第壱話 はじまり
お持ちしていた方、大変お待たせしました、
はじめましての方、これからよろしくお願いします。
信長様の改革の本番を開始いたします。
2/14 再訂正
天文17年尾張国那古屋城下
俺は朝から城を抜け出して、土手の下に寝転がり、流れる雲を見ながら将来のことを考える。
父信秀は、尾張下半国守護代の織田大和守の家臣であるが、その力は尾張の中で並ぶ者はいない。
力を失った守護や守護代に代わり、尾張から今川の勢力を追い出した、尾張一の英雄である。
今の尾張の中には、親父に敵対しようとする者はいない。
だが、親父一人の力ででもっているので、もしものことがあれば、尾張は崩れかねない。
しかし、美濃の蝮に大負けしてからは、親父から距離を置いている者がいる。
清州の信友も裏で策謀しているようだ。
俺は市井の者との交わりで、独自の情報網を持っている。
親父と守護の斯波とは仲がよいのだから、三河の安祥城をとったときにでも、同じ織田一族である清州と岩倉を追い落として、蝮とおなじように守護代の立場で尾張を支配することも可能だったはずである。 なのに陪臣の身に甘んじているのか不思議である?
俺から見ても、斯波義統、織田信友、信安の国主の器では無く、あいつらでは東海道の今川や美濃の蝮に対抗することはできないであろう。
以前に手下とともに、清州の城下に火をつけたが、信友は親父を恐れて、詰問だけで済ませた。
親父より地位だけは上なのに意地がない。
尾張はこのまま弾正忠家でまとめるしか無いだろう。
親父はどのように考えているだろうか?
世間では俺のことを「うつけ」と噂しており、母からも親父の家臣からも、当主として不適格者とされている。
だが、これが素であり楽なので、いまさら改める気はサラサラない。
俺は堅苦しいことが苦手である。
自由にふるまいたいのだ。
ガキの事から、型にはめようとする周りの者に逆らってきた。
そんな俺に、親父は何も言わずに廃嫡せずに嫡男の立場のままでいさせてくれている。
織田弾正忠家は、このまま俺が継ぐことになるだろう。
今日の事で、本決まりだ!!
とうとう、覚悟を決めないといけないだろう。
今回の件も俺は教えられないまま、いつの間に話が進んでいた。
この前、父に呼び出された時、三河への出兵の話かと思っていたら、今日のことをいきなり伝えられた。
そこに至った経緯と理屈は分かるが、事前に話を通しておいて欲しかった。
土手の上から声がかかってきた。
「三郎さま、ここにいたんですか?」
犬に見つかってしまったか、
「平手様が怒ってますよう~、早く城に戻ってください。」
まだ余裕があるだろうが。
受け入れの準備はすでに終わっていた。
男の俺が朝から待っている必要はないだろうに。
「わかった、城に戻るとする。」
返事を返して、起き上がりゆっくり土手を登る。
「「三郎様!!」」
五郎佐と勝三郎が走って向ってくる。
五郎佐が
「まだそんな恰好をして、相手はもうすぐ到着しますよ」
勝三郎は、またかという顔をしている、
「わかった、すぐに戻る!!」
城に向かって歩き出す
三人が俺の後をついてくる。
勝三郎が
「平手様が、カンカンでしたよ!!」
「いつものことである、大丈夫だ!!」
親父がつけた家臣の中で平手の爺だけが、俺自身を見てくれる。
俺は城主として必要なことはやっている。
武芸の稽古や兵法はず自ら欠かさず学び、与えられた城主の仕事をすべてを確認してから遊びに行っているのだ。
行儀なんてものは、戦の世に何の得があるのか。
もっと自由にさせてほしい。
俺は人と比べ文字読むのも、考えるのも早いだけで、ちゃんと内容を理解している。
そんな俺の能力を見ずに、見たままを判断している。
「ああ~、めんどうだな~、」
「何を言っているのですか!
