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先輩の先輩  作者: 神月センタロウ
ホラーエンド
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ホラーエンド

冒頭が少し3話と被ります。ご注意下さい。

「先輩、あの後まじ大変だったんすからね!今度何か奢ってくださいよ?」


「ああ、じゃあ今食ってるこの昼飯を奢ろう」


「ちょ、こんな牛丼じゃなくてもっと高い物にして下さいよ」


 しょうがないな、と紅しょうがを山盛りで盛ってやる。


「最悪だ。紅しょうが嫌いなんすよね」


「そりゃ悪い事したな」


「そういや先輩、あの時怪談高校に行ったって本当ですか?」


「ん、何で知ってるんだ?」


「置いていかれて探して見つからなくて会社に戻ったら、誰か忘れちゃったけど教えてくれたんすよ」


「忘れちゃったって、何だよそれ。というか俺が高校に行ったなんて会社の奴の誰にも言って無いぞ?」


「えー?誰だっけな、確か先輩の先輩じゃなかったかな、あの女の人」


 思わず箸を落としてしまった。乱雑に5000円札を叩きつけて、好きな物でも食ってろと言い残して店を飛び出した。


「ちょっと、先輩!またっすかあ!」


 後ろで何か言っているが、急いで会社に帰る。すれ違う会社の馴染みの人だろうが、片っ端から顔をチェックしていくが見当たらない。


「お、おい。どうしたんだ血相変えて」


 部長が何か言ってきているが、先輩が男だった事は無い。無視して会社中の部署を虱潰しに回ったが全員違った。尚も何か言ってくる連中を振り切り街中に出る。行き交う人々の顔を睨むように観察する。


 違う、こいつも違う、どこだ、どこにいるんだ。どうすれば会える。


 思考に意識を集中し、棒立ちになっていると声がかけられる。


「あの、ちょっと宜しいですか?」


 女性の声に先輩かと振り向くと、ただの婦警だった。


「先ほど通報がありまして、少しお話を聞いても宜しいですか?」


「お前じゃない、どけ」


 婦警を押し退けて立ち去ろうとすると、横に居た男性警官に押さえつけられてしまった。


「離せ、こうしてる間にも先輩がどこかに行っちまうだろ!」


「はいはい、事情は交番で聞くから。大人しくしてね」


 その後、交番で少し頭が冷えた。警察の質問に丁寧に受け答え、薬物も酒の反応も無かったのでなんとか解放された。


 自宅へ帰ろうと駅のホームのベンチに座って考えていると、あるフレーズが耳に入ってきた。


「そういえばさ~、先輩の先輩に聞いたんだけどさ~」


 思わず喋っていた女に近寄り確認すると、違った。


「な、何急に……怖いんですけど?」


「すいません、知り合いに似てたもので……」


 頭を抱えながらベンチに戻る。それからは雑踏の中でもそのキーワードは俺の耳にクリアに飛び込んでくるようになった。今度こそはと確認するが、全て徒労に終わってしまった。


 いつもの倍以上の時間をかけて自宅に辿りついた。静かな室内で、廃校の遣り取りを思い出す。そう、俺は自ら言っていたではないか。彼女自身にも夢中だったと。自分でも遅いとは思うが、恐らくアレが初恋だとも思う。憧れでは無く、本当の恋なのだ。


 どうしたら良いかと頭をフル回転させる。学生時代を思い出し、ひとつの道に辿り着いた。彼女は人と話す。顔を思い出せない知り合いから聞いた話をする人物を追いかければいつか辿りつくのではないかと。翌日、俺は会社に辞表を提出した。





「この間さ~、友達の友達に聞いたんだけどさー」


 その言葉で俺の意識が戻る。いつの間にか寝てしまっていたようだ。ここは電車の車内だろうか、少し離れた場所に座る若い女性がその言葉を話していた。


 先輩はもう学校には縛られていない。もしかしたら友達なのかもしれないと、最近はこういう話にも飛び着くようにしている。


 慣れた動きで、先ほどの女性に近づき、声を掛ける。


「突然すいません。僕はそういう噂話に興味があって色々聞いて回っているのですが、良かったら聞かせて貰えませんか?」


 偽装用に作った、架空の雑誌の名詞を渡しながら交渉する。その行為に一瞬ギョっとした女性だったが、俺の顔を見ると安心してくれたのか許可をしてくれた。


「お兄さんじゃなかったら、即痴漢って叫んだよ。お兄さんだから特別ね」


 30過ぎのおじさんには破格の評価だと内心喜ぶが、今は話を聞く事が先決だ。メモの用意をしながら、話してくれる様に頼む。


「それにしても最初は別の意味でびっくりしたわ。これからしようとする話と似てるんだもん」


「似てる?俺が?」


「お兄さんがじゃなくて、展開よ。で、その話っていうのがさ」


 ある日電車に乗って知り合いと話していると、突然男が話しかけてきたという。自分は噂話を集めて居る記者だと名乗り、親しみ易い笑顔を向けてきたという。その時話そうとしていた噂話をしてやると、一言「違う」と言って走行中の車内から扉をすり抜けるようにして外に消えていったという。当事者以外の乗客には見えていなかったようで、大声で叫んで恥じをかいたと酒の席で愚痴っていたという。


「違う」


 女性達の顔が引き攣って行くのが見えた。だが、関係ない。俺の聞きたい話とは違う。次へ行かなければと、混雑する車内を悠然と歩いてドアから外へと向かう。背後の悲鳴が喧しい。だが、俺は先輩が見つかるまで何年でも……。


 その瞬間、偶然トンネルに入ったからだろうか。20歳前後の若者がドアのガラスに映りこんでいた。少し無精ひげを蓄えた若者だった。俺とガラスの間には誰も居ない。自分の顎に手をやると、ガラスに映った若者も顎に手をやる。


 そう言えば、何年この生活をしているのだったか。1年?いや、もっとしているような気もする。だが最近の記憶には車内以外の物はない。俺はずっと車内で生活していたのだろうか。


 それにさっきの話、アレはまるで……。


「聞き上手なのに、自分の話には中々辿り着けなかったのね」


 電車の雑音にも負けない、良く通る声に振り向くと先輩が居た。


「ようこそ、こちら側へ。貴方が聞いて、私が語る。私達って相性が良いのよね。さ、行きましょう」


 僕は言われるがままに差し出された手を握りました。状況を理解するよりは、今からこうして先輩と歩ける事がとても幸せでした。


 これからは僕が彼女の耳として数多くの話を聞き、彼女が広めていく。懐かしい学生時代の姿そのままに、僕らは寄り添って歩いていくのだ。

最後までお読み頂き有難う御座います。


過去の作品を参考に試験的に書いてみた短編となっています。当初の終わり方は3話で完結。今回の投稿に合わせて、ホラーな終わり方を考えてみました。

「世にも奇妙な物語」とか「アウターゾーン」とか、そういう作品の影響が自分は色濃いようですね。

「笑うせぇるすまん」等も好きですが、終わり方の綺麗な話の多い、上記の二作品に近い傾向のようです。


 短い時間でしたが、愉しんで頂けたら幸いです。

 ご指摘、ご感想有りましたら今後の糧と致しますので是非お願いします。

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