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第133話 ~水の国~



勇者たちと別れてちょうど二週間後、俺たちはウルクに到着した。


当初の予定より遅れたのは、歩く道すがらにクロウがアメリアに初代勇者の技、エクストラスキル『反転』の基礎知識を教えていたからだ。

エクストラスキル『言語理解』を持っている俺でも難解な内容で、だが勉強にはなった。

まあ、家事をしている間は聞いていないので完璧に理解はできていないが。

ちなみにアメリアは『魔法生成』でスキル『理解』を作ってどうにか話についていっているらしい。

『言語理解』のように万能ではないが、難解な話を聞くときに便利だとか。

教師をしていたからか、クロウは教え方がうまい。

でも、どちらかというとサラン団長の方がやっぱりうまいな。




「さて、着いたな。水の国ウルク」



俺とアメリアは歓声を上げた。

周りに観光客らしき人が同じような声を上げているので特に目立っていない。


しかし、思っていたよりも素晴らしい街だ。

建物の間を水路が通り、そこを船が人を乗せて行ったり来たりしていた。

水路は一つ一つの船が小さく見えるくらいに幅が広く、ぶつかる心配は万に一つもない。

街の建物は全体的に植物の緑で覆われていて、自然の中にいるということが実感できる。

しかも水路の水は薄く青く、底が見えるくらいに透き通っていた。

この景色なら一日中見ていられるかもしれない。


歓声を上げる俺たちを一瞥して、クロウは踵を返した。



「予定通り、私は宿をとってくるからお前たちは観光でもしていろ。リアとの待ち合わせは町にある中央噴水の前だ。帰りは日が暮れる前にそこに居れば迎えを寄こす。いなければ野宿でもするんだな」



そう言い残すと、さっさと行ってしまった。

普通、初めて来るところに知り合いを置いていくか?



「ま、いいか。デートしよう、アメリア」


「デート?」



手を差し出すと、アメリアはおずおずとその手をとった。



「ああ。なんでもわがままを聞いてやる。この二週間勉強頑張ったご褒美だ」



そう言ってやると、アメリアは頬を赤く染めて嬉しそうに隣に並んだ。



「ご褒美なんて初めてもらう」



ポツリと呟かれた言葉に微笑む。


アメリアはエルフ族の王族で、今まで勉強をする、努力をすることが当たり前だったのだろう。

真面目なアメリアのことだから、周りが止めても同胞の為に無理をしていたのだと思う。

加えて親は現王。

頑張ったご褒美なんて与えられなかったに違いない。



「俺が初めてで何よりだよ。……とりあえずリアとの待ち合わせ場所にたどりつかないとな」



最大国家と呼ばれるからにはそれなりに大きいだろう。

簡単な道くらい教えてくれても良かったと思うんだが。

右も左も分からないのに、中央なんて分かるわけないだろう。



「アキラ、あれ食べたい」


「ああ。俺もいいなと思っていた」



アメリアと俺が惹きつけられたのは、魅惑的な香りを漂わせている一軒の店だった。

匂いとしては、エビやカニなどの魚介類を焼いている匂いに近い。

かといってエビやカニではないらしい。



「親父さん、それ二つくれ。そんで、中央噴水ってどっちか分かるか?」


「おっ!毎度あり!!中央噴水はあっちの方角にずっと真っ直ぐ行ったとこだよ、兄ちゃん」



親切な親父さんに礼を言って、歩きながらそれを食べる。

見た目は完全に串焼きなのに、味は焼き魚だ。

そんで、匂いはエビ。

不思議な食べ物だな。

ちなみにこの串焼きの名前はホタテ。

ごちゃ混ぜになりすぎていないか?



「美味しいか?」


「うん。あ、次はあれ食べよう?」



わがままを聞くデートと言っても、結局はいつもの通り、食べ歩きになった。

ま、予想はしていたが。



「アキラ、こっちにも美味しそうなのがあるよ!」



船で移動するも、寄り道が多すぎて全然進まない。

リアって一応ウルクの王女じゃなかっただろうか。

こっちにも王女がいるとはいえ、待たせていいのか?



「アキラ、こっちこっち!」



でも、楽しそうなアメリア相手に強気に出ることがついぞ叶わないまま、寄り道をしまくっていた。

まあ、最近は本当に二人きりになる時間が、迷宮に潜っていたときに比べて少なかったし、情報共有も出来ないままだった。

アメリアにはまだ、この国にきた本当の目的を話していない。

もういっそのこと、このまま話さない方が良いのではと思いだす始末だ。

隠し事をしないと決めていたのにな。



「あ!アキラ、あれが中央噴水じゃない?」



視界に飛び込んできたのは、建物以上の高さを持つ大きな噴水。

実際には噴水自体がこの国で一番大きい水源で、吹き上がった水をそのまま噴水にしているらしい。

水路の水の約七割はその噴水から出た水のようだ。

エルフ族の神聖樹といい、日本とはスケールからして違うな。



「あ!お待ちしておりました!!」



見覚えのある姿がこちらに駆け寄ってくる。



「お久しぶりです、アメリア様、アキラ様!」



人懐っこい笑顔を浮かべてこちらにやってくるリアに、元気そうで何よりだと俺たちは顔を見合わせた。



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