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第127話 ~囲い~ アメリア・ローズクォーツ目線



「おい、本当にあいつを置いてきてよかったのか?」



昨日指定された場所へ景品を取りに行く道すがら、隣を歩くクロウがそう聞いてくる。

アキラは出る時間になっても寝ていたので、あのままソファーに置いてきたのだ。

今朝はどこか恭しいような口調だったのに、もう元のクロウの口調に戻っていた。


今朝のあれはいったい何だったのだろう。

私を呼ぶとき、“お前”や“王女”とかじゃなくて“あなた”だった。

そして、私を、私のしたことを知っているかのような口調で、キリカのことも理解していたような反応だった。


当時、エルフ族を襲った迷宮の魔物のことは各大陸に伝えられた。

魔族が襲ってきたときの為に、魔族や魔物関連の情報共有は義務付けられていたのだ。

報告義務の為にキリカが誤って大量に魔物の餌を撒いてしまったことは知られてしまったが、今はエルフ族が総出で当時の文献を消去したため、書物としては残っていない。

つまり、当時生きていればキリカのことを知っていても不思議ではない。

だが、何年前かは覚えていないがあれはかなり前で、獣人族の寿命を考えると覚えている人はもう生きていないはずだ。


聞き出したい気持ちにかられるが、もしクロウの反応が私の思い違いで、みんなが必死に隠してきたキリカの秘密が外に出てしまうことになってしまえば、私は……。

そう思うと聞くことが出来なかった。



「……アキラは最近無理をしすぎている。それに、今日は景品を受け取ったらすぐに宿に戻るから平気」



景品を受け取ってしまえばこの町に用はない。

アキラが起き次第すぐにでも出発することになるだろう。

アキラも、ただの寝不足だろうし、帰るころにはもう起きていると思う。



「そうか。……無事に帰れるといいんだが」



ボソリと呟かれたクロウの最後の言葉は私に届かず、空気中に霧散した。



「着いた……んよな?」



目の前の建物を見て上野さんが呆然と呟く。

クロウの言葉が聞き取れなかったのも、目の前の建物に驚いたせいだ。


昨日指定された場所にあったのは薄汚い、倒壊寸前のホテル。

とてもコンテストの景品の受け渡しをする場所には思えない。


一瞬にしてその場の空気が張り詰めた。

今日はみんなどこかピリピリしていると思ってはいたが、まさかこの事態を予測していたのだろうか。



「……っ、誰だ!!」



クロウの鋭い声に振り返ると、一人の黒服の男が立っていた。

全員の視線がそちらへ向かう。



「あなたは確か、大会委員長の……」



細山さんの言葉に目を見開いた。

確かに、よく見ないと白髪に間違えそうな白いウサギの耳とその顔には見覚えがあった。

尤も、昨日のようにビクビク何かに怯えたような気の弱い感じはなく、堂々とそこに立っている。



「……どうやら、お前狙いみたいだぞ」



クロウの声にハッと我に返ると獣人族のウサギ、コンテスト大会委員長のラパンと同じ黒服でかためた格好をした男たちに囲まれていた。

引退したとはいえ元勇者パーティーメンバーのクロウと勇者パーティーたち、それに私に気づかれることなくここまで近づくとは、なかなかのやり手だと思われる。

総勢十二名。

完全に、隙間もなく囲まれている。



「……アメリア王女とお見受けする」



その一人の口から私の名が出た。

勇者パーティーのメンバーは私の周りに駆け寄って周囲を警戒する。

その動きは、初めから予測していたような動きだった。

が、今はそれに注視する暇はない。



「そうですが、何か」



目を細めて答えると、黒服たちは顔を見合わせて頷いた。

穏やかな話し合いをする空気ではないことは、『気配察知』のスキルを取得していない私でも感じとれる。



「グラム様がお呼びだ。来てもらおう」



“グラム”の名に、私の隣に立つクロウの殺気が急速に高まるのを感じた。

クロウの妹の仇の相手だ。



「エルフ族の王女が、たかがギルドマスター風情の呼び出しに応えるとでも?」



普通なら、私のような王族を迎えるのに呼び出すなんてありえない。

向こうからやってくるのが礼儀というものだろう。


私がそう言い返すと、黒服たちは輪を狭め始めた。

どうやら力ずくでも連れていくつもりらしい。

彼らの後でラパンが下卑た笑い声をあげた。



「しかしいけませんなぁ……。こんなところに、女子供に年寄りを連れてくるとは。いつもは一緒にいる小僧も今日は連れてきて居らんようだし」



この中で唯一注意していたのがアキラだったらしい。

……勇者パーティーのことは一切知らないのだろうか。

アキラがいっていたように、情報は集めておくべきだと実感する。


私は一つため息をついて手を前に出した。



「『グラビティ』」



私の魔法によって黒服は全員膝をつく。

昔は敵と味方を分けるような器用さは持ち合わせていなかったが、アキラとの迷宮生活などで身につけた。

今朝使用した『魔法生成』のせいで膨大な魔力消費による疲弊が少し残っているが、この程度の相手ならこれで十分だろう。



「それで、私をどこに連れていくの?」



膝をついている彼らを見下ろして問うた。

きっと私の目は今とても冷たく光っているだろう。

アキラがいる場所では絶対に見せない、鋭い瞳。

もし答えないのなら、ここで拷問をしたって構わない。


私だって、蝶よ花よと育てられたわけではないのだ。

ハイエルフが何百年もエルフ族全体を統治するには様々な汚いことだってやってきた。

私は、アキラが思っているほど綺麗な女ではない。

いつもは馬鹿な姿を見せているかもしれないが、この身が狙われたとあっては黙っていられない。



「答えないのならば、圧死しなさい」



掲げた手を少し下ろす。

その動きに合わせるように、男たちの体がミシリと音をたてて地面に沈んだ。




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