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第拾五話 塩

 屋敷の前で、五郎佐と勝三郎が待っていた。

 こいつらに何も指図してなかったな。

 知識の俺には、こういうことが多々あったようである。

 注意しておかねばな。


 厩の方へ向かいながら。

「要件は終わった。

 親父から言質をとったので、取り敢えずの資金の目途がついた。

 それと、古渡の城の跡地を自由にできることになった。」


「それは、ありがたいですね。」


「これから、忙しくなるぞ、

 まず、片付けからになるが、併せて小屋とかも作る。

 五郎佐、お前に手配をまかすことにする。

 勝三郎は補佐をしろ。」


「「えっ」」


「まずは、子分どもの名簿作りからだ。

 城に戻ったら皆と打ち合わせるぞ。」


 知識の俺は、理由わけを教えず指示だけで丸投げが多かったイメージだ。

 組織としては、指示の徹底と確認作業は必要になるだろう。

 上である俺から手本を示さなければならんか?

 メンドウだがやったほうがいいんだろう。


 二人は、顔を見合わせてから。

「わかりました。」

 理解はしてるのだろうか?



 中間に馬の用意を命じながら。 

「このまま、熱田へ向かうぞ。」


「何か、用事でも?」


「これからのやることで、見ておきたいところがある。」


「わかりました。」




 尾張は西は低地であり、木曽三川系の氾濫により、川が多数に分かれ分断されてる土地や湿地が多い。

 で、東側は台地になっており、川の水に影響を受けず、熱田周辺の地は古代から開かれていた。

 高台部分の南端の岬に熱田神社があり、尾張氏など古代氏族が根拠地にしていたようだ。


 日本武尊の后のひとりが尾張氏の出で、死の前に「草薙剣」を預けられ祀ったことで熱田神社が創建されたとのこと。

 歴代天皇の后の中にも尾張氏出身がおり、壬申の乱のときに一族で天武天皇に力を貸している。

 また、源頼朝の母は宮司家千秋氏の祖の藤原氏の娘とのことである。

 熱田神社とその周辺は、昔から朝廷と幕府から庇護されてきたようだ。


 熱田神社の格は伊勢神宮に次ぐとされているらしく、民からの信仰が厚く、敷地内や僧の周辺の地に摂社や末社に数多くの建てられている。

 熱田には最澄や空海も参拝したためか、周辺に縁ある寺院が数多く建立されており、熱田明神を寺の守護神としているようだ。

 津島神社も同じような感じのためなのか、尾張にまとまった仏教勢力はないみたいだ。


 懸念とすれば、三河や伊勢などとの狭間の地で本願寺教団がまとまっており、その信者が尾張内にけっこう多くいることだろう。

 尾張統一するにあたり、教団とは摩擦が生じる恐れがあるので、対応に注意が必要である。


 門前町は入らず「年魚市潟」にある湊の方へ向かう。

 伊勢湾に面し、古くから船で畿内政権と東国との中間地点になっている。

 「瀨戸」「常滑」の焼き物の地が古くからの交易品である。


 これから戦は、種子島とともに水軍が有無が重要になってくるのであろう。

 拠点が海に面している地を攻める時には、船の上から種子島で牽制でき、物資や兵糧の補給に船を使う機会が増えるだろう。

 海から浜へ揚陸できるようになれば、背後から奇襲をかけることもできるであろう。


 湊に近づいていく、規模としては大きい方であるか?

 帆と櫂がある大型の船が数隻泊まっているのが見えない。

 箱型の安宅船らしき船は見当たらないが、戦闘用の船はあるのか?

 

 親父が熱田を掌中にしたのは俺に那古屋を譲ったあたり頃であるな。

 その頃から水軍を必要とする局面はあまりなかったはず。

 駿河湾に面する今川には水軍があるので、こちらも水軍を強化せねばならないだろう。

 浮かぶ知識によると、配下に志摩の九鬼水軍がいたはずだが、志摩は伊勢北畠の勢力下であるから、これからのことである。

 信時兄の婚姻により知多半島の根本を根拠とする佐治水軍と縁続きなるので、パイプを太くする必要があるな。



 湊の確認が終えたので、塩浜に向かう。

 この近辺では古くから製塩が盛んであり、星崎の地には製塩の伝来者「伊奈突智老翁」が祀られている。

 塩は人が生きるために摂取せねばならぬものであり、食べ物を保存するためにも重要である。

 美濃・信濃・甲斐などの海がない地との重要な産品でもある。


 塩浜は広い、多くの者が天秤棒を担いで海水を運んでいるのが見える。

 知多半島まで続いていると聞くので、俺が多少作ったところ大事はないだろう。

 蝮に頼む予定の紙と交換できればありがたい。

 

 塩田に近づいて、資材として何を使っているのか確かめてみる。

 作業している者は、俺を知っているのか近づいて来ない。

 「うつけ」が興味本位できているとでも思っているのだろうか?


 海水を溜める枠と底はは粘土で固められており、砂浜に海水が染みこまないようにしたうえで砂を敷いている。

 砂に向けて桶から柄杓で海水を撒いている。

 

 太陽の熱で水分を蒸発させているのだな。

 水分が飛んで固まって板状になったものをひっくり返し、さらに乾かしている。


 これを水につけて分離させてから火にかけて濃縮し結晶化させるのであったはず。

 副産物で「にがり」が得られるので、豆腐が作れる。


 豆腐で作れる料理で浮かぶのは、

 まずは「冷奴」に「湯豆腐」

 それに「味噌汁」や「おでん」の具だな

 魚のすり身など混ぜて「鴈モドキ」とか

 油で揚げれば、「厚揚」げや「油揚げ」ができたはず。

 「しみ豆腐」は凍らせて加工するのですぐには無理であるか。

 あとは、「豆乳」から「湯葉」と「呉汁」も造れる

 

 大豆も「味噌」の他「納豆」に「枝前」や「黄粉」に加工して食べれることができる。

 土の中の窒素だったかの栄養素を増やす効果もあったはず。

 こまかいと作物のつくり方など浮かんでこないので、試しながら確認していくことになる。


 塩浜の塩田は「揚げ浜式」であり、広い面積がいる。

 海水を運んで撒かなければならないので人手もいる。

 それに雨に弱いなどの欠点がある。

 

 潮の満ち引きを利用する「入浜式」は海水を運んで撒く手間を省けるが、実行できる地形が限られる。

 地形を変える方法あるだろうが、仕組みが浮かんでこないので無理だろう。 

 

 俺がやろうとしているのは「流下式」であり、高さを加え立体にすることにより、海水から水分を蒸発しやすくする方法である。

 海水を上方に持ち上げる手間や若干の設備投資を必要とするが「揚げ浜式」に比べ狭い面積でできる利点がある。

 また、人力の部分はいずれポンプなどの機械に置き換え効率をあげられるだろう。

 粘土は瀨戸から持ってくればいいし、人手は十分にある。

 資材や道具はできるだけある物を利用して作ることにする。

 図面を引いておいたほうがいいだろう。

 

 確認が終わったので、門前町に寄ってから城に戻ることとする。


参考資料:美味しんぼ他

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