第五話 財政収支
さて、まずは那古屋城の財政状況から調べるか~
銭ないことには、何から始めていいのかわからない。
できれば、爺や林に秘密裏に行いたい。
書斎に村井と松井を呼び出す。
二人に対し、
「那古屋城の領内に関して、各村の人数、それぞれの村から上がる年貢の量、その他諸役による収入額、与力の土豪に関する情報、あとは寺社の所領に関しても詳しく情報がほしい。
それから、城に備蓄している兵糧や武具の数を書類にしてまとめろ。
後は城の年間の支出にかかわる情報なども必要だな。」
と言い渡して、とにかく城にある財政に関する書類を持ってこさせる。
「はっ!? わかりました。」
二人ともあわてて、書斎から出ていく。
親父に渡る分もあるから、城の必要経費を差し引いて、俺が自由に動かせる金がどれだけあるか調べておかねば今後の計画が立てられぬ。
二人が資料を持ってきたので、書類を眺める。
縦書きの上、草書体で読みづらく流し読みができない。
十年分の記録は欲しいが、解読して項目ずつまとめるだけでもかなり手間がかかりそうだな。
さて、どうするか?
この際、書式から変えるべきであろう。
まずは紙の確保だ!
紙と言えば美濃紙だったな、二人を待たせて帰蝶に相談しに行く。
「帰蝶、美濃から紙を手に入れたいが、蝮に話を通してほしい。」
「殿、なぜでしょうか?」
「城の書類を整理したい。
それも十年分だ、とにかく大量の紙が必要になる。
年貢のなどの入ってくるもの、支払いなど出ていくものの一覧をつくり、年ごとを比較することで色々わかることがあるのだ。
それらを参考に、これからのおこりえることを予測し計画をたてるのだ。
この記録または『データ』といって、政を行う際には必ず要いなければいけない物だ。
なにからはじめればいいか計画をたてるために、大至急はじめなくてはならぬ。」
「そうなのですか?」
帰蝶が首を傾ける。
「尾張が乱れる前に、できることはやっておきたい。
誰が見てもわかるように書類つくれば、指示や命令が出しやすくなる。
そのために誰でも読め、誰でも同じ書類が作れるよう書き方から変えなければならない。
今までの書類をすべて書き直すことになるので、大量の紙が必要になるのだ。
蝮に頼めば、数がそろいやすいだろう。」
「は~、『でーた』ですか。
おっしゃられていることはなんとなくわかりましたので、父に文を出してみます。」
「そうか、頼むぞ。」
要件が終わったので、書斎に戻る。
待っていた二人に向かって
「書類を年代や種別ごとに分類する。綴紐をばらしても構わん。」
「書類をいじると林様や平井様に怒られますが。」
「それなら、すぐに使わない古いものからやればいい。
写しをとってから元に戻して、二人にはバレないようにせい。
とにかく、すぐにかかれ!!
あと、城内にある使える紙を集めるだけ集めておけ!!
追加の紙も用意する。」
と命じると、二人が紙を取りに書斎を出ていく。
道具を用意せねばならぬか!!
まず、計算するのには、算盤が必要である。
まだ大陸からは伝わっていないはずであるな。
智識と同じものを作るにはちょいと手間がかかる。
きちんとしたものは、職人に頼むほうがいいだろう。
だが、すぐに使いたいので、代用できるものを作らなければならない。
どうするか考えながら、書斎を見まわしてみた。
ふと、部屋の端に置いてある碁盤と碁石が目に入る。
これだ!!
だが、そのままでは使いづらいであろう。
紙も無駄にできないし、別に計算用にメモ書きできるものも用意しておくとするか。
黒板が浮かんだが、緑の染料の材料が浮かんでこない。
べつに黒でも構わないので、漆でいいか。
これも作るに時間が必要だな、
こういう場合は……
そうだ! 木簡を応用すればいい、板切れで代用できる。
表面を鉋で削れば、何度か書き込むことができるだったな。
最後には焚き付けすればいいのだ。
チョークの原料は石灰だったか?
