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第113話 〜祭り1〜



数日後、結局俺たちは旅行感覚でウルクまで来た。

そう、来てしまったのだ。

祭りが開催されるのは、獣人族領最大国家のウルクの中でも大きな街。

確か、名前はマリ。

この祭りのために広場に大きな舞台を設置したとかで、魔法によって他のウルクの街からも舞台を見ることが出来るらしい。

テレビ中継みたいなものだろうか。



マリだけでなく、ウルク全体は昼間にも関わらずとても活気づいていた。

道の両端に屋台が並び、驚いたことに人族の屋台も沢山ある。

が、いくらなんでも人が多すぎるだろ。

マリにも入っていないのに、獣人族や人族が入り交じって押し合い圧し合い状態だ。

マリは住民とコンテストに参加する人以外は立ち入り禁止らしい。

まぁ、この人数を見れば納得だ。

人々の中には、コンテストに出場するであろう、気合が入った衣装を着ている人もちらほらいるし、人に酔ったのか、道の端に避けている人もいる。



「見てみて、アキラ!!食べたことない物がいっぱい!」



中でも俺たち一行はとても視線を集めていた。

クロウは人混みを歩くのを嫌ってジールさんと別行動のため、一緒にいるのは勇者一行と俺たち。

注目されているのは、普段でも視線を集めるアメリアが両手いっぱいに食べ物を抱えて、まるで子供のようにはしゃいでいるのもあるが、驚いたことに、アメリアにではなく俺に向けられた視線も多い。

何故かと首をかしげていれば、数メートル離れた場所から聞こえてきた声で理解した。



「……あれって、"闇の暗殺者"様じゃない?」


「えぇ?うっそぉ!お伽噺じゃなかったの?」


「魔物を一瞬で倒したって!サインってもらえるかな?」



サインなんてねぇよ。

つーか、暗殺者が顔ばれしててなおかつ有名人ってどうなのよ。

ていうか、なんで俺特定されてんの。

やっぱり黒髪黒目が珍しいのだろうか。

この世界にはほとんどいないらしいし。



「……晶、有名人なのか?俺もサインもらっていいか?」



俺は隣を歩く京介の言葉に呻く。

こういうとき、京介の言葉はグサッとくる。



「サインなんかねぇよ。むしろ隠してくれ」


「そうか?ではそうしよう」



俺の前に移動してくれた京介の体の影に隠れて歩く。

が、完全に隠れるわけではない。



「声かけてみましょうか!」


「そうね!そうしましょう!」


「私も行く!!」


「……勘弁してくれ」



再び聞こえてきた声に、俺は呻いて顔をしかめた。



『気配を消していたらどうだ?主殿。さすがに対処しきれんぞ』



アメリアの肩の上に乗っている夜の言葉に頷く。

『気配隠蔽』を使うのはいいのだが、一つだけ問題点があるのだ。



「アメリアのことは任せたぞ」


『了解』



満員電車なみの人口密度のため、俺は必然的に立ち並ぶ屋台の上を歩くことになるが、いざというときアメリアの近くにいられないのだ。

先程からアメリアに声をかけようとしている輩もおおいし、本当は離れたくないのだが。

獣人族は肩の上にいる夜のお陰でむしろ離れていっているが、人族は鼻の下を伸ばして寄ってきている。



「京介、ちょっと離れるからアメリアを見ててくれ。声をかけてくる連中がいたらぶっ飛ばして構わない」


「分かった」



頷く京介によろしく頼んでから、俺は『気配隠蔽』を発動させた。

俺に声をかけようとしていたお姉さま方の反応から、俺が認識出来なくなっているのを確認して、屋台の屋根の上に上がる。

日本の屋台とは違い、しっかりとした木造の屋台のため足元の心配はない。

この日のために国が先導して作ったんだろうな。




「あ!射的があるやん!!」



しばらく歩いていると、上野がひとつの屋台を見て歓声を上げた。

流石に日本の射的と全く同じではなく、魔法陣の風魔法を使った、誰にでも出来る射的だ。

魔法陣に魔力量と威力を設定して木の板に刻むことで、景品に木の板を向けて魔力を流せば風の弾が出る。

上手く当たり、景品が落ちたら貰えるらしい。

必要なのは魔法のコントロールと精度か。



「お!お嬢ちゃんやってくかい?」


「やるやる!」



屋台のおじさんの言葉に上野は瞳を輝かせて金を払い、魔法陣が刻まれた木の板を受け取った。



「よっしゃ!アメリアちゃんなんか欲しいもんある?」


「そうね、あのお菓子が欲しい」



祭りに当てられたか、テンションのおかしい上野とアメリア。

というか、いつの間にそんな仲良くなったんだ。

そういえば、俺とクロウが留守番をしていた日、他は全員バラバラに出払っていたが、帰ってくるのは一緒だった。

その時に仲良くなったのだろうか。

まあ何にせよ、アメリアが楽しそうだからいいか。

ああ見えて王女様だし、友達とかいなかっただろうし。



「よく狙えよ、上野」


「分かっとる!……てや!!お!」



景品が落ちる音とともにアメリアの顔が嬉しそうに緩む。



「見てみて!取れたで!」


「やるねぇ、お嬢ちゃん……。よし!これもおまけだ!」


「おお!おっちゃん、ありがとぉ!」



上野から景品のお菓子を受け取ったアメリアは本当に嬉しそうに笑っていた。

その様子を見て、俺も目を細める。

こういうのを見ると、祭りに来てよかったと思う。

血なまぐさい日常を忘れられる気がした。




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