♯2沖田、暴走
「ちょ、ちょっと待てよ佑都。本気か? お前、そんな一瞬で恋に落ちちゃうの? え、え、俺もう意味わかんねぇ…。」
「なんかさ、俺も本当に急だったんだ。可愛いって呟いちゃったのも、好きだと思ったのも全部咄嗟に思ったこと。」
俺、沖田佑都は数分前、初めて会って、初めて話した女の人、柊木雫さんに恋をしました。俺が背が低かったから、相手を背が低く見れたから、とかではない。ただ、よくわからないまま柊木さんに恋をしていた。もっと声が聞きたい。もっと話したい。気づくといろいろな思いが込み上げていた。
春の訪れを予感させるような風に靡く綺麗な桜色の髪。少しだけつり目で長い睫毛。白く細く伸びた指。それらを目にした瞬間だった。
「でも佑都、女苦手じゃなかった? 」
そう、俺は、昔から女が苦手。話すことなんてできないし野外活動や修学旅行、男女ペアで行う作業が大の苦手。だからあの瞬間まで女の人と話したことなんてなかったんだ。
「うん……。でも俺、あの子…柊木さんの事もっと知りたいって思ったんだ。もっと触れ合いたい、いつかは告白したい。」
「佑都そこまで成長したんだな…背は成長してないみたいだけど。」
「うるせーな! それは……こ、これからだよ! てか好きになるのに何で身長まで関係あるんだよ! 」
「およよ?わかんねーぞ? 柊木さんのタイプが背が高い人かもよ? 」
「だ、だから……!!! 」
「はいはい、言い争いやめて。郁也、あまり佑都をいじめてやるな。こいつもこいつで真剣に悩んでるんだろうから。親友である俺らが手伝ってやんねぇとダメだろ? 」
「わかってるって…。で、佑都はこれから俺らに何を手伝って欲しい? 盗撮か? 家調べるか? それとも………」
「お前とりあえず黙っとけよ。」
郁也は真剣になればちゃんと考えてくれるのにそれに辿り着くまでが長い…。
「す、好きな、食べ物とか、動物とか、本とか聞いてほしい…特に、好きな本。」
「佑都。それ自分から聞いたほうが会話弾むくね? 本なんてお前読書家なんだし、『へぇ~○○が好きなんだ! 俺もだよ、今度ゆっくりはなそうよ! 』的な好展開が生まれるぞ? 」
「む、むむむむり! 俺、今度ゆっくり話そうなんて言えない! 二人きりなんて無理! 」
「じゃあさっきの『かわいい、』はなんだったんだよ…」
「あ、あれは本当に咄嗟で!!! 」
「じゃ、俺らがその話題を振れるように手伝ったらいいんじゃないの? 決してすべて今度話そーまで持ち越せとは言わないから、取り敢えず少しでもいいから柊木のプロフィール埋めていこうぜ、佑都。」
「こいつやっと真面目になったな…」
「俺は根は元から真面目だ、失礼な! 」
「盗撮とか何とか言ってたくせに。」
「二人とも…ありがとう。俺頑張る! 」
そうして俺達はそれぞれ家に帰っていった。
――「初めて、女の子と、手、繋いじゃった………どうしよう。」
俺は自室のベッドで今更ながら今日の行動にドキドキしている。手、俺より小さくて白くて可愛かった…でも顔とかスタイルはすごく綺麗だったな…。笑顔が可愛くて、髪も薄い桜色で…。恋したことがない俺だったけど、この人が俺の一番好きなタイプで、今まであった中で一番惹かれたひとには違いない。
――ピンポーン…
気づけば朝だった。チャイムを鳴らしたのはたぶん、郁也と徹哉。起きないと…。
「おはよう。」
『おはよう。』
「今日も相変わらず癖っけチビ佑都君ですね~? 」
「うるせーなお前は毎回毎回! 直らないんだから仕方ねぇだろ!俺だっていつか背伸びてモテモテに…」
「いや、お前は一生もてねぇな。ちびだし。女苦手で女という生き物を正確に知れてねぇ様なんじゃ。無理! 」
「だ、だからこれから頑張ろうとだな!! 」
「わかったから2人ともはやくいこーぜ。遅れる。」
『はーい…』
今日は間に合った。真ん中の席に座る本を読む女の子。桜色の髪が窓から差しかかる光に照らされて俄然、綺麗だ。すごく絵になる彼女。俺は完全に見惚れていた。
「おーい? 佑都? 」
「えっごめん、郁也。何? 」
「何っていうか…。お前見惚れすぎ。告白、仲良くの前に本人にバレるんじゃねーの? 」
