第八話 金策
「続けるとする。」
地図を見ながら五郎佐と国人や土豪らの所領の確認し続けている内に、春日井郡の端の方に『瀬戸』という地名を見つけた。
瀬戸… 瀬戸と言えば陶器のことだよな~。
あれっ? 瀬戸とは瀬戸内海のことではなかったのか?
「五郎佐門、
瀬戸といえば陶器を産するところだったはずだな。」
「はい、そのとおりで、 尾張の重要な産品の一つであります。
他には、知多郡にある常滑でも古くから陶器を作っています。」
「で、あるか」
頭に浮かんでくる。
濃尾平野は木曽三川などの河川によって土を運びこまれ、堆積して形成されたのであった。
古代の頃、日本神話の日本武尊の話では、湿地の原野だったはず。
未来では内陸にある熱田も、今は海岸に近くにあって湊もある商業地である。
尾張には火山がないため鉱脈には期待できないが、代わりに豊富な粘土層があるかもしれないな。
『瀬戸物』は陶器の代名詞になるくらいだから、大量に作られていたはずである。
戦国時代は唐や朝鮮など海外から珍重され高価値であったはずだが、普段使いの日用雑器の需要もあるはずであり、尾張の重要な産品になりえる。
流通や販売方法を考えねばならぬか。
今すぐには無理だとしても、今のから唾をつけといたほうがいいだろう。
それに、大陸や半島の技術を手に入れることができれば、付加価値を上げることもできよう。
陶器か……
皿、椀、壷、甕、置物などであるか、
タイル、煉瓦、土管なども陶器の一種だったはずだよな、
タイルは壁や玄関、風呂などに使っていたはずだな。
煉瓦と土管を組み合わせれば、石窯やストーブなどが作れるはず。
だいたいの構造は頭に浮かんできている。
この時代、まともな暖房器具がないはずだから、いずれ作ってみるとするか。
ついでに、尾張出身であった武将の所在も確認しておくとするか、
「五郎佐、海東郡にいた蜂須賀の一族は今はどうしている?」
「蜂須賀党は大殿に逆らっため本貫地から追い出され、一族は尾張、美濃、三河にちりぢりになっております。」
「たしか、当主の子に小六という者がいたはずだが、今はどこにいる?」
「小六とは、蜂須賀の嫡男の正勝のことでありますね。
たしか、丹羽郡の生駒家にしばし寄宿しており、木曽川の川浪衆に組していましたが、いまは美濃の斉藤道三に仕えたと、うわさで聞いたことがあります。」
「そうか、」
今は蝮の家臣か、どうやって俺の配下になるのであったっけ?
え~と、美濃攻略のあたりで、秀吉口説くのだったか?
まだ先のことか。
あれ、桶狭間で蜂須賀党が協力したはずだが、尾張に残った一族のことか?
詳しく調べさせることとしよう。
蝮の斎藤家は弾正忠家と同じく新興であり、あっちこっちから家臣を集めている。
親父は出身に関係なく有能なものを家臣しており、美濃や近江出身の者もいる。
美濃との境は木曽川で別けられているので、平時は双方の領民が川を越えて行き来きしている状態である。
こちらも美濃出身者を配下にしているので、尾張出身者が美濃に雇われるは防ぐことはできない。
「そういえば、生駒といえば母上の親戚であったな、」
「そうでした、生駒家の親族である美濃土田の出であります。
生駒家は馬借をしておりまして、飛騨、東美濃から三河まで、手広く商売をしております。
所領が丹羽郡ですのでありますので、信清殿の与力であります。」
「で、あるか」
馬借であるか、
未来では流通網の整備が重要になるはず、早いうち味方に引き込む必要がある。
小六の外には誰がいたか?
猿は俺の3つほどしただから、まだ中村いるとは限らない。
山内一豊兄弟や堀尾吉晴は岩倉城の信安叔父の家臣であったか?
