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先輩の先輩  作者: 神月センタロウ
本編
1/4

出会い

「学校の怪談」などが流行した頃書いた、自身の過去作を手直した物です。

後ほど改めて前書きでお知らせしますが、3話目と4話目は両方違う形のエンディングです。

ホラーというジャンルならと、ちょい足ししたのが4話となります。

 皆さんの通っている、または通っていた学校には七不思議というものが有ったでしょうか?内容は似たような物も多いですが、学校の特色が出ている話もあります。


 尋ねている僕の学校はどうかと言えば、残念ながら七不思議は有りません。


 代わりに八不思議という、妙な物があるそうです。


 小さい頃から不思議な物を見る事が多かった僕は、そういった不可思議な話に興味を持っていきました。それがこの春から通う高校として、この学校を選んだ理由でもあります。七では無くて八不思議。今から新生活が愉しみでしょうがありません。





 入学式を終えて暫くしてからという物、一向にそんな噂を聞く事は出来ませんでした。周囲に居るのは当然同級生であり、学校に伝わる話は愚か、理科準備室の場所が何処にあるかも判らないそんな人達ばかりです。


 部活にでも入って先輩と出会えば話も聞けるのでしょうが、昔から人見知りの激しい僕には友達すらも敷居の高い物です。


 大人しそうな印象なのでしょう。その日も午後の歴史の授業で使う教材を取りに来いと先生に言われ、昼休みの半分を使い社会科準備室を探して迷い混んだ三年生の教室が並ぶ階を彷徨っている時の事でした。


「そう言えば知ってる?また増えたらしいよ、ウチの七不思議」


「えー、まじで?これで九不思議じゃん」


 確か屋上へと続く階段の踊り場で、数名の上級生が僕の求める話をしている場に遭遇しました。教材の事は放っておいて、聞き耳を立ててみます。


「友達に聞いたんだけど、何でも今度は音楽室のベートーベンの肖像画が血の涙を流すんだって」


「何それ、あたしの居た中学校にも同じの有ったよ。つまんないなー」


 どうやら数が多いだけで独創性は無い様です。近隣の中学校の数に比べて高校の少ない地域です、どうやら方々の中学校から集約された七不思議が混在しているだけかもしれません。正直少しガッカリですが、他の八つの不思議の確認をしたいところです。


 この様子なら知っているのではと、少ない勇気を振り絞り話しかけてみます。上級生でしかも女子。普段の僕ならまずそんな事をしませんが、千載一遇のチャンスを見逃す訳にもいきません。


「あの、すいません。僕はこの間入ったばかりなのですが、この学校の八不思議に興味がありまして。ご存知なら聞かせて貰えませんか?」


 当然呆気に取られる面々。その奥の死角になっていた場所から声が掛かりました。


「君は新入生なのかい?知らないなら私で良ければ話してあげるよ」


 日本人形の様な肩口までの黒い髪に、一重の細い目。可愛いと言うほどでも有りませんが、普通の顔立ちでしょうか。どこにでも居そうな女性でした。


「本当ですか、是非お願いします」


「いいよいいよ、新入生には親切にしないとね。二人もついでに聞いていきなよ」


「そうね~、貴女が言うのなら聞いていこうかしら」


「もしかしたら内容が変わってたりね」


 先程の二人も加わり、この手の話のお決まりの文句から始まりました。


「これは先輩に聞いた話なんだけどね……」


 校庭を走る二宮金次郎像、女子トイレの花子さん、体育館の巨人の足、動く人体模型、語ってくれている先輩は話上手なのですが内容がどうにも普通です。そこまで話すと予鈴が鳴ってしまい一旦中止になりました。


