意味のない企み
クライドロは心の中で盛大に溜息を吐いた。顔の方は平然とした表情を保っているのは、王様の嗜みである。
なんだかここしばらく結構溜息を吐いている気もするが、多分気にしたら負けなのだ。
「――つまり、男女同伴が今回の夜会の規則で、同伴者がいない私は会場には入れないと?」
自分の問いに当然のように頷いた門番を見て、クライドロは天を仰ぎたくなった。
今夜のローディオ王家主催の夜会に参加するフェルメリアの民は、クライドロを含め七人(その他は宿泊施設の魔改造に忙しい)。男やもめのクライドロは、同伴者に妻以外を選ぶ気はなかったし、面倒な舞踏は下に押し付ける気満々だったので、伴うべき異性はいない。
それを見越していたのだろうが、こんな手を使ってくるとは――。
嫌がらせの程度が低すぎるだろう、もっとちゃんとやれよ、というのがクライドロの偽らざる感想だ。流石にこの前ちょっかいを出そうとしてきたやんちゃな女公爵の水準になったら、厄介だと思う。しかしながら、フェルメリア勢に速やかに帰って貰いたいのなら、もっと知恵ぐらい絞ったらどうだ、とクライドロは企んだ者に言いたくなった。そしてテオドールに、ローディオにはフェルメリアに反感持っている奴多そうだから頑張ってくれ、と遠くから声援を送っておく。
生憎とて、クライドロはこの程度でへこたれるような神経を持ち合わせてはいないのだ。
ただ、へこたれはしないが、回れ右してこのまま帰るわけにもいかないし、門番を力尽くで排除する訳にもいかない。
そんなことをしたら、ローディオに来た目的が達成できなくなる。
どうしたものか、と考え込んだクライドロの感覚は、困惑する一人の少女を捕らえた。風と親しむクライドロの感覚は、徒人とは異なる世界を知覚する。
少女を『見て』、クライドロはおやっと思った。
蜂蜜色の髪を整えた、小柄な少女だった。
可愛らしいと言って差し支えない容姿だが、その虹色の膜が掛かった琥珀色の瞳は異質。身に纏う淡い緑色のドレスは、上質な生地を使用しているものの、装飾が極端に少なく、夜会に向いた衣装とは思えなかった。
頭の中の情報と照らし合わせ、クライドロは少女をローディオの第十一妃と断じた。
初めて見た、とクライドロは呑気に思う。
彼女もまた、同伴者がいないために、会場入りを拒まれているらしい。
――嘗ての異国の巫女姫の待遇が何かと悪いとの情報は、事実であるようだった。
けれども。
「これじゃ意味無くないか?」
クライドロは呟いた。
同伴者がいない男が一人。
同伴者がいない女の子が一人。
足したら、男女同伴が一組出来上がる。会場に入るのに、御題目上の問題は無くなるのである。
とりあえず、クライドロの脳内採点表における、自分への嫌がらせの首謀者の評価をさらに下げておいた。嫌がらせが被る事態になる前に、他人の動きぐらい把握しておけよ、との考えからだ。
クライドロとしては、とてもとても都合が良いことだったが。
――使えるな。
心の中でほくそ笑むと、クライドロは迷わず少女の元へ歩き出した。
――クライドロは、亡き妻以外に女性を選ぶとしたら、己の伴侶だけだと断言できる。だから、異性を連れ歩かなければならない集まりは嫌いだ。彼女等以外を、傍らに侍らさなければいけないから。
彼女には悪いが、自分と同じ嫌がらせを受けていたのが第十一妃で良かったと、クライドロはつくづく思う。
他人のものを借りる方が、未婚の娘を選ぶより、まだ抵抗がないのだ。




