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竜と飲むお酒

作者: K-Chu

むかーしむかしのお話です。

大きな大きな山の奥深くに一頭の竜が棲んでおりました。

この竜はどんな竜よりも強く、速く、大きい竜でした。

この山の近くの国に住む人々は皆、この竜を怖れ、敬っていたのでした。


ある日、竜の元に全身に鎧を着込み、大きな荷物を持った騎士がやってきました。

騎士はゆっくりと竜の近くに寄るとドカッと地面に腰を降ろしました。

そして荷物から大きな酒瓶と盃を取り出すと、盃にトクトクと酒を注ぎ、竜に差し出しました。

竜は不審に思いながらも盃をカギ爪で器用に受け取りました。


騎士はフェイスを外して地面に置くと、何も言わずに酒瓶から直接酒を飲み出しました。

それを見た竜も盃を傾け、注がれた酒を飲み干しました。

それからしばらくの間、竜は黙って盃を差し出し、騎士はそれに酒を注ぎ、また酒をあおっていました。

酒瓶が空になると、騎士は何も言わずに帰って行きました。


騎士は次の日もその次の日もお酒を持ってきては無言で竜と酒を飲みました。

何時の間にか竜はこの時間を楽しみにするようになりました。

その内に、酒の肴にと干し肉やチーズなどを用意するようになりました。

ところが騎士が来るようになって数週間後、プッツリと騎士は来なくなってしまいました。


竜は寂しく思いましたが、数百年過ごしてきた生活が戻ってきただけだ、と、騎士が来る前の生活を再び続けました。




騎士が来なくなってから十数年後、一人の少女が大きな荷物を持ってヨロヨロとやって来ました。

少女はフラフラしながら竜に近寄るとドサッと荷物を降ろし、自分もその隣にちょこんと座りました。

荷物の中から大きな酒瓶と盃を取り出し、酒を盃に注ぐと、笑顔で竜に差し出しました。


竜は懐かしみながらカギ爪で盃を受け取りました。

少女は小さな盃に酒を注ぐと一度盃を捧げ、一息に中身を飲み干しました。

竜もそれに合わせて盃を空にしました。

竜が盃を差し出すと少女は微笑んで酒を注ぎ、自分の分も入れ直すと、また一息に飲み干しました。

酒がなくなると少女は帰って行きました。


少女は二、三日ごとにフラフラと酒を持って来ては笑顔で竜と飲み交わして帰って行きました。

竜はまた、酒の肴を用意するようになりました。

ところが数週間後、またプッツリと少女は来なくなってしまいました。

気になった竜は、近くの村に行って少女を探すことにしました。


竜は空を飛び、山の近くの村々を見て回りました。

しかし、どこにもあの少女の姿はありません。

何日か探して諦めた竜は棲家の洞窟に戻ることにしました。

その途中のことです。

竜は夏だというのに未だ雪が残る山の頂に大きな柱を見つけました。

気になった竜は柱に近寄ってみました。するとそこには---


なんと、柱の先にはあの少女が縛り付けられていました。

夏とはいえ山の頂上です。そんなところに縛られていたら凍死してしまいます。

驚いた竜は急ぎ少女の縛を外すと、自分の寝ぐらに運びました。

棲家に戻り少女の状態を確認すると、息はしているものの、体温がとても下がってしまっている状態でした。


竜は近くにあった岩をくり抜き、洞窟に溜まっている水を入れ、炎の息を吐いてお湯にすると、その中に少女を横たえました。

しばらくすると、少女の肌に赤身がさしてきたため、少女をお湯から出し、寝床にしていた藁で軽く体を拭うと、少女を藁の寝床に横たえました。

少女の近くで焚き火もおこしました。


数時間後、ようやく少女が目覚めました。少女は始め、自分がどこにいるかわからないようで驚いた顔で周りを見回していましたが、竜の姿を見つけると安心した顔で再び眠りに着きました。

少女が次に目覚めたのは次の日の明け方近くでした。

竜は近くの村に飛び、少女のために食物を取ってきました。


竜が食べ物を持ってきたのを知ると、少女は喜んでかぶり付きました。

少女が一通り食べて落ち着いたころを見計らって、竜は少女が柱の上に縛られていた理由を訪ねました。

なんと少女は山の神様に貢物として捧げられていたのです。

竜とも臆さずに酒を組み交わせる聖なる存在として。



そもそもなぜ、少女は竜の元に酒を持ってきていたのでしょうか。

それは、少女の父があの騎士だったからです。

幼い頃に騎士から聞いたことを少女もやりたかったのです。

騎士がこなくなった日、騎士はいつも通り酒を持って竜の元に向かっていたのですが、山の民に捕まって貢物にされていたのです。


少女は騎士があの日に帰ってこなかった理由を身をもって知ったのでした。

また、あの騎士が酒を持ってきていたのは、騎士仲間に自分は竜とでも酒を組み交わせる、と豪語した結果だったのでした。

竜はこの話を聞くと、天を仰ぎ、炎を吐きながら大笑いしたのでした。


少女のことをとても気に入った竜は盃を用意すると、そこに自分の血を注ぎ、少女に差し出しました。

少女は目を丸くしながらも盃を受け取り一息に飲み干しました。

するとどうでしょう。髪の色や眼の色がみるみる黒く変わっていくではありませんか。

これにより、少女は不老不死の体へとなったのです。





むかーしむかしのお話です。

大きな大きな山の奥深くに一頭の竜が棲んでおりました。

この竜はどんな竜よりも強く、速く、大きい竜でした。

この竜は晴れた日に青空を見上げると気持ちよさそうに飛んでいるのですが、その頭の上にはいつでも黒髪、黒眼の笑顔の少女が乗っていたとか。


めでたしめでたし。

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