3rd Credit ~お参り?~
画面には「GAME OVER」の文字。曲はネームエントリー…… スコアラーが名前を入れる場所。
昔から入力欄は基本3文字に固定されているせいか、スコアラーネームもみんな三文字だ。
今日はなにやら熱い日らしい。
「今日みんな本店なんだけど、お前は行かないの?」
忍さんがいつものケロっとした笑顔で言う。
「なんで行くんです?」
「集計日」
と忍さんが指をさした先に、泉ヶ丘ガロッタのスコアボードがある。
常連の人たちの名前がずらりと並ぶ。
「『ゲーム凄い人』と『マシマガ』買ってないの?」
目を丸くして忍さんが念を押す。
僕は「ああー!? ええ???」と素っとん狂な声を上げる。
ゲーム凄い人、マシマガともに、ゲーマーで知らない人はいない攻略誌。
毎号アーケードゲーム盛りだくさんの内容で、攻略からハイスコア集計までを行っている。
両者の違いは、「凄い人」が独自路線であるのに「マシマガ」はとあるメーカー公認なこと。
とにもかくにも、僕にとっては憧れの本。
裏話だと、「凄い人」と「マシマガ」で情報合戦が続いて、互いの記事の盗用疑惑もあったらしい。
「んで、行かないの?」
「そんなこと言って忍さんはここにいるじゃないですか!」
ちょっと意地悪く突っ込んでみた。
「俺は…… いいかな。飽きちゃって。」
さらっととんでもないことを言っている気がする。
僕は、「『Mr.ちゃっくん』とか『デーモン水上』とか凄い人いますよね」と言うと、またケロリと。
「あれは、上野ガロッタに行けば嫌でもいる。」
「そりゃそうでしょ?」
上野ガロッタは聖地。ゲーマーの憧れ、ゲーム雑誌の編集部直属のプレイヤーがしのぎを削っていると思われる。
「あれ? 園部信じてない??」
…… 話題の内容が掴みづらく、返答に困る。
そして僕は今日の目標を決めた。
「忍さん、みんないないなら帰るまでにハイスコア出そうかなぁ!」
「…… 頑張れ」
今日の僕は「オキシジェン・ブラスター」のハイスコアを出すのだ。
――――― 夜8時。
「HKMさんのスコア抜いた! ノートに書くよ、佐藤さん」
佐藤さんは、静かな顔でノートを持ってきた。
これでガロッタのスコアボードとマシマガに僕の名前が載るはずだ。
僕は上機嫌でバスに乗って帰った。
次の日、放課後ガロッタに来た僕は、信じられないものを目にする。
「オキシジェン・ブラスター ハイスコア:MGW」
目眩がする、一体何があった!
スコアボードを見つめる僕に、忍さんは言った「18歳未満は10時まで、さて成人は?」
「酷いじゃないですか! 僕がハイスコアを出したんだ! 昨日この店には誰もいなかった!!」
声を荒げて怒鳴る僕にカウンターの佐藤さんは、
「MGWはハイスコア集計日にだけ来るんだよ」目を閉じて言う。
僕は頭がどうにかなってしまいそうだったので、ガロッタの外に出た。
忍さんが付き添ってくれたが、無視していた。
「園部っち~」、いつもの人懐っこい声。
でも、怪訝に「なんですか?」と返す
「あのさあ、ハイスコアには手を出さない方がいいよ」
忍さんの声に視線を突き刺しながら、口を曲げる。
忍さんはこう語る。
僕は、きっと20年後にもこの言葉を噛み締めているのではないか? そう思う。
「ゲームセンターは年齢無制限で、ハイスコアは1プレイ100円の競技をする
その時点で、金銭額にも入場時間にも、年長者は有利だ。
自由の中で繰り広げられる競争って、有意義だけど、つらいんだよ。 」
そして、舌をペロッと出して続ける
「相手が勝てないと思えば、相手は投資しない。戦うなら頭を使え。」
僕がポカンとしていると、忍さんは手を振って。
「得意ジャンルの新作を回数多くやって、スコアで相手の肝を抜けば相手は撤退するの。」
と、肩をすくめる。
「戦い方か……」
僕は、名前も知らない集計日だけのハイスコアラーだらけのスコアボードを一瞥すると、今日はガロッタをあとにした。
―――― 終わり
…… その話から1年後、とあるゲームが集計日の3日前にリリースされ、
僕と忍さんはお小遣い全部注ぎ込んでクリアして、連名で情報誌に載ったのは、また別の話。