本日はあなた様が主役です。
はやくしてくだい。‼(怒)」
「「そうだ‼、そうだ‼」」
五郎佐が言い、勝三郎と犬がハヤシ立てる。
あれ、内蔵助がこっちに向って走ってくる。
「どこにいっていたのですか、相手はもうそろそろ着きますよ!!」
遠くに行列が進んでいるのが見える。
中に立派な駕籠があるな~。
もうすぐ着くが、まだまだ余裕があるはずだが、すこし急ぐとするか、
遅れても、平手の爺がどうにかして、応対するであろう。
この隙に裏から入り準備しておけば、小言をいわれないです済む。」
と、いそいで裏門に廻る。
五郎佐に命じ、爺に戻ったと伝えさせ、水場に回り、顔を洗い、汗を拭く。
部屋に戻り、正装に着替える。
勝三郎に確認させ、謁見の間に向う。
もう一人の付け家老である林をはじめとする家臣達が左右に座し、迎える準備ができていた。
林が何か言いたげだったが無視して、どうどうと上座に向かい座る。
そこに汗を拭きながら爺がやってきた、
俺が上座にいることに気づき安堵し、後ろの者を案内する。
白無垢の女性がいる。
今日、俺の妻になる美濃の国主斉藤利政の正室の娘である。
織田と美濃の停戦の証として婚姻することになり、本日祝言を迎える。
爺が紹介し、相手が進みきて、目の前で座る
「尾張国織田弾正忠信秀が嫡男、那古屋城主 織田三郎信長である。」
「美濃国守護代斉藤利政が娘、帰蝶と申します。
不束者ですか、これからよろしくお願いたします。」
花嫁衣装で、顔が隠れてわからんな~
まいいや、決まったことだからしょうがない。
もう覚悟するしかない。
尾張と美濃との関係は、蝮が守護である土岐頼芸を追い出した際に、尾張に逃げてきて救援を求めたことに始まる。
もともと尾張と美濃は木曽川で境界線がはっきり決まっており、民たちも自由に往来している。
美濃のほうが広いし、領土を得たとしても取り返される危険があるので、わざわざ攻め込む必要ない。
美濃はまだ完全に蝮の支配下にあるわけでなく、外へ兵を出す余裕は当分ないはずだったのに、守護の斯波義統と守護代らの命で、朝倉と共同で親父の指揮により尾張衆が美濃に侵攻することとなった。
美濃に深く侵攻してしまい、稲葉山城の城下まで引き寄せられてしまった。
そこで反撃を受け、大負けして多数の兵を失い、織田岩倉家の後見であった信康叔父まで死んだ。
手伝いの戦いで、かなり手酷い被害を受けてしまった。
これにより親父を追い落とそうと、清州も岩倉も蠢動を始めている。
西の三河では今川の影響力が強まってきていたため、頼芸を見捨てて、蝮と和睦することにしたのである。
尾張を纏め切れていないのに、親父には美濃まで手を出す余裕も利もないのである。
内に不安を抱えたまま、二面作戦を続ける愚はおかせない。
条件は美濃大垣城を明け渡し、尾張の兵を美濃からすべて撤退させることと、嫡男である俺と蝮の正室の娘と婚姻だった。
蝮は、頼芸を引き取り、頼芸の甥の頼純の美濃守護就任を認めることである。
これで、朝倉も兵を引いた。
本日の祝言で同盟が成立するのである。
この同盟は、平手の爺がまとめたのだが、俺にはいっさい知らされておらず、蚊帳の外に置かれていた。
今日の祝言の日付も親父から呼び出されまで、知らされていなかった。
まあ、嫡男として、正室は自由に選べないことはわかっていたことだし、弾正忠家に利があることだから、受けるしかないだろう。
末森城から親父や母、重臣がやってきて、祝言はつつがなく終える。
その後は、寝室に行くよう急かされ、二人きりにさせられる。
俺は初めではないので堂々としていたが、相手は緊張している。
さすがは、色も使って伸し上がった蝮の娘だな、なかなかの美人である。
ちょっと目がきついが、好みの顔である。
帰蝶は
「殿、ふつつかものながら、これからよろしくお願いします。」
と、怯えながら言ってくる。
なぜか、弑逆心がムクムクと起き上がってきた。
イジメてみたい!!
「美濃の蝮の娘よ、
美濃の守護代の娘から格下の守護代の陪臣の妻になることを、よく了承したものだな。
蝮からはどのように言いつかってきたのか?」
「父からは尾張のうつけを籠絡し、尾張を乗っ取れと
ただ、あなた様の目をみたら、ただのうつけとは思えません。」
「ほほう、なかなか言うな。
うつけの妻になって、蝮と同じく中から食い破るつもりであったか!!」
と、脅しつけながら顔を近づけていく。
怯えつつも、目をそらさず気丈にふるまう表情がいい。
いたずら心が芽生え、そのまま口づけしてしまった。
「たわむれであった」
と言うか言わないかのうちに、左から危険を感じた。
頭をそらし避けようとしたが、いきなりのことで遅れてしまい、顎にかすかに当たる。
脳が揺れた。
足にきた。
膝が崩れる。
頭をそらした反動で、そのまま後ろ倒れる。
頭の後ろにガツン!!と衝撃を受けた、
目の前が真っ暗になり、気が遠くなっていく………
この時期、蝮は守護代であったことが判明
土岐頼芸も美濃に戻されており、
朝倉との和議により頼芸の兄の子に守護の座が移っていた。
歴史は覆るものと思い知らされた。




