♯1 俺、恋しました。
「2年生も3人同じクラスになれてよかったね。」
「っていうか、佑都は? 」
「………さあ? 」
息を切らしてこちらに向かってくる男。
「何でお前らおいていったんだよ! 酷いじゃねーか! 」
「時間厳守、来なかったら置いてくって散々言っていた張本人が結局寝坊して逆ギレってお前の方が酷いぞ、佑都。」
「でも可愛いから俺は許すよ、佑都。」
「うう…そ、それは謝ります…す、すみませんでした…。郁也の『可愛いから、』は余計!!! 俺がその言葉でどれだけ傷付いてると思ってんだよ! 」
『(佑都)可愛い』という発言に敏感な俺は上都響高等学校、通称響高に通う沖田佑都。それと、逆ギレした俺のことを可愛いからという理由で許したツンツン頭なコイツは前野郁也。んでもって冷静に俺に説教したモデルみたいなこいつは品川徹哉。
幼稚園の頃からずーっと変わらず一緒にいる。そんなの早々に居ねーだろ、とか思うかもしれないけど、現にここにいるから仕方がない。
「まあまあ、取り敢えず3人揃ったことだし、教室行こーぜ? 可愛い子いたらいいなあ! 」
大抵何かするときは、郁也が先に動く。3人の中のいわゆる『リーダー』。こう見えて面倒見がいい。そして、いつでもどこでも人気者。それら含めフレンドリーだからなのか、彼女だっている。徹哉はクールでとっつきにくいと思われがちだけど意外と優しいことからクラス替え初日以降はモテモテ。彼女はいないらしいけど。そして彼女いない歴=年齢である俺はすごく悔しい。どこへ行っても『かわいいよね』と、彼氏にしたいとは言われない。告白もされないし、まず俺は女子という生き物が苦手。まあ姉である陽向
や母さんは別なんだけど…。
そうこう考えながら歩いているうちに教室についた。俺ら3人は今年も同じクラスらしい。素直に嬉しい。
「早く席ついてねー。簡単な自己紹介して貰うから。」
「俺らの担任はあの女の人かー。超美人じゃん。てか佑都もう寝てるし。」
「こいつ昔からよく寝るよな…授業だろうがなんだろうが。」
「はーい座って座って! …よし、みんなついたね。んじゃ、始めるよー。」
――「…た…ん…沖田君!! 」
!?? 俺は慌てて体を起こす。俺の体を揺すっていたこの女の人は担任らしい。ぼやけた視界を見渡してみると俺に視線が集中している事がわかった。どうやらクラス替え初日のお決まり行事、自己紹介が始まっていたようだ。あ行であるにも関わらずこの瞬間に至るまで寝ていた俺。ニヤニヤしながら俺の頭の横髪を指してくる郁也。触ってみると寝癖がついていることがわかった。くそっ寝過ごすし注目浴びまくるし寝癖見られるし初っ端から俺は何がしたいんだ。取り敢えず俺は自己紹介を済ます。俺の後ろの席の奴からまた自己紹介が始まる。そしてまたもや俺は眠りにつく。
――気づけば放課後。郁也と徹哉に起こされた俺はゆっくりと腰を上げる。
「…ん、終わったんだ。よし帰ろう~。」
「終わったんだって……せめて初日くらい起きとけっての! 」
笑いながらツッコむ郁也。
「まあ起きたからいいよ。帰ろう。」
徹哉が言う。そして俺達は教室を後にした。
――「にしてもお前の自己紹介ん時の寝癖、やばかったなあ!! 周りからは可愛い発言の連続だったぞ。」
「うるさいな!! 大体、2人が始まる前に起こしてくれなかったからだろーが! 」
「担任に座って言われたから座ったんだ。起こすにも席が離れすぎたんだ。ごめんな。」
「……べ、別にもう怒ってねーし…」
「あらあ? 徹哉の一言で弱々しくなっちゃって? 佑都は可愛いなあ!! 」
郁也が抱きついてきた。俺は速攻その手を振りほどく。
「やめろ! 気持ち悪い! やっぱり郁也嫌い! 」
「んなこと言っちゃって照れ屋さんですね~佑都君♡」
「お前ら仲良くするのはいいけどちゃんと前向いて歩け――」
徹哉が注意をすると同時だった。追いかけてくる郁也から逃れようと走っていると誰かにぶつかった。
――『痛っっ!!! 』
気づけば俺が相手の上に乗るような体制になっていた。
同じ学校――女…女!?????
