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第145話 ~夜のウルク~ 夜目線




『本当に、主殿は従魔使いが荒い……』


「魔族使いもね~」



夜の街に人の姿はほとんどなく、ぽてぽてと歩く黒猫一匹とそれに続く人間以外は誰もいない。

ウルクの夜は他の国の町よりはるかに静かだ。

他の町はこの時間でも明かりがつき、人が数人は歩いている。

対してウルクは開いている店は一軒もなく、明かりどころか街灯すらない。

だがその分、星がきれいに見えた。



『しかし、まさかラティスネイル様がついて来られるとは思いませんでした』



俺の知っているラティスネイル様は、誰にも従わないし誰の頼みも聞かないような自由奔放な姫だった。

自由すぎて毎日魔王様は頭を抱えていらしたが。

毎日毎日魔王様に悪戯を仕掛けては、いつも誰かを困らせていたものだ。

あのマヒロでさえラティスネイル様の悪戯にはかなわなかったのだから。



「僕は日々楽しみを追及しているからね~。面白いと思った方についてるだけだし、君についてきたのもこっちにいた方が面白いと僕が思ったからだよ。君の主君は特に面白いしね。きっと僕が君についていくことも読んでいたんじゃないのかな?」



やはりこの方は良く分からない。

昔から、この方は俺と合わないのだろうなと思っていた。

俺にはこの方の生き方も考え方も何一つとして理解できないのだから。


ラティスネイル様は藤色の瞳を楽し気に細めて辺りを見回した。



「さてと、おニーサンに頼まれたの、次は情報の裏付けだったよね?」



俺は気を抜けばため息をつきそうな気持ちを切り替えて頷いた。

ラティスネイル様の喋り方はどうも気が抜ける。



『はい。ウルクの冒険者ギルドマスター、グラムの悪事を暴く。具体的にはグラムまたはその周辺の人物が生成していると思われる"強化薬"なるものを見つけ、どこに流出したかを突き止めろ。……だそうです』



ついでにレイティス城へ届けられているのが分かれば上々。

……本当に、従魔使いが荒すぎるぞ、主殿。

こんなの、ラティスネイル様がいなければどうにもできなかった。

ラティスネイル様が言っているとおり、彼女が俺についてくるのを読んでいたのだろう。


主殿と別行動をしてから、エクストラスキル『魔力隠蔽』のおかげで一見人族に見えるラティスネイル様がターゲットに接近し、俺がそのすきに室内に侵入して情報をいただく、という方法で色々と調べてきた。

もし俺の存在がばれても、ラティスネイル様のスキル『魅了』で切り抜けられる。

本人はこの使い方は強盗のようだからあまり『魅了』を使いたくないらしいが、俺の主殿のためにもぜひ頑張ってほしい。

マリやウルクでも同じように情報の裏付けを頼まれた際にこうして切り抜けた。


おそらくウルクでも通用すると思うが、この国は就寝時間が早すぎるのだ。

もはや起きている人はほとんどいないだろう。

それもこれも、ラティスネイル様がいたるところで道草を食ったせいであり、本当なら日が暮れる前にはウルクに到着している予定だったのに、大幅に遅れてしまった。

これでは主殿からのお願いが達成できないではないか。



「さ、行くよヨル君」



ラティスネイル様の言葉に顔を上げると、当の本人は怪しげな顔でウルクの冒険者ギルドの建物を見ていた。

何をする気だろうか。




「準備はいいかい?」


『……あの、一体何を』



ラティスネイル様は冒険者ギルドの建物の裏手に回ったと思いきや突然俺の首の後ろを掴んで持ち上げた。



「じゃ、いってらっしゃいっ!!」



そう言ってラティスネイル様は俺を力いっぱい投げた。



『な、なにをするのですかぁぁぁぁぁ!?』



叫びながら俺は屋根の上に着地した。

他の人間に見つかってはいけないのに思わず声を上げてしまったが、俺は悪くない。

なんの相談もなく俺を放り投げた人が悪いのだ。

文句の一つでも言ってやろうと下を見下ろせば、ラティスネイル様はあらぬ方向を見て笑っている。



『何を……』



何を笑っているのかと見ている方向に視線を向けて俺はハッと息をのんだ。



「貴様!!こんな時間にこんなところで何をしている!!!」



光がたくさん迫ってきたと思えば、ラティスネイル様はすぐに兵士に囲まれてしまった。

険しい顔の兵士たちとは対照的に、ラティスネイル様はへらへらと笑っている。



「いやあ、僕旅人で今日初めてこの町に来たんだけど、宿をとる前にみんないなくなっちゃってね、迷ってたとこだったんだ!今日は野宿することにするから兵士さん、街の外れまで送ってくれない?というかここどこ?」



よどみなくスラスラとその口から流れ出る嘘に俺は驚いた。

自称正義の味方を名乗っているだけあって、今まで嘘をついたことは見たことがない。

嘘をつく人を嫌っていたし、嘘自体嫌っていたようにも思う。

そんなラティスネイル様が、兵士と戦うことなく切り抜けるためだとはいえ、嘘をつくとは。

これは、絶対に失敗してはならないやつだ。



「お前、ここは冒険者ギルドの裏手だぞ?町の外れどころか町の中心じゃないか。それに、案内なしにこの町を歩くのは危険だといわれなかったか?」


「嘘!?本当に?僕って方向音痴なのかな~?」



何回もあるのか、慣れた様子の兵士たちにラティスネイル様が連れて行かれる。

兵士たちの目が離れたとき、ラティスネイル様はこちらにウィンクを飛ばしてきた。

しっかりやれよということだろう。

俺はそれに応えるように頷いて、鍵が開いている天窓から中に侵入した。




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