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♯3純粋と鈍感と正義感

 「……はあ。」

「佑都、何回溜息ついたら気が済むんだよ。……なあ? 郁也。」

「そうだぞ佑都。昨日何かあったんだろ? 俺達力になるって言ったんだから、話してくれよ。」

だって二人みたいに大してかっこよくも、勉強ができる訳でもない俺が昨日道端で好きな女の子を押し倒したなんて言われるわけねぇじゃん…。

「いや、別に……。」

「ふーん。まあ、無いならいいけど? 」

「そうだな。多分学校つけばわかるようなことだろ。」

……こいつら鋭過ぎる。


ああ、ついに学校についてしまった。まだ柊木さん、怒ってるよな……。

「おはよーっす! 2-Bの皆さん!」

「おっ郁也おはよー! 」

「相変わらず郁也は明るいな……」

「あ、あの……」

「?」

「えっと……品川君、おはようございます。」

「……あっうん、おはよう。」

少し顔を赤めると徹哉に挨拶した女の子は今日も綺麗な桜色の髪を靡かせる……柊木さんの元へ駆け寄り、何やら報告をしている。あー、なるほどな。あの子、徹哉が好きなのか。

 いいなー、郁也も徹哉もモテる人間で。

俺は可愛いだけでなんの取り柄もないフツメンだぞ、クソ。

「俺だって柊木さんと……」

ガタンッ

誰かが椅子から転げ落ちた。

「ちょ、雫何やってるの!? 大丈夫? てか、顔赤いよ?」

あれ、もしかして俺のせい?

じゃあ謝んないとやばくね? 

「柊木さんいきなり名前読んだりしてごめん、大丈夫?」

柊木さんは一瞬俺の手を取ろうとしたが直ぐに手を引っ込め、俯く。表情を伺う。

「……可愛い……」

桃色に染まった耳に頬。そして慌てるように泳ぐ目。昨日のことなんか忘れてまた俺はそう呟いてしまった。

また平手打ちされたら俺、今度こそ……

「あ……ごめん、昨日あんなことしておいて。別に、柊木さんを口説きたいとかそういうのじゃなくて……。

 俺、昨日さ。女の子と初めて帰って、すげー緊張してて。でも柊木さんは何とか会話しようと頑張ってくれて、なんていうか、言い訳になるけど柊木さんがああいうふうにして俺、気づいたら理性が飛んでて……そのままあんなこと……」

ちらりと柊木さんの表情を伺ってみる。

「………え!?」

柊木さんが泣いていた。やっぱりこの話題するべきじゃなかったのか!?

「それで、本当に謝りたくて……すみませんでした。」

「……よ……」

「え?」

「もう、いいよ。私、平気だから。その……初めてが沖田君で、良かったとか……思っちゃったし……昨日のはあまりにも不意打ちだったから……」

ま、まってまって。柊木さんそれ、俺喜んでいい感じの? いや、俺がやったことはスゲー酷い事だけど、柊木さんの言葉からして……

「あ、いや、何でも無いです!! その、えっと、き、きき昨日の事は忘れるので! 」

何とか和解できた、という事で良いのだろうか。大抵の女の子ってこういうの一生根に持つ動物だと思ってたんだけど……。柊木さんは、やっぱり……。

「……あっそれより泣かせてごめん、大丈夫?」

柊木さんの目元に溢れそうな涙を手で拭う。今までの俺ならできないけど。いや、柊木さん以外の子にはできないと思うんだけど。

柊木さんが愛しくて、勝手に体が動く。

柊木さんの瞳に映る俺。柊木さんから見ると俺はこんなふうに映ってるのか……。

 見られている、そう思うだけで何だか顔全体が耳の先まで熱くなる。

「……ひゃっ」

気づけば俺と彼女は目と鼻の先。

俺より先にそのことに気づいた、というか拭われた時点で何故かふらふらしていた柊木さんは一瞬間を置くと俺の肩にぽすんっと体を預ける。

「!? ひ、柊木さん?」

「い、いま顔を見られると今度は私の方が可笑しくなっちゃいそう……というか貴方と目を合わせるだけで変になりそうなので……」

柊木さん、それ最早告白なんじゃあ……?

女の子ってよくわからないから取り敢えずそっと背中に手を置く。小さな体。ほんのり香る桜の香り。そして……

「ご、ごめ、ひい、ら、ぎさん」

「?」

髪の毛が擽ったい。思わず笑ってしまった。どうしよう、また誤解されたら……!

「沖田君って……」

「え?」

「そうやって笑ってると本当に可愛いよね。弟にしちゃいたいくらい! 」

無邪気に笑う柊木さん。くしゃくしゃになった顔はもう気にしていないらしい。が、それって喜んでいいのか悪いのか。多分俺、恋愛対象に見られていない? 顔見られたくないって言われたのも俺が知り合って間もない、普通の男だったから? 恥ずかしいのも、別にこれが他の男子でもそうなってたってこと?


一気に気が抜けてしまった俺はその場に倒れこむ。

「え! 沖田君、大丈夫!? 」

「………だよ」

「?」

「柊木さんって本当に……ずるいよ。」

期待させといて結局はああ、やっぱ、そうだよな、と思わせぶりな態度を見せる柊木さん。普通女の子が言うであろう台詞を男の俺が言ってしまった。


「にしても佑都、よかったなー和解できて。」

「うん、本当に良かった。」

「で、結局解決したのはいいが昨日の内容、教えてくれてもいいんじゃねーの!? 佑都君よお? 」

また郁也の弄りが始まる。もうこの際言うべきか?

「柊木さんとお前の会話聞く限りには、相当公の場では言えないようなことしたんじゃねーのー?」

ニヤニヤしながら変な素振りをする郁也。

「ばっ、ちげーよ!! ただ理性が飛んで押し倒してキスして……」

「おっ、その言い方は続きをしたっていう……」

「だからちげーって!!」

「佑都、流石に知り合って間もない、女子と……」

「俺、そこまで変態じゃねーし物事考えれねーわけじゃねーぞ! ちゃんと、我に返ったし…平手打ちで。」

「はっはっはー! そりゃ、平手打ちされるわな! あーうけるー。」

泣きながら爆笑する程かよ……失礼な奴らめ。

何はともあれ無事に和解できてよかった。

今度からは気をつけねーと……。


でも、俺は知らなかった。柊木さんを攻略するに当たってこんなにも苦悩する日がすぐ目の前にくるとは……。

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