俺の脳内がパニック寸前になる。俺が、女を押し倒す? そんな、待て、展開が早すぎる! と
「えっと…あの、前見てなくて…ご、ごめん…なさい。」
顔が見れない。恥ずかしすぎて。でも立たせてあげないと、それで謝らないと、と思ってどうにか手を差し出した。
「あ、ありがとうございます。私も話すのに夢中で…こちらこそ、ごめんなさい。…ってあれ? もしかして、今日の自己紹介で寝癖がついてた沖田君? 」
へ? 俺はみんなの自己紹介を聞いていなかったから相手の名前すら知らない。ふとかばんを見る…『柊木雫』。
「えっと…柊木、さん。あ、俺 沖田佑都です。」
「ははっ。それは自己紹介聞いてたからわかってるよ。よろしくね、沖田くん! 」
思わず俺は顔を上げる。何故か柊木さんの表情が、見たくなった。
そしてふと口にしてしまった。
「可愛い………」
俺が女子を苦手とすることを知っていた郁也や徹哉は勿論、近くにいた柊木さんの友人らしき人物、そして可愛いと呟かれた柊木さんが驚いた表情でこちらを見る。少し間があった瞬間、俺はすべてを把握する。とたんに顔が熱くなる。
「あっいや、その、これはえっと……」
どうにか言い訳を考えようとするも言い訳が一向に思い浮かばない。
「唐突にそんな事言ってくれる人、初めてだよ。面白いね、沖田くん。有難う、嬉しいよ。」
照れながら笑顔で受け答える柊木さん。
可愛い。この笑顔を独り占めできないだろうか。なんて考えた時にはもう俺は女子への苦手意識なんて捨てて、柊木さんを好きになっていた。
「それじゃあ、また学校でね。ばいばい。」
そう言うと柊木さんと友人と思われる人はその場を去っていった。
「いやー、佑都いつの間にそんな積極的になってたんだよ。俺、感心したわ~。」
「今まで散々佑都と女子のアンバランスな会話の成り立ちやらなんやら見てきたが、あそこまで佑都が積極的なの初めて見たぞ。手、差し出すほどお前女子に紳士だったっけ? 」
「…………俺、柊木さんのこと好きになったみたい。」
『え? 』
郁也と徹哉が顔を合わせて目を真ん丸にする。
「え、いまなんて? 」
「俺、柊木さんのこと好きになったみたい。
2人に手伝ってほしい。」
「え……はああああ!?? 」
俺は、高2の春、帰り際にぶつかったひと。『柊木雫』になんの躊躇いもなく「可愛い。」と言い、挙句の果て女子が苦手だったのに、今まで、こんな気持ちになったことなんてなかったのに。初めて恋をした。
俺は、柊木さんのことを何も知らない。
柊木さんも俺のことを何も知らない。
知ってほしい。俺のこと。
教えてほしい。柊木さんのこと。
これから俺は柊木さんの攻略をすべく、立ち上がる――。
いかがでしたか? 王道ファンタジー『デルディア竜騎士と悪魔のいる街』は今週は休載てし、もうひとつ連載物でこの作品を書いてみました…。別作品と同様、言葉足らずなものもあるとは思いますが、こちらの作品も応援していただけると幸いです。
沖田くんの柊木さん攻略が始まるわけですが…。恋愛に臆病、というか女子が苦手なはずの沖田くんの努力の日々が始まります…!