あっ、そうか。好きになった以上そういうの気にしとかないと駄目なんだ…。
「お前、彼女いるよね? 郁也。」
「ん? ああ、いるよ。椛のことだろ? 」
「うん。その人とはどうやって? 」
「あー初めて話したのは中2の冬、席替えで隣になってから。んでそこから仲良くなるうちに好きになって。気づけば両思いっていうあり得ないだろって感じで付き合いだしたよ。」
こいつ根は本当に頼りになるやつだし、ルックスとかその辺も結構良いからアタックすれば満更…だよなぁ。俺の親友って2人ともかっこいいし運動できて、徹哉は半端なく勉強できるからなあ。
「いいよな、ふたりとも。」
ぽつり、と俺はつぶやく。
3人で俺の机で話していた時だった。
「あ、おはよう、沖田くん、前野くん、品川くん。」
『おはよー。』
俺は無言で声をかけてきた女の子を見つめる。柊木さん………。挨拶、してくれた。というか、こんな近くに……。
すかさず郁也が話を振った。
「そういや柊木って本とかよく読むの? 」
「え? うん、よく読むよ。最近は古前さんの作品読んでるんだ。」
郁也が感があたった、というようなドヤ顔をしている。
「そうなの!? 俺も古前さんの、作品好き! 」
咄嗟に口に出る。話したい。柊木さんと。
「! 沖田くんも好きなんだー! いいよね、古前さんの作品! 最近は『勝利の栄光』っていうの読んでるんだけど…。」
「そ、そう、なんだ。俺はまだ読んでないや…。」
ああ、嘘でもいいから読んだって言ったほうが良かったかな。
「じゃあ貸してあげようか? 」
「……!? いいの? 」
「うん、私実は一度読んでたし、いいよ。」
少し微笑みながら本を差し出す柊木さん。
胸の鼓動が周りに聞こえそうだ。ドクン、ドクン…緊張しながら、本を手に取る。
「あ、ありがとう。」
「どういたしまして! 」
どうしよう。一つ一つの動作が、言葉が俺の鼓動を速くする。好きな人ができるとこんな感じになるんだ。
――「じゃ、今日の授業は終わり! テストお疲れ様。帰っていいよー。」
「っしゃああ! 終わった! あ、ごめん、佑都、徹哉。俺、今日彼女と帰るから♪」
くそ、むかつく。
「佑都。俺もごめん。バイトあるから一緒に帰れない。」
「なんだよみんな帰れないのか……」
仕方なく席を立ち、一人で帰ろうとした。
その時だった。
――グイッ
誰かに手を引っ張られた。小さい手。女!? 思わず振り返る。
「柊木、さん………!? ど、どうしたの? 」また、俺、手握ってる。女の子と。柊木さんと。
「あっえっと…私も、帰る人いなくて…その、沖田くんがよければ、一緒に帰らない? 」
「あっえっと、その…俺で、よけ、れば。」
「本当!? よかった~、じゃあ、帰ろっ。」
無邪気にはしゃぐ柊木さん。言葉に出せないけどすごく可愛いです。
――取り敢えず一緒に帰るものの最初以外全く話が浮かばなくなった。だけどなんとか話題を振る柊木さん。気づけば分かれ道に差しかかっていた。もっといたい。もっと触れたい。そんな欲求が俺の理性を崩そうとする。
触れる、キス、キスがしたい。思うままに動いてしまった。理性が飛んだ俺は勢いで柊木さんを押し倒す。女が苦手で大してかっこよくもない、ましてや知り合って二日目のたまたま一緒に帰ることになった意中の相手に。そして、キスしてしまった。
唇がはなれる。柊木さんは顔を真っ赤にしていた。可愛い。そんなことを考えているのもつかの間だった。
――沖田くんのバカ! というと片手で平手打ち。我に返った俺。今更恥じる。彼女は泣いていた。俺も泣きたい。平手打ちした柊木さんは直ぐ様その場を去る。
俺は、その場に漠然と立っていた。
俺は、2日目にして大失態を犯した。
どうしよう、俺………嫌われた?
第二話です…。
なんかもう、沖田めちゃくちゃしすぎだろって感じだったと思います。
完全に嫌われそうな行動ですね。かっこいい男子ならともかくフツメンでちびでどちらかといえばかわいい系で慕われる沖田がいきなり出会いたての女のキスをうばう…。
獣ですね。
どうなるんだろう。作者もわからないです。