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第136話 ~イグサム王~



山の谷間、渓谷の中にその巨大な建物はあった。

レイティス国の王城よりも大きく、エルフ族の王城よりも静かで涼しい。

血の気の多い獣人族の王城なので、騒がしいと思っていた。



「ここが王城です。足元が滑り易くなっておりますのでお気をつけて」



水路をまたぐようにして建てられたせいか、じめじめとしているが嫌な空気ではない。

俺は上を見上げてため息をついた。

城の一番高い場所が見えない。

なんというか、某魔法魔術学校に似ているな。



「ここ、山に囲まれてるが、山の上から敵に奇襲されたらひとたまりもないんじゃないか?」



船から降りた後に上を見上げながらリアにそう言ったが、リアは微笑んで首を振った。



「王城は上空、地下も含めて球体の結界が覆っており、侵入者の心配はありません」



リアがドヤ顔しているということは張ってあるのは『神の結界』か。

ふうんと返事をして、うっすらと膜が張ってあるようにも見える上空をもう一度見上げた。

『神の結界』なら大丈夫なのか?



「さ、アメリア様、アキラ様、イグサム王への謁見の間はこちらです」



謁見の間といって通されたのはとてつもなく広い部屋だった。


レイティス城といい、どうしてこんなに大きな部屋が必要なのか。

学校の生徒会室並みの広さでも十分じゃないか。

実質、謁見の間にいたのは、玉座に座っている王様らしきライオンの獣人族と、玉座の横に立っている騎士らしき馬の獣人族だけだった。

気配察知もこの二人しかいないと告げている。

つまり、俺たちを合わせて五人でこの広さ。

落ち着かない。



「お義父様、エルフ族王女アメリア・ローズクォーツ様及び勇者召喚者アキラ・オダ様をお連れいたしました」



リアが一礼して言うのに合わせて俺たちも頭を下げる。

勇者召喚のことは自分からリアに暴露したから仕方がないか。

色々と面倒だからできるだけ隠しておきたかったのだが。

横に立っている騎士と何やら話していた王は、声をかけられた瞬間顔を上げてこちらを見た。



「おお!!すまないな、リア。お二方もこちらへどうぞ」



にっかりと笑って言っているが、その目は俺のことを嘗めまわすように見ていた。

俺はその視線に気づかないふりをして玉座の近くによる。

横に立っている騎士はじろりと俺を見て、ふんと鼻を鳴らした。

どうやら、アメリアはともかく俺は歓迎されていないらしい。

リアが玉座の少し後ろのあたりに立つと、イグサム王が話しだした。



「よく来てくださった、アメリア殿、オダ殿」



朗らかに笑って、イグサム王は玉座から立ち上がった。

他の種族の王様に対する礼儀なんて知らないため、俺はアメリアの真似をする。

この王が依頼があるというから来ただけなので礼をする必要性は感じないが、俺の行動でアメリアがとやかく言われるかもしれないのは避けたい。



「お久しぶりです。イグサム王」


「久しぶりだなぁ!どうだ、例の件考えてくれたかな?」



イグサム王がそう言うと、アメリアは苦虫を百匹ほど嚙み潰したような顔をした。

例の件とは何だろうか。

というか、アメリアの顔すごいな。

そんなに嫌なことなのか。

他人事のようにそう思っていると、アメリアがこちらをちらりと見た。



「私にはもうアキラがいますから」



頬を赤く染めるアメリア。

本当に、何の話だ。

イグサム王は一瞬だけ眉を顰めたが、すぐに元の朗らかな笑顔に戻った。



「そうか、それは残念だ。……では、挨拶はここまでにして、本題に移ろう」



あまり残念そうな顔をしていないイグサム王が玉座についたのと同時に隣に立っていた騎士のような人が一歩前に出る。



「アメリア王女、お初にお目にかかります。私はイグサム王付きの近衛騎士、ヴィクターと申します。以後お見知りおきを」



おそらく女受けする笑みを浮かべてアメリアだけに一礼して、俺を一瞥する。

アメリアはヴィクターに頷いてイグサム王を見た。

そっけない対応にヴィクターが額に青筋を立てたのが見えたが、イグサム王が話し始めたため視線がそちらに移る。



「まず、養子とはいえ娘をブルート迷宮で助けていただいたと聞いた。一国の王として、義父として礼を言いたい。ありがとう」



玉座の上で頭を下げるイグサム王にアメリアは首を振った。



「ことの発端は私が魔族に誘拐されたこと。リアは助けに来てくれただけだから、むしろ私が悪いし、リアを助けたのはクロウとアキラで私じゃない。」


「……そうか。では、クロウにも礼をせねばな」



おい、俺にはないのか。

先ほどから嫌がらせのように無視され続けている。



「そして、本題はもう一つあるのだ」



そこでようやくイグサム王は俺と目を合わせた。

その瞬間、俺の『危機察知』があらん限りの警報を鳴らす。

遅すぎるだろう。

回避不可能な段階になって鳴るのはスキルとしてどうなのだろうか。



「勇者召喚者であるアキラ・オダ殿だったかな?頼みを聞いてもらえんか」



俺は思わず漏れ出そうになったため息を押し殺した。




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