たちでくっつきながら元の状態に戻る。

まるで逆再生の動画を見ているような感じだった。

再びロボットが万全の状態で俺たちに刃を向ける。



「……こんなの、どうやって倒せばいいの?」



俺の背で細山さんが震えた声を上げた。

それと同時に俺の手から剣が抜け落ちて地面に転がる。

本当の限界がやってきた。

剣を取る力もなく、下手に動けば後ろの二人ごと真っ二つだろう。

俺はロボットをにらみつけた。


その時、木々の間から声が響いた。



「ほう。ここまで“ウサ子十一号”を消耗させたのは森の主以来だな。とても興味深い」



この状況に不釣り合いな幼い声に視線を彷徨わせる。

おそらく十歳くらいの少女の声であるにもかかわらずその口調は尊大だ。



「なんだ、もう戦えんのか。その状態で女を守ろうとするとはお前、我が愚息よりもよほど男らしいではないか。……温情をくれてやっても構わんぞ」



いつの間にか目の前にまで迫っていた瞳がいたずらっぽく細められた。

俺よりも頭二つ分は低いはずなのに、どこか人を見下したような口調のせいか俺が彼女を見上げている感覚がする。

その後ろには今まで戦っていたものとよく似たロボットが控えていた。

こちらに攻撃しようと動いていたロボットも行動を停止している。

どうやら助かったらしい。

そこまで思考に至った俺は安心感からか地面に崩れ落ちた。

意識はかろうじて保っているが、体が動かない。

ようやく終わった。





次から主人公目線主体になります!

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