「残念、時間切れだね。また暇が有ったら続きをしましょう」


 語り部だった先輩がお開きを宣言します。あともう少しだったのに、これでは中途半端なままです。階段を降りていく先輩を呼び止めます。


「あの、先輩の話し方、凄い上手かったです。是非明日にでも続きを聞かせて下さい」


 僕の声にクルリとこちらを向いた先輩が答えてくれました。


「明日は居るかどうか判らないわ。どこかで見かけて、もしその時覚えていたら続きをしましょ」


 そしてそのまま教室の方へと行ってしまいました。もちろん、この後僕は歴史の先生に怒られてしまったのですが、それは余談です。





 先輩の宣言通り、翌日以降も昼休みに階段に通ったのですが先輩には会えませんでした。名前も聞いていなかったので、三年生の教室を回る訳にもいかず途方に暮れて居ました。


 1ヶ月程経った頃でしょうか。日課になったと言っても過言ではない、昼休みの階段の踊り場への訪問をするとついにあの時の先輩に出会えました。今日は前回とは違う人達と話しています。


 ついに続きが聞けると興奮気味にその輪に割り込み、先輩に挨拶をしました。


「やっと見つけましたよ、先輩。覚えていますか、八不思議を聞きたいと言っていた1年です、是非続きをお願いします!」


「君は……覚えていたのか。これは参ったな」


 僕の剣幕に会話を中断され、苦笑しながら先輩が僕の事を見てきました。やはりあの時は気紛れでの親切だったのでしょう、明らかに困った様子の先輩に僕は申し訳ない気持ちで一杯になりました。


「この子と約束があるんだ。申し訳ないけど、貴方との話はまた今度で良いかな?」


「ん、ああ、お前が言うならそれでOKさ。じゃあ、先に教室行ってるぜ」


 そんな僕の気持ちとは裏腹に、先輩は先に話していた男の先輩に断ると僕の正面へと移動してきました。


「さてお待たせしたね。君はこの前の約束を覚えててここに来た。それで間違い無いね?」


「ええ、はい。ご迷惑だったでしょうか?」


「いやいや迷惑なんてトンでもない。君程に面白そうな子は初めてだよ。どうだろう、今では時間も余り無いし、今日の放課後にここで待ち合わせでもしないかい?ゆっくりと君だけに話してあげるよ。九不思議だけじゃない、他の話もね」


「本当ですか!是非お願いします!」


 僕はその約束をして舞い上がりました。どうやらこの先輩はその手に話に詳しいようです。しかも話したがりで、僕には理想の人物でした。


「じゃあ、放課後にここで。今から楽しみだよ」


 そう告げると先輩は教室の方に歩いていってしまいました。手を振って見送りながら、また名前を聞き忘れたと気が付きました。





 放課後になって、すぐにでも駆けつけたい気分でしたが運悪く掃除当番に当ってしまいました。サボりながら掃除をするクラスメイトの分まで頑張りましたが、かなり時間が掛かってしまいました。机を並べ終えると、鞄を抱えて足早に踊り場へと向かいます。


「そんな……」


 踊り場には誰も居ませんでした。体よく断られた事に気が付き、愕然としていると。


「おや、やっと来たね。こっちにおいで、階段に座りながら話そう」


 どうやら折り返した先の死角になっている場所に座っていたようです。ホッと安堵して階段を上がり先輩の横に腰をかけました。


「さて、まずはこの学校の九不思議から話してしまおうかね。それが終わったら都市伝説から色々と話そう。今日は心行くまで聞いてもらうよ?」


 そうして先輩の話が始まりました。優雅な仕草で、雰囲気を出しながら、抑揚の効いた良く通る声で語ってくれました。やはり先輩は語り上手です、聞いていて心地が良い喋り方でいつしか時間を忘れ、気が付くと四つの話を聞き終わっていました。


