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第177話 ~言いたいこと~



道なき道というのはこういうことを指すのだろう。

現在、魔族は他の種族とのかかわりを一切断っている状態であり、それが何百年も続いている。

魔族領に一番近い獣人族領の場所は深い森で覆われており、その周辺でさえ、避けているように人工の道は全くない。

その森にまだ入ってはいない今でも道なき道を通っている。

獣道さえないのがいっそ不気味だった。


迷いなく進む先頭のクロウはどうやら合流地点への直線方向に足を進めているらしい。

森には大型の魔物が暴れた跡こそいたるところにあるが、ほかの動物は一切存在しないような不気味な静けさに満ちていた。

それも人間や動物が近づかない要因であるのだろう。

顔の周りをブンブンと煩わしかった虫もめっきり姿を見せなくなった。

そんな場所にずかずかと足を踏み入れているわけだが、森の奥へ、魔族領へと近づくにつれて襲ってくる魔物の数がどんどん多くなっている。


リアが常時結界を張ってくれているおかげでそこまで張りつめて警戒はしていないが、それでも常に神経を尖らせていないといけないこの状況はストレスが溜まっている。

迷宮とは違い、全方向に注意を向けなければならないのは骨が折れた。

先に行った勇者たちもストレスを感じたことだろう。

勇者たちは無事に切り抜けられたのだろうか。

いや、そもそも勇者たちはこの道を通ったのか?

地面に人間の足跡が全くない。

あるのは大きな爪痕のみで、小動物がつけたような小さなものすらなかった。


辺りの様子を観察しながら、そういえばと思い出す。

俺の稽古は基本的にサラン団長がつけていてくれたため、ジールさんの実力はよく知らない。

迷宮の中で、重たい鎧をつけたまま壁を走るという人間離れした芸当も軽くこなしたことから、相当な機動力を有しているのはわかるし、複雑な連携技の片翼を一人でこなしていたが、単純な剣の戦闘力の方は大丈夫なのだろうか。

クロウのお墨付きがあったから勇者たちを任せたが、本当に大丈夫なのか?

いや、戦闘力は置いといて、道に迷ったりなんてしていないだろうな?