あとは……
「殿、よろしいでしょうか。」
ん、部屋の外から声がかかる。
村井であるか、
「入れ、」
村井が書類を持って入ってくる。
「とりあえず、今年の年貢の数量がまとまりましたので、持ってきました。」
「見せてみろ。」
書類を読みながら、各村の年貢を暗算していく。
那古屋城の所領が、概算で1万貫くらいになるか、
「で、俺が今すぐ動かせる銭はどのくらいになる。」
「は、多少の銭ならなんとかなりますが、額が大きくなりますと林様や平手様の許可が必要になります。
蔵にある年貢の米も三河安祥城への救援の兵糧として平手様が管理下にありますので、これを担保に商家から借りるの難しいと思います。」
「で、あるか。」
軍隊を整えるには、資金が必要になる。
俺も元服し嫁をもらったことだし、直参の兵が必要だということで、親父に頭を下げるしかないか。
その場合は、あとでどのように使ったか詮索されるだろうな~
紐付きの金は嫌であるな~
ふむ、どうする。
「お前ら、何か金を用意する方法を思いつかないか?」
村井
「すぐに必要でありますなら、商人に用立てて貰うしかありません。
ただ、担保を用意しなければ大殿に連絡がいく可能性があります。」
丹羽
「今は11月ですので、できることは限られます。
人手を集めても草鞋くらいしか作れませんし、それも売ったとしても、たかがしれています。」
「そうだな、人手だけはあるのだったな。
なにか金になる商品は作れないか?」
「「はあ?」」
「ここで一服するとするか、小姓に茶を持ってこさせよ、
五郎佐、頼む。」
「わかりました」
戸をあけ、控えている小姓に命じた。
部屋住みの者を集めて手下にはしてはいるが、やつらに技術がないので仕込むところから始めないといけない。
何かあいつらでも作れるものはないか?
それに作る物によっては、原料と道具を用意する金が必要になる。
海が近いので、魚を取って売るか?
いや、漁師と競合となって対立するのも嫌だし、販売ルートが限られるので、大量に獲ったとしても値崩れおこす可能性がある。
村井
「あの、殿が作った算盤を商人に売りだすのはどうでしょうか?」
「あれか、ちゃんとしたものを作るには、指物などの技術がいるので簡単ではないが、それしかないであるか。」
あれは、商人対する切り札にしたかったが、しょうがないであろう。
部屋の外から声が掛かる。
「失礼いたします。」
小姓が茶を持ってきたか、
「入れ!!」
戸が開いて、小姓が入ってくる。
犬の弟の『藤八郎』であった。
こいつは、前田家の五男で『佐脇』のところに養子にいったのだったな。
史実では信長の勘気に触れて、織田を出て三方ヶ原の戦いで討ち死にするのだったはず。
理由なんであったっけ?
知識が浮かんでこない。
まっいいや、その時に状況によって、俺が許せばいいことである。
そういえば、犬も俺の勘気で浪人するのだったよな。
前田の兄弟は似ているのか?
あれ、前田…… 荒子城の位置は……
地図を確認してみる。
前田の所領である荒子の領地は海に近い、
海といえば、塩が採れる。
塩は人が生きるのに必要なものであり、供給が需要に追い付いていないので、作ることができれば十分な金を稼げることができる。
それに干物や味噌など保存食を作るのにも必要であり、大量に確保したい。
「おまえら、塩を作り売って金を得ることにする。」
五郎佐
「殿、塩作るには塩田が必要であり、場所と職人が必要です。」
「大丈夫だ、新しい塩の作り方を考えた。
その方法は人手を必要とするが、塩田ほど場所を取らないはずだ。
場所は荒子に近い海岸とする。
前田は、確か林の与力であったな?」
「はい、その通りです。」
「わかった、親父に頼んで俺の与力につけかえてもらうことにする。
藤八郎、犬と一緒に当主の利久に話を通しておけ。
俺はこれから準備とかの段取りを考えることとする。
五郎佐と村井は準備が整い次第、人を集められるよう手配しておけ。
今は農閑期だから、大丈夫だろ。」
「「はっ、わかりました」」