『お願い』
今回ちょっと短いです。
「――随分と派手なお出ましですね、クライドロ陛下」
ローディオの国王たるテオドールの皮肉交じりの言葉に、相手はへらりと緊張感のない笑みを浮かべた。
「そうでしたか? 第一印象が大事だと思ったんですけど、何か可笑しい所でもありました?」
そう言って、首を傾げている仕草も飄々としていて、何を考えているのか窺い知ることは出来なかった。
テオドールは内心溜息をつく。
フェルメリアの国王は、テオドールの近くにいない型の人間であると同時に、それなりの難物の様だ。
「フェルメリアの気候は、ローディオのものとは随分異なると伺っております。フェルメリアの皆様には、こちらに慣れるためにも、少々お休みになられてはいかがでしょうか?」
「お気遣い、ありがとうございます」
テオドールの言葉に、クライドロは軽く頭を下げる。
「ただ、厚かましいと思うのですが、テオドール陛下に一つお願いがあるのです」
クライドロは、背後に手を向けた。
「フェルメリアの民にとって、己の騎獣はただの足ではなく、戦友以上のもの。また、フェルメリアの騎獣にとって、主と呼べるのは、騎乗者以外に存在しません。私は、彼等をあまり引き離す様なことはしたくないのです。――ですから、どんな場所であってもかまいません、ヴァイスシュロースには、騎獣の近くで休める部屋はございませんか?」
クライドロの『お願い』に、テオドールは押し黙る。
「……つかぬことをお聞きしますが」
正妃が控えめに、クライドロに尋ねた。
「ローディオにも、騎獣の扱いに秀でた厩番がおります。その者達にそちらの騎獣を預けることは、どうしてもできないのでしょうか」
クライドロは、少し笑って首を振った。
「ローディオの騎獣の専門家を侮辱するつもりで言った訳ではありません。ローディオの騎獣に比べて、フェルメリアの騎獣の気性が荒過ぎるのが悪いのです。――我等の騎獣は、己に気に入らない者が近付くと、その者を殺してでも退けようとすることが多いですから」
つまり、最悪死人が出るという事だ。
……それは果たして、気性が荒いですむのだろうか……。
とんでもないことを笑顔のまま言いきったクライドロを、テオドールは何処となく薄気味悪く思う。
クライドロの背後に目を転じれば、自国の騎獣より屈強そうな騎獣ばかり。何故だか、ローディオにも生息しているワイバーンやヒッポグリフにしても、フェルメリアの騎獣の方が身体も大きく段違いの威圧感がある。
残念なことに、テオドールには厩番が彼等を扱いかねている様子しか目に浮かばない。
しかしながら、騎獣をヴァイスシュロース内に招き入れるわけにもいかない。そもそも、扉と騎獣の大きさの比較の通り、騎獣が城内に入るわけもない。
テオドールは悩んだ。