石灰は漆喰の材料だったはずだ。
粘土を混ぜて、棒状に固めてみるとするか。
五郎左たちを呼び、材料・道具をもってこさせる。
「殿、いったい何にを作るのですか?」
「いいから、言われた通りもってこい!!」
材料と道具を持ってきたので、板から鋸で使いやすい大きさに切り出していく。
墨で試し書きをし、乾いたら鉋で削ってみる。
十分に使えるな。
犬に、あと数枚同じ大きさで切り出すよう命じる。
次は、板の表面を荒目にしあげて、漆を塗る。
塗り重ねていくことになるので、乾くまで時間がかかる。
あとは五郎左にまかせることにし、仕上げ藁で表面を軽く凸凹にするよう命じる。
石灰と粘土を混ぜて捏ね、棒状にして日干しにする。
配合を変えて、最適なものを見つけなければならない。
後は勝三郎に任せる。
次は、算盤の代用品を作る。
碁石を用意して、物差しで幅を測る。
余裕も必要だからだいたいでいいか、この時代ノギスはあったかな?
板を用意し、上を二つ下に五つ碁石を入れる溝を彫ることにする。
算盤の珠はそろっていたほうがいいので、碁石で代用することができる。
板きれに墨壷を使って線を入れていく。
一六桁もあればいいだろう。
鑿で線にそって溝を彫っていく。
溝ができたら、上に黒を一個、下に白を四個の碁石を入れ、親指と人差し指を使って動かし、深さや動きを確認する。
むむっ!
指で動かすと白の碁石が乗り上げてしまった。
端を鑢で平らに削ってから、もう一度入れて試すと、大丈夫そうだ。
素早く動かせないが、計算するだけなら十分だろう。
村井たちが紙を持ってくる。
紙の大きさがそろっているか確かめる。
紙よりも少し大きな板用意し、升目状に線を入れていく。
その上に紙を置いて端を文鎮をおいて固定して、かすかに線がみえることを確認、これで準備はできた。
村井と松井に算盤もどきを渡し、使い方を教えていく。
板に上に置いた紙に、横書きで項目と数字を並べて書く。
位はよけいなので省略し、四桁ごとに点をつける。
ああっ、漢字は面倒だな、アラビア数字を使いたい。
二人に試しに計算させると驚いた
「簡単に数の合計を出すことができます。」
「そろえて書くために、書類は横書きにすることとする。
単語だけでいい、文字も楷書に統一する。
できるな! 」
「はい、わかりました。」
算盤もどきを使ってわかったのか、納得してくれた。
出た合計を写すには、横書きの方が書きやすい。
計算も上から下に目を移しながら足してけばいいことだ。
慣れるには時間がかかるだろうが、いまから始めればいい。
左から右に横書きするのも、今までないので、一種の暗号になる。
当分の間は世間に広めずにおくとする。
「ここ十年分の書類を横書きの書式に書き写してまとめることとする。
但し、林と平井の爺には見つからないようにしろ。
それと、二人は俺の専属にすることに決めた。」
二人とも、書類の量を思い浮かべうんざりした顔になる。
「五郎佐 勝三郎、犬、内蔵助らを自由につかってかまわん。ほかにも使えそうなものがいれば手伝わせてかまわぬぞ。」
と申し付ける。
後ろから
「「「え~!!」」」」
揃った声が上がる。
振り返って睨んでおく。
鉄砲も手にいれてなければならないし、槍も作らなければならないはずだ、どれくらい銭が必要になるのだろうか?
算盤は足し算・引き算・掛け算・割り算の四則演算に対応できまる内政必須アイテム
計算は、商業などの経理だけでなく、建物などの設計にも役にたつ。
珠と軸と枠で構成され、小型化もでき、携帯することも可能
文章のとおり、溝と9までの数えるものあれば、代用可能です。
これに、九九を覚えておいて、小数点やマイナスが理解できれば
通常の計算は大丈夫なはず。
地図の場合は三角関数も必要かな?
九九は古墳時代のころには大陸から持ち込まれていた
算盤は前田利家が所有していたものがとし、現存の最古らしい。
日本に入ってきたのは、戦国時代終盤のあたりか?
それまでは算木を使用していたが、計算するには広いスペースを使用する。