編入生ⅴ
教室に入って直ぐに、女子生徒が何人か二人を取り囲んだ。と思ったら、周防に話し掛けている。
周防の右腕に二人、左腕に一人、正面に二人。やけに纏わり付いている。
「周防くぅーん。今日の朝、一緒にご飯食べようと思ったのにぃ」と、それぞれがネバネバした声で話していた。どうやら周防目当てらしい。
アズは気配を消して席に着いた。性欲はないのに、恋愛ごとは昔と変わらない。発情期がない猫の発情だなと、アズは骨がなくなったみたいに、身体をクネクネさせている女子生徒を眺めていた。
入り口で女子に囲まれている周防から窓の外に顔を向ける。何も考えずにボウッとしていたアズには、視線を感じて振り向いた。目が合ったのはあの九鬼だった。
今の今まで一度も目があった試しもなければ、誰かが自分を見ている気配なんて感じた経験もない。なのにあの九鬼がアズを見ていて、間違いなく目が合っている。
アズは何かの力で身体が、目が九鬼から離せないでいた。
もしかして九鬼も能力者なのか? でもLAには名を連ねてはいない。九鬼は、怒っている風でも睨んでいる訳でもない。かと言って笑っているわけでもない。無表情に見えるのに、何かが隠れているのにそれが何かが分からない。
「アズちゃん。どうした?」
視界が周防の身体で遮られて、やっと身体が動いた。
「え?」
「いや、ボウッとしてたからさ」
そうか。他からは呆然としているようにしか見えていなかったのか、ホッとした。
「何か、眠たくて」
「えぇ! もう? 仕方がないな。俺が久膝枕してやるよ」
周防は自分の膝を嬉しそうに叩いている。
「結構です!」と、アズは窓の外に目を向けた。
どうして九鬼は自分を見ていたのか。それにあの表情は何だったのかを考えると、呼吸の方法を忘れてしまったみたいに息苦しくなってくる。
アズは深呼吸をして、目が合ったのも全て気のせいだと暗示を掛けるように何度も心で呟いた。