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第173話 ~攻撃不可~ ジール・アスティ目線



森の奥へと進みたい私たちだったが、その歩みは思っていたよりも難航していた。

魔物の出現により苦戦を強いられていたのだ。



「そっちにいったぞ、ナナセ!!」


「了解!!とりあえず地面に落ちてくれ!――『ウィンドブレード』!」



アサヒナ君の声でナナセ君が魔法を放つ。

風魔法師が一番最初に教えてもらうという超初級の魔法だというのに、ナナセ君の『ウィンドブレード』は中級並みの威力があった。

よく見ると周囲の風が彼に集まっていっているのが分かる。

今が戦闘中でなければ今すぐにその威力は何をどうしたら出るのか問いただしたいというのに。

空中にいた魔物が地に沈む。

その好機を逃さず、アサヒナ君とサトウ君が各々の武器を構えた。



どうしてまた戦闘をしているのかという質問に答えるには約五分ほど時間を遡らなければならない。

木の魔物――トレントから逃れて合流した私たちは森の道なき道を歩き、できる限り魔物に遭遇しないように注意を払っていた。



「そういえば、迷宮で渡されたあの玉、なんだったんだろうな」



ワキ君が調教した猫の後ろを歩きながら呟く。

たしか、カンティネン迷宮で低層にもかかわらずミノタウロスが出た時の調査報告では、サトウ君が使った魔物除けの玉が魔物を呼び寄せたとあった。

あとでしっかりと話を聞かなければならないと思っていたが、あのあとサラン団長が死に、うやむやになってしまっていたな。

ミノタウロスを倒した肝心のアキラ君はあの騒動で城を出てしまったし、今思うとそれも王たちの策略の上だったのだろう。



「わからない。あのとき最後に俺が使ったのはあの王女に渡されたものだった。他の班のみんなと協力しながら魔物と戦闘しないために使ったんだ。……いや、俺のは確か色が違ったような……」



サトウ君の最後の呟きに私は目を見開いた。

魔物を呼び寄せるなり退けるなりする煙玉は冒険者ギルドでも通常販売しており、玉の色でその性能は違ってくる。

勇者たちには追々教えるつもりだったが、王たちが仕掛けるのが先だったらしい。



「何色だったか覚えていますか??」


「た、確か赤色だったと思います」



少し上空に視線を向けて答えたサトウ君に、やっぱりなという感想と自身が守護していた王族に対する失望を覚えた。



「他の玉が違う色だったことから察しているとは思いますが、赤の玉は強い魔物を呼び寄せる玉です。普段は低層でもレベル上げができるようにするために使われますが、思うにサトウ君が持っていた玉のみ、魔物を退けるのではなく、呼び寄せるものだったのでしょう。私たち騎士団も持ち物の確認を怠ってしまいました。申し訳ありません」



頭を下げると、サトウ君たちは慌てて頭を上げるように言ってくる。

その謙虚さを王たちにも分けてほしいくらいだった。

昔は人を使い捨ての道具のように使う人ではなかったはずなのだが。

だからこそ私たち騎士団は王を守護する騎士団だった。

間違っても王から人間を守護する役目ではなかったはずだ。



「にしても、どうしてサトウ達を狙ったんだろうな?」


「さあ、勇者が必要なくなったとか?」



ナナセ君の言葉に私は首を傾げる。

勇者召喚の前、王たちは殊更に勇者召喚にこだわっていた気がする。

それも、王妃様が亡くなってから王が何かにとり憑かれたように調べ物をするようになってからだったか。

そうだ、全ては王妃様が亡くなってから歪みだしたのだ。

遥か昔のように思う、陛下は私たち騎士団のことも気にかけてくださる心優しき王だった。



「……さあ、それはともかく、進みましょうか。このまま魔物に出会わないことを祈ります」


「ジールさん、それを俺たちは"フラグ"って呼ぶんだよ」



あえて話題を避けた私の言葉を気にも留めずにナナセ君がげんなりとした顔で言う。

ここにアキラ君がいないことに心の底から安堵した。

彼なら私が少し言い淀んだことすらも聞き逃さないだろうから。


そして歩き出した私たちだったが、突然周囲が影になり、警戒して各々の武器に手をかけた。

城に来たころと比べて格段に慣れたその動作に感心するとともに私も腰の剣の柄に手をかける。

恐る恐る頭上を見上げ、絶句した。



「クジラ!?」



サトウ君はあれが何か知っているらしい。

視界全体を覆いつくすような巨大な生物が悠々と空に浮かんでいた。

大きな口に魚を思わせるような体をしている。

わずかだが鋭い牙も見えた。

かろうじて見える小さな黒い瞳は私たちを見下ろしている。

どうやら敵として認識されてしまったらしい。

先ほど出会わなければよいのにと思ったばかりだったのだが。



「飛行系の魔物は地面に落とさなければ届きません!遠距離系の魔法でひとまず地面に落としましょう!」



声をかけると、早速魔物と比較的距離が近かったアサヒナ君が空に魔法を放つ。



「我が魂を燃やし、我が敵を焼き尽くさん――『インフェルノ』」



アサヒナ君の炎魔法が視界いっぱいを覆いつくす。

炎魔法の上級『インフェルノ』。

地獄の業火が空飛ぶ魔物を焼き尽くさんとその巨体を覆った。

この世界でも使える人間が限られるような上級魔法の一つ。



「……効いてない!?」



だというのに、煙が晴れたあとの大きな魔物には傷一つついていない。

ただ、飛んでいる場所は最初よりもかなり地面に近づいている。



「魔法が効かないだけかもしれない!とりあえず地面に落としてみよう」



サトウ君の号令で各々自分にできる遠距離攻撃を試してみる。



「だめだ!さっぱり効いてない!!」



ワキ君が絶望したようにうめき声をあげた。

全力ではないにしても、確かに攻撃が当たった感触はあった。

しかし、その巨体はびくりともしない。

魔法が効かないだけの魔物ならカンティネン迷宮でも何度か遭遇したことがある。

だが、今の攻撃にはワキ君が放った矢や、ホソヤマさんやウエノさんが投げた魔物に効く毒が塗ってある短刀もあった。

それらすべてが確かに魔物に届いたはずなのだ。

だというのに魔物は一切の傷を負うことなく、いまだに空を飛んでいた。


私はこんな緊迫した状況の中で思わずため息をつく。

なるほど、魔族領に近づくにつれてこんな常識の通じない魔物が増えていくのか。

アキラ君が彼らの、そして私の介入に難色を示すのも無理はない。

彼の心配は本当に分かり難いことこの上ないが。

知り合ってそれほど経っていないはずだが、どこぞの不器用な鍛冶師と似ている。



「攻撃が来ます!!」



ツダ君が声を上げて非戦闘員の前に大盾を掲げる。

彼も以前と比べて随分と成長したものだ。

この森がそうさせるのだろうか。

そんな有り得ないことを考えて、私はそっと苦笑した。



『アアアアアアアアア!!!!!』



叫び声のような鳴き声と共に針のような鋭い何かが魔物の腹の下から無数に発射される。

そのすべてを剣で弾き、彼らは無事かと視線を巡らせた。

そして再び苦笑する。

傷ついていても、彼らの目は死んでいなかった。



「そっちにいったぞ、ナナセ!!」



ああ、今ならあれだけ弟子をとらないと言っていたのにクロウ様がアメリア王女に絆されかけたのが分かる気がする。

人が、教え子が成長している姿を見るのはとても満たされる気分だ。

もっと見たいと思うほどに。



「了解!!とりあえず地面に落ちてくれ!――『ウィンドブレード』!」






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