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ベルトコンベア

作者: モーフィー

 ある時、宇宙から何かしら意味のある電波が受信された。たちまちそれは世界中のニュースに流れ、全世界の注目を浴びた。難しい顔をした学者達がそれを解読してみるとそれは宇宙人からの交信であった。


『われわれは高度な文明を持ったスーア星人です。地球との交流を結びたく、はるばるやってきました』


 という意味の文章が書かれていた。自ら高度な文明と名乗っているのにふさわしく、宇宙を越えて通じる美が感じられた。


「こちらとしてはあなた達を歓迎します。しかし不快だとは思いますが、その前に我らの宇宙基地により、我らの安全のために検査をしてもらってはいけないでしょうか?」

『それは、あなた達の安全を守るための仕方のない申し出です。喜んで受けましょう』


 たちまち宇宙基地からの映像が地球に届き、全世界に放送される。人々が初めて見る宇宙人の姿、それはほぼ地球人と同じ体型をしていた。銀色の曲線で包まれた宇宙服を脱ぐと、少し浅黒い肌と知的な瞳が現れる。これを見て地球人はほっとした。何にしてもスライムのようなゲル状のようなものと会話を交わしたくない。


 彼らは宇宙服から小さな機械を取り出し口にあてた。それは地球の技術では絶対に真似できない高性能な物だった。


『地球のみなさん、改めてご挨拶いたします。われわれはスーア星からやってきました。スーア星は地球から三億光年離れたところに存在する星です』

「三億光年というと、地球へ来るまでにとてつもない時間がかかったのではないでしょうか?」

『いえいえ。幸い、われわれは高度な空間を移動する技術を持っていましたから。地球の時間に換算して一ヶ月ぐらいでは行けるでしょう』


 そうスーア星人は涼しい顔をしていった。地球側は感服する思いであった。


「なんと、尊敬する思いであります。ぜひとも地球側にその技術を売ってもらいたい」


 ここで交信は終わった。地球側は宇宙基地からやってきた宇宙船を受け入れた。何なのか知らない金属で作られた宇宙船は音もなく地面に降り立った。すべてが滑らかな曲線で作られた宇宙船の一部が開き、先ほどまでテレビに映っていたスーア星人が出てきた。


 宇宙船の回りにはすでにテレビ局のレポーターなどで埋め尽くされていた。


 煌々と照らされたライトの下で地球人の代表が出てきた。対してスーア星の代表が優雅な足取りで進み出る。


『急な訪問にも関わらずわれわれを迎えてくれたことをスーア星一同、感謝します』

「いえいえ。感謝するのはこちらの方です。わざわざ地球に立ち寄ってくれてありがたく思います」

『私たちは快くわれわれを歓迎してくれた地球人達に贈り物があります』


 そう言い終わると同時に銀色の宇宙船の一部がパカッと開き、大きな手のような物で、プラスチックでできたような卵形のものがスーア星人と地球人代表との間に置かれた。スーア星人はその機械に近寄るとボタンのような物を押した。すると、プラスチックの卵は崩れて、地面にレールのように敷かれた細い板と、一回り小さなプラスチックの卵が現れた。透けて、中には椅子のような物が見える。


「これは、何でしょうか」

『これはわれわれの星で一般的に使われている移動手段です』


 プラスチックの卵は光を反射して虹色に輝く。地球代表はそれに魅せられて思わずそれに近づいた。すると、プラスチックの卵の一部がパカッと割れた。


『どうぞ。お乗りください』


 地球代表はおそるおそるプラスチックの卵にのり椅子に座る。すると自然にプラスチックの卵は球体へと戻った。

 スーア星人が手をかざすとプラスチックの卵はわずかに浮き上がった。たくさんのフラッシュがたかれる。


『これはレールの上なら自由に移動が可能な乗り物です。どこに行きたいのか頭で考えてください。するとこれはあなたの意思に沿って動きます』


 すると、プラスチックの卵はゆっくりと前へ進んだ。これには地球側から歓声が上がった。中にいる地球代表はしばらくボーっとしていたが、外の熱い視線に気づいたのか後ろ、前と卵形を自由に動かした。


「こ、これは! なんとすばらしいものでしょう」

『恐れ入ります。われわれは地球との友好の印にこれを地球全土に普及させたいと思います。もちろん、無償です』


 大きな拍手の渦が巻き起こった。




 スーア星人の言ったことは嘘ではなかった。たちまち、彼らは地球全土にレールを敷き、プラスチックの卵を全地球人に供給した。


 卵のすごいところは移動手段だけではなかった。頼めば食料が合成されたし、卵にのりながらスポーツも出来た。娯楽も充実していてスーア星の高度な教育を学ぶことが出来たし、病気になれば最上級の医療が卵の中で施された。それも卵は無償で提供されたため、誰も損はしない。


 たちまち、人々は卵の中で一生を暮らすようになった。赤ん坊が生まれればすぐに卵に移され、完全な衛生、そして教育環境の中育てられ、誰もが長生きをして死んでいった。




 卵が身体の一部になって何年が過ぎただろうか。男も卵の中で今日も目覚めた。そして、卵が提供された食事をとり、卵の中で風呂を浴び、スーツを着て、卵に乗ったまま出勤する。


「やあ、おはよう」

「元気そうだね」

「もちろんだ。健康は今や贅沢じゃなくなったさ。病院に行く前に卵は身体の異変を感知して直してくれるもんな」

「違いない」


 会社に行く道は通勤ラッシュだ。それでもストレスは感じたりはしない。卵がすぐに娯楽を提供してくれるからだ。無線で友と囲碁を打つ。


「今日は俺の勝ちだな」


 男が満足げに笑ったその時、会社に向かっていた卵の速度が落ちた。


「ん? 事故かな?」


 卵の壁を透明にしていると周りの卵も同様に進行を止めていた。男はしばらく卵から提供された娯楽を楽しんだが、いくら待っても卵が動く気配はない。このままでは会社に遅れてしまう。

 イライラして男は卵の操縦を手動に変えようとした。


 けれども、卵は動かない。


「どういうことだ?」


 卵の設計にミスはない。よって、緊急時の卵からの脱出の方法なんて考えたことなかった。第一、外に出たって歩けるかどうかもわからないし、外の汚い空気で呼吸ができるだろうか。


 と、卵が急に動き出した。しかし、会社とは違う方向だ。


「おい、これはどういうことだ! 説明しろ」

「エラー発生。エラー発生。B87を発動します」


 外の卵を見ると、彼らも制御不可能になっているようだ。生まれて初めての恐怖に中の人が大声でわめいているのにも関わらず、卵は速度を落とすことなく、レールの上を走る。


 卵はレールの上に一直線に並び、切れ目なくある場所へと移動していく。男は外にスーア星人の卵を発見した。


「助けてくれ! 卵が勝手に動くんだ!」


 男の動きに気が付いたスーア星人は無線で何かを喋る。


「エラー発生。エラー発生。K07を発動します」


 その瞬間、男の卵内に催眠ガスが発射された。男はそれを避ける間もなく顔面にくらい、音もなく崩れ落ちた。





「ふう、やっとこの時期に入ったな」

「地球任務も長かったもんだ」


 目の前に広がるのは整然と並べられた何万もの卵。効率を重視したベルトコンベアを導入したおかげで早く作業は終わるだろう。


「けれどもおまえもいい商売を考えたものだよな。完全卵内培養で病気も持たない、味もいい人間の肉を新鮮なまま星に輸出しようと思いつくなんて――」


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