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第147話 ~書類~



朝早くに夜から『念話』があり、俺たちの宿の場所を教えてやると、数分後には夜とラティスネイルが部屋にやってきた。



『主殿、こちらが頼まれていたものだ』



陽がまだ完全に登り切っていない朝、アメリアもクロウも別の部屋でまだ寝ている。

夜が咥えていた書類を受け取って頭や顎の下を撫でてやると、気持ちよさそうにぐるぐると喉を鳴らした。



「ああ。助かった。ラティスネイルもありがとうな」



俺がそう言うと、ラティスネイルは頭を俺の前に差し出す。

その意味が分からず、俺はただ首を傾げた。



「……なんだ」



すると、ラティスネイルは少しだけ顔を上げて頬を膨らませる。



「もう!僕も頭撫でてって意味なんだけど!彼女相手だったら分かるのにどうして僕相手だと分からないの?」


「ああ、アメリア以外の女の心情なんか知っていても意味ないし、アメリアの気持ちだけ分かっていれば十分だろう?あと、頭は撫でない」



むしろ俺が首を傾げた。

何を当たり前のことを言っているんだこの魔族は。

すると、ラティスネイルはため息をついて天を仰いだ。



「僕、一応はコンテストで君の彼女と同率一位だったんだけどなぁ。自信失くすよ」



あのコンテストの結果は照明や角度の問題でのまぐれだったと俺は今でも思っているが。

やれやれと首を振るラティスネイルに構っていられないと夜を見ると、夜はどこか難しい顔をしてラティスネイルを見ていた。



「どうかしたのか?」



俺が夜を抱きかかえて問うと、夜の視線は今度は俺が持っている書類に向いた。

そういえばまだ中身を見ていなかったな。

ラティスネイルが変なことを言ったからだ。

俺はたたまれていた書類を開いた。

そして、その違和感に気づく。



「夜、これどこにあった?」



そのセリフを聞いて夜が怪訝な顔をしたが、首を傾げながらも答えてくれた。



「冒険者ギルドの屋根裏部屋だが。ラティスネイル様も同じ言葉を言っておられた。この書類はそんなに変なのか?偽物か?」



不安そうな夜の頭を撫でて落ち着かせてやると、反射なのかまたぐるぐると喉を鳴らす。



「いや、そういうわけじゃない。できすぎているんだよ。だが、おそらく情報は本物だ」



本物だからこそおかしい。



「もしこれがあった場所が冒険者ギルドの屋根裏部屋ならいるよね、グラムを暗殺したい人が。しかもグラムの近くに」



俺はラティスネイルの言葉に頷いた。

早くしないと獲物をとられるかもしれないな。



『ま、待ってくれ!なぜその書類が屋根裏部屋にあっただけでそう思う?普通にグラムの怠慢ではないのか』



俺はああと頷いて夜に書類を見せた。



「ほら、変だろう?」



なおも首を傾げる夜に、少し意地悪しすぎたかと笑ってどこがおかしいか教えてやる。



「この書類、まず紙が丈夫すぎる。ウルのギルドで見た書類はこんなに丈夫ではなかったし、保存方法も杜撰だった。なのにこれは夜が折った折り目以外の傷はなく、折れ曲がっているわけではない。これと同じくらい丈夫な紙を昨日王城で見たしな。あとは情報がこれ一枚に書かれてあるのはおかしいだろう?……人身売買、臓器売買、殺人、雇っている傭兵の名前。よくまとめてある。紙のことといい、まるでどこかの王様に献上するようにとっておいたみたいだ。これ一枚だけでも戦争起こるんじゃないか?獣人族の間で人身売買はご法度なんだろう?これを鍵が開いている屋根裏部屋に置いておくようにグラムに近い人がグラムからの命令だと言ったとしたら、そいつがこれを誰かに届けようとしていたか、わざと盗ませようとしていたんだろう。夜が先に見つけてしまったが」



俺の言っていることが理解できたのか、夜の顔色がどんどん悪くなっていった。



『戦争どころではない。ウルクの王家が完全に滅んでしまう。そうなればリア殿も無事で済まない』



獣人族では聞くだけでも嫌悪するくらいの人身売買をよりによって王家の人間がしていたのだ。

もちろんそうなるだろうな。


書類によると、人身売買として売られた人は獣人族だけにとどまらず、人族、エルフ族もだという。

おそらくこの中にはエルフ族領で俺に頭を下げてきた奴らの妻や子供なんかもいるのではないだろうか。

俺が目指す道にいたら拾ってやると言ってしまった手前、知らん顔はできないな。



「正直、俺はこの世界のどの国が滅ぼうが、どうでもいい。でも……」



首を突っ込んでしまった以上どうにかしてやりたい、どうにかできないかと思ってしまうのだ。

俺にできることなどたかが知れているが、リアにはブルート迷宮で結界を張ってもらったし、昨日はもみくちゃになっていたところを助けてもらった。

アメリアもリアのことを気に入っているようだし。


俺はため息をついた。

あとはその報告をどこの国にするはずだったのかを知ることが出来れば上々なのだが、さすがにそこまでは書かれていないな。



「レイティス国だ」



不意に聞こえた声に顔を上げれば、部屋の戸口にクロウが立っていた。

こいつ、こんな登場の仕方しかないのか。

いつものことながら心臓に悪い。

だが、今回は驚くよりも先に不快さが来た。



「レイティス国だと?」






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