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第151話 ~ラウル~



「とりあえず、本当にすいませんでした!ラウル君を打ち首にしてもかまいませんので、どうか冒険者ギルドにはおとがめなしでお願いします!」


「てっめ!俺を売りやがったな!!」



悪口を言っていた冒険者たちは俺の言葉で酔いがさめたのか、顔を青くして冒険者ギルドから出て行ってしまったため、ケリアのすすめで空いた席に座ったのだが、お茶請けが夫婦漫才というのは面白い。

他のギルド職員も止めるどころか笑いながら見ていた。

ちなみに夜は獣人族を怖がらせないように置物のように俺の肩の上でじっと動いていないが、時折プルプルと震えて笑いをこらえているらしい。



「冒険者ギルドにも、あなたたちにもおとがめはない。私の方こそ心が狭かった。ごめんなさい」



目の前で繰り広げられていた夫婦漫才にアメリアもすっかり毒気を抜かれたのか、言いすぎたと頭を下げた。

それにケリアが慌てる。

一方、当の本人はそっぽを向いて頬を膨らませていた。

ガキか。



「いえいえ!すべてはラウル君が悪いのです!ほら、ラウル君も謝りなよ」



陽にさらされたことのないような白くて細い腕のどこにそんな力があるのか、ケリアはラウルの頭を押さえつけて頭を下げさせた。

この子、本当に人族か?

『世界眼』を疑ったのは初めてだ。



「いってぇな!何すんだよ!」


「元はといえばラウル君が悪口言うからだよ!それに、図星を指されたからって初対面の人に殴り掛からない!そう前に約束したでしょ!ここ出禁にするよ!」



これはいつ終わるのだろうか。

ケンカップルっていうのは彼らのことを指す言葉のだろうとどこか納得した。

喧嘩するほど仲がいいというのをまさに体現している。



「お二人さん、アメリア王女様も"闇の暗殺者"様も呆れてらっしゃるから」


「あ、も、申し訳ありません!」



藍色の和服を着た糸目の人族の男性が声をかけて、やっと二人はじゃれ合いをやめた。

頭を下げるケリアに気にしていないと手を振りながら、俺は目を細める。

顔ばれしている上に表にも名前が轟いている暗殺者って本当にどうなんだ。

というか、俺は暗殺者らしいことはしたことないんだが。



「お初にお目にかかります。ウルク冒険者ギルドで副ギルドマスターをしております、マモルと申します。お二人の噂はかねがね」



やけに日本人っぽい名前と服だな。

いや、いまどき和服を着ている人の方が少ないか。

人族にある大和という国は日本っぽい国だというから、そこ出身なのだろうか。

マモルは俺とアメリアの指に視線を落とした。



「どれほど偽物が現れようと、それほど深い"指輪"をしているものはお二人の他におりませんので」



マモルの視線をたどると、左手の薬指だった。

かなり深くつけたその痕は他の傷とは違い、瘡蓋に覆われることなくそのままの状態を保っている。

アメリアの指も同様だった。



「なんだ、こちらでも知られているのか」


「はい。ですがお二人のように本当に互いの指を傷つけるものは少なく、普通は鉄の輪を指にはめるのですが、冒険者同士であるなど、番がいつ死んでしまうかも分からない人はお二人のようにする方が多いです」



その言葉にアメリアは首を傾げた。

驚いていない表情を見る限り、"指輪"のことを聞いたことがあるらしい。



「でも、リアは城では痕をつけている人の方が多いって言ってた」


「城では色恋沙汰が多いと聞きますから、おそらくマーキングのようなものかと。痕はよほど強力な回復魔法を掛けなければ完全には消えませんし」



なるほど、浮気防止のような役割もはたしているのか。

知らなかった。



「とにかく、このお二人は偽物ではありませんよ、ラウル様」



どうやら今までのセリフはラウルに説明していたものだったらしい。

が、当の本人はぼんやりとしている。



「……あんた、本当に"闇の暗殺者"なのか?」



マコトの言葉に返事はなく、くすんだ金の瞳がまっすぐ俺に向けられた。

俺は先ほどの子供のような癇癪を起していたときとの違いに戸惑いながらも頷く。



「その名前はあまり好きじゃないんだが、俺だな」



それを聞くなりラウルはばっと地面に座って頭を下げた。

どこで覚えたのか、見事な土下座だ。



「すいませんでした!!!」


「……は?」



突然のことに思わず間抜けな声を上げてしまった。

顔を上げないラウルに戸惑っていると、ケリアが横から説明してくれた。



「実はラウル君、"闇の暗殺者"様のファンなんです。ブルート迷宮で魔物の大氾濫があったときウルにいて、遠目に"闇の暗殺者"様のことを見たらしくて……」



あのときはアメリアが攫われたと知ってイラついて影魔法をぶっ放したが、あれのどこにファンになる要素があったというのだろうか。

黒い影が魔物たちを飲み込んでいくのだ。

恐れる要素しかないだろうに。

少なくとも、日本にいた頃の俺なら腰を抜かしていたと思う。



「それから"闇の暗殺者"様に似た格好をした人がいると突っかかっていっちゃって……。ラウル君馬鹿だから、憧れの人がこんなところにいるはずがないって思いこんでしまったんです」



なんだそれは。

どうやったらそういう考えになる?

俺は思わず口を開けて絶句した。

確かに暗殺者が白昼堂々と出歩いているのはおかしいだろうが、同じ格好の人にいちいち突っかかっていたらきりがないだろうに。

というか、ファンはファンでもガチな方か。



「あー……。なんで俺のファンであることと同じ格好の奴に突っかかることがイコールになるんだ?」



頭を下げたままのラウルに聞くと、くぐもった声だったが答えてくれた。



「あんたの真似してるみてぇでむかついてやった。反省はしてる」



お前は警察に捕まった人か。

思考回路が本当に馬鹿というか、向こう見ずというか……俺には理解できない。

とりあえず、この手の人間にまじめな説教が効かないのはケリアとのやり取りを見ていて分かった。



「……とりあえず、もうやるなよ。あと頭いい加減上げろ」


「うっす!」



元気よく返事をしてラウルが顔を上げた。

その瞳はキラキラと輝いている。

嫌な予感がした。




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