「さて、以上でこの学校の九不思議は終わりなんだ。感想はどうかな?」


「あれ、まだ八つですよね?」


「そりゃそうさ、こういう話の最後の1つは知ってしまったら何かが起こる。一つ話が増えたら不思議の数に一つ足すのが定石って物だよ」


「えええ……じゃあ最初から七つの話で八不思議だったんですか?」


「残念ながらそうなるね。で、感想はどうだったかな?」


 僕がこの学校を選んだ理由が無意味になってしまいました。その落胆を込めて、正直な感想を伝えます。


「この間の話に加えて、深夜の鏡の精、深夜に鳴る音楽室のピアノ、開かずの教室、動くホルマリン漬け。どれも定番な話すぎて、正直ガッカリですね」


「やっぱりそう思うか。私もそう思うんだよね」


 僕の反応を予想していたのか、先輩が腕組みをしながら同意してきました。そしてトンでもない事を言ってきました。


「だから私と君で新しい不思議を創らないかい?正直、この手の話は語り飽きたんだ。今までに無い、オリジナリティ溢れる不思議を考えてくれないか?」


「オリジナリティですか……でも、どうやって広めるんですか?」


「勿論最初の一人は私と君で引っ掛けるのさ。そして、その人が騒ぎ始めたら私が更に広める。どうだい、完璧じゃないか?」


 いたずらっ子のように笑う先輩の提案に、少し心が高揚しました。面白いかもしれない。


「やりましょう、新しい不思議を作りましょう。今度までに色々と考えてきますね。あ、先輩の名前を聞いておいても良いですか?また会えないと困りますし」


「私は先輩で良いよ。毎日密談していたら先生に気が付かれてしまうだろうし、個人的な接点は少ないままにしないかい?またここに来て、出会えたらその時の放課後に打ち合わせをしよう。これは私達だけの秘密だ」


「なんか本当に秘密結社みたいですね」


「ポツリポツリと増えていく噂話、楽しみだね。それじゃ今日は一旦ここまでにしようか。もうすぐ下校時間だろう?」


 先輩に言われて時計を見ると、確かにもう良い時間になっています。先輩と握手を交わしてから家路に着きました。こんな楽しい事が起こるなんて、やっぱりこの学校に来て正解だったようです。





 夜の校舎にコツリコツリと足音が響いています。計画通りなら宿直の先生がもうすぐ巡回に来るはずです。時々待機している僕の前を懐中電灯の明かりが通り過ぎていきます。


 先輩とはあれから1ヶ月程の間に3回出会えました。毎回誰かと話していましたが、僕を優先してくれて、話を遮ってしまって申し訳ない気持ちで一杯でした。


 出会う度に、僕の持ちかける新不思議の提案の披露の御代として先輩は有名な都市伝説の話を何個かしてくれました。どれも聞いた事の有る話なのですが、先輩が話すとまるで初めて聞いたような新鮮さを味わえるのです。


 そんな楽しい時間を使って計画された今回の仕掛けで、上手く行けば明日にでも僕達の計画の第一号の不思議「渡り廊下の白いモヤ」が広まる事になるでしょう。


 下準備をして待機する事20分、どうやら先生がやってきたようです。今回のターゲットは臆病者で有名な体育の女の先生です。第一号にはもってこいの人材です。


「来たわよ。作戦開始!」


 先輩の合図で用意した大量の「おばけけむり」を一生懸命ベタベタとこしらえます。駄菓子屋で売っているアレです。ふわりふわりと白い煙のようなものが、先輩の仰ぐ団扇で渡り廊下の方に漂っていきます。


「え、何?火事?」


 どうやら先生が気がついたようです。このままではバレてしまうので、ここでダメ押しです。シーツを被り、スーっと隠れていた植え込みから頭を出します。


「ひああああああああああああ」


 予想通り、凄い悲鳴を上げて逃げて行ってしまいました。上手く行ったと先輩がニヤニヤと笑っていました。


 翌日の学校では予想以上の成果が出ていました。


「なぁ聞いた?また増えたらしいぜ、これで十不思議だよ」


「体育の先生が見たんだって、渡り廊下で白いモヤモヤ」


「しかも確認しに行ったら、植木に白い糸みたいなのが残ってたらしいぜ?」


 クラスメイトが実しやかに話す内容を聞いて、笑いがこみ上げて来るのを押さえるので必死でした。その日の昼休みいつもの踊り場に行くと、先輩が嬉しそうに新しい不思議を話していました。これでもう明日には全校に知れ渡っていることでしょう。


 その日は余りに嬉しそうに話をする先輩を見て、話の邪魔をするのも悪いと一人で教室に帰りました。





 その後も色々と話を作っては驚かしを繰り返し、いつしか学校の二〇不思議になった頃でしょうか。春が来ました。卒業式のシーズンです。

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