こんな時こそ、リアルタイムで通話やメッセージのやり取りができる携帯電話が欲しい。



「アキラ様、少しよろしいですか?」



勇者たちとの合流地点へ急ぐ中、俺はリアに声をかけられて歩みを緩める。

先頭にクロウ、次にアメリア、アマリリス、リアときて殿の俺の順で行動しているため、距離的には会話しやすかった。


意外とアマリリスは俺たちのスピードについて来れている。

幽閉されていたため運動不足になっているかと思ったが、みんなで一緒にあの狭い牢屋の中でできる限り健康的に過ごしていたらしい。

あの中の一人が医者だったとか。

とはいえ戦闘職ではないのでリアよりも体力は劣るらしく、アマリリスのスピードが遅くなり始めた時にはリアかアメリアが彼女を抱えて進んでいた。

エルフ族の王女と獣人族の元王女が次はどちらが抱えるかを楽しそうに言い争っている姿と、ひたすらに恐縮している人族という構図は本当に見ていて飽きない。


リアとはウルクを出てからアマリリスについて少し話したっきり無言だったのだが、俺と話すために考えをまとめていたのだろうか。

クロウとアメリアはちらりとこちらを見たが、気を利かせて会話が届かないくらい遠くに離れてくれた。

リアの顔色から聞かない方がよいと判断したのだろう。

クロウも、こういう気遣いができるならぜひとも日常生活で生かしてほしい。



「で、なんだ?」



二人が声の届かないところに離れたのを確認してから、リアを見下ろす。

胸の前で杖をぎゅっと握って、意を決したように俺を見上げた。



「こんなことを言うのも変ですが、獣人族の一人としてあなたに言いたいことがあります」



俺は息を呑んだ。

このタイミングで言うことがあるとするならば、それはグラムのことだろう。

朝は何かとバタバタしていて忙しかったし。

十中八九、俺が殺した人間のことだ……。

バクバクと心臓が荒れる。

まるで、俺がリアからの言葉を恐れているかのようだ。



「おい、来るぞ!!」



リアが口を開こうとしたちょうどその時、クロウの声が森に響いた。

迷宮に長時間潜っていた癖ですぐさま臨戦態勢になるが、その魔物はすぐさまアメリアの『重力魔法』の餌食となった。

どうやら、アメリアとクロウは俺とリアがちゃんと話すべきだと思っているらしい。

アメリアに片手をあげて礼を言うと、にっこりと笑ったあとにクロウの隣に並んだ。

あいつら、師弟関係になってからよく話すようになったな。

アマリリスは森に生えている珍しい薬草に目を輝かせてあっちこっちにフラフラしていた。

まあ、クロウが見ているから大丈夫だろう。



「アキラ様、よろしいですか?」



こっちはこっちで話を続けるつもりらしい。

俺、こういう真剣な話を対面でするのは苦手なんだが。



「あ、ああ、悪い。続けてくれ」


「では、改めて。元王女として、アキラ・オダ様。我が種族が大変ご迷惑をおかけしたこと、お詫び申し上げます。他種族へ迷惑をかけたばかりではなく人身売買に監禁、王族であるにもかかわらずにそれらの隠蔽。そして迷宮氾濫の危機を救ってくださった勇者様に対する対応。他にも挙げればきりがありません。本当に申し訳ありませんでした」



頭を下げるリアに俺はどうするのが正解なのかわからずとりあえず下げられた頭をポンポンと叩く。



「頭を上げてくれ。俺は特に気にしてない。そもそも、この世界に来た時点で理不尽なことばっかりだったしな」



俺が俺のためにした行動に謝られる筋合いはない。



「それよりもリア自身はどう思ったんだ?アマリリスのことも含めて」



アマリリスのこと、そしてこれから同行するということを含めて説明したとき、リアの反応はなかった。



「叔父……元叔父のことを、私は許すことができません。同じ獣人族として今までの人身売買のこと、クロウ様の妹様のことも。そしてアマリリスさんのこともです。死んで当然だと、そう思っています。だけど……」



そう言ってリアは顔を俯かせる。



「だけど、クロウ様の敵をアキラ様がとったこと、どうしても納得はできません。アキラ様にも理由があったのだと理解はしています。だけど、このままだとクロウ様は生きる理由がなくなってしまう。数十年越しの悲願が叶った人間がどのような行動をとるのか、私が分かっていないとお思いですか?」



それは俺も分かっていたはずのことだった。

今のクロウはかなり危うい。

妹の仇を俺を介してとってしまったクロウはいつ死んでもおかしくはないだろう。

そもそも老化が始まってかなり時間が経ってしまっている。

こうして俺たちを魔族領まで案内し終えたとき、クロウがどんな行動をとるのか、想像に難くない。



「そうだな。俺もクロウもかなり考えなしだったとは思う。だが、クロウもかなり悩んだ上での決意だってことはわかってやってくれ」



俺がそう言うと、リアは涙が滲んだ目で頷く。



「わかっています。わかっているんです。……でも、クロウ様は私に言いました。“妹の復讐を考えた時点で、それを若者に押し付けた時点で地獄行きは決まっている”と。これが終わったらクロウ様は幸せになることも生きることもせずに地獄に逝くおつもりなんです。そんなの、……私は耐えられません」



こらえきれなかった涙がポロリと地面に落ちた。

俺には、その涙を拭う資格はない。

……本当に、何やってんだクロウは。

俺はため息をついて上を向く。

ついでに上空を泳ぐようにして漂ってきたクジラの魔物を『影魔法』でサクッと頭部を落として食料を入手する。



「とりあえず飯にしよう。そっからクロウにどう伝えればいいのか考えような。俺も協力するから。もちろんアメリアや夜も」



アマリリスはどうかわからないけど、きっと協力してくれることだろう。




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[一言] ↓ほんまやな
[一言] えっサクって…そんな簡単に…
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