1st Credit ~それは16歳のとある朝だった~
ぴきゅーん!、ばん!、ぴろろろ~ん、彼らは心地よい雑音だった。
僕が幼稚園だったときからそこは楽園。ただただ、世間体と言う壁が邪魔をした。
行くだけで、どんな優等生でも”不良”になれる場所に僕はいたのだ。
―― そう、ゲームセンター! ――
彼は机に突っ伏していた。机と言っても、中央部にブラウン管が取り付けられている。
「うーあー、暑い。エアコン強くしろー佐藤さん。」
常盤 忍は、レバーに左手をかぶせ、コイン投入口の辺りを反対の手で撫でまわしている。
大切なペットを操るかのような手は、心なしか焦っているようだ。
僕はそんな忍さんを見つけると、隣の椅子に胡坐をかいて座る。
佐藤さんはどうしたのか?、とも思うけど、それよりも!
「忍さん、なにやってんですかー」
その問いに忍の目が輝く!
「そう言うお前は、ナゼココニイル!」
親しげな叫びが、二人だけの客を包む。
そう、今は4時間目。お昼にはちと早いが、二人は学校前のガロッタの中で話している。
忍さんと僕は、ここで出会った。
高校へ入学して、目の前にあったゲームセンターに飛び込んだ僕は、毎日ゲーム三昧だった。
ゲームセンターには色んな色がある。
朝の色、昼の色、そして夜の色…… 僕の知っていたのは夕方6時までの色。
忍さんは、夜6時からの人だった。
僕は5時のバスに乗ってしまうが、忍さんは違う。
「僕は見ていない、聞こえない。バイトには何の権限もない」
後ろのカウンターから小さくため息が漏れる。
佐藤さんは、エアコンの出力を落として邪魔をしているようだ。
「こら、青年! 授業サボっちゃいけません。」
ガラス越しに太陽を浴び、汗をにじませて笑う忍さんに、僕は身体が固まる。
「ん? どうした??」
忍さんの目に僕はどう映っただろう。
僕の顔に火が付く。真っ赤になって止まらない。
そんな忍さんは僕を気にしてかどうか知らないが、テーブルに向き合うと100円を入れた。
「れ? 園部は?」
忍が気付いたのは1時間ほど経ってからだった。
心なしか、忍の汗は涼やかだった。
ああ、ああ、痒い、痒い。
忍さんがゲームを始めると、僕は昼休みの学校へ戻っていた。
中学時代の先輩や仲間が水泳部にいたので、プールのシャワーを浴びさせてもらい授業に戻った。
思い出すだけで身体が痒くなる。
まるで男の子の僕が女子風呂へ入れてもらえなくなったように小学校は僕とここを切り離した。しかし、それは中学で嗜みに変わり、高校で趣味になった。
中学では身長も伸び、いつの間にか声も1オクターブ低くなった。
「恥ずかしいじゃないか、僕が青年?」
僕は戻ってきたのだ。そんな実感を放課後には持つに至る。
園部 勇16歳の夏、青年(大人)なら好きなだけゲームやっていいんだよ!
勇の少しマセた考えが、彼自身を後押しした。
この日を境に勇は、少し夜遅く帰るようになったようだった。orz...