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夜会の準備

フィオレンティーナは途方にくれていた。

「……いかがなさいますか?」

フィオレンティーナ付きの侍女である、イルマが主人の顔色を(うかが)う。

「出ない訳には、いきませんよね」

そう言って難しい腕を組んだのは、同じく侍女のルーディアである。

フィオレンティーナの手の中にあるのは、上質な紙でできた招待状。

ローディオを訪れたフェルメリア国王たちを歓待するために開かれる、夜会のものだった。

フィオレンティーナは人が多く集まる場所が苦手なので、正直夜会には出席したくはない。そうでなくても、最下級の側妃であるフィオレンティーナの立場は弱いのだ。夜会などに出たら、他の参加者の嫌みや嘲笑(ちょうしょう)の集中砲火を浴びることになる。

けれど、ルーディアの言う通り、こうして招待状を受け取ってしまった以上、フィオレンティーナに拒否権は無いのだ。

「出席するわ」

フィオレンティーナはそう宣言して、大きく息を吸った。

「大丈夫、大丈夫だから」

心配そうに自分を見る侍女たちへの言葉は、その実フィオレンティーナ自身に言い聞かせるものだった。


        ◆◆◆


「都合よく、あっちの王様が腹壊したりしないかな~」

「んなわけあるか」

クライドロのぼやきにジャワードが突っ込む。

クライドロは夜会に参加するのが嫌いなので、仮に今回のローディオでの夜会が中止になれば万々歳なのだ。

クライドロには、夜会には付きものの香水だの何だのが入り混じった臭気(しゅうき)と、社交界の付き合いがどうにも(いただ)けない。

元々クライドロは、貴族階級特有の、虚飾(きょしょく)と建前ばかりで本音はそこはかとなくしか(ただよ)わせない会話は苦手である。そんな意味不明にまどろっこしい話に付き合わされた日には、クライドロは、もっと簡潔に言ってくれと手近にあるテーブルでもひっくり返したくなるのだ。貴族特有の会話を乗り切るための場数は十分に()んでいるが、それでもクライドロの苦手意識は消えていない。

「夜会なんかよりも、とっとと交渉したいんだけどな」

「ローディオ側の見栄(みえ)なんだろ」

「……大将、まだじっとしてなきゃ駄目(だめ)なの?」

「スキア、それさっきも言ったろ」

クライドロは、(うさぎ)(みみ)の娘の髪を結いあげているところだった。

女性の髪結いは、クライドロの意外な特技の一つである。ついでに言えば、クライドロは人に化粧(けしょう)をするのも上手い。

クライドロの名誉のために言わせてもらえば、彼に女装癖(じょそうへき)は無い。ならば何故そうなったかと言えば、某国(ぼうこく)の王族であった妻の身支度(みじたく)を侍女の代わりにしていたら、自動的に(きた)えられただけである。

「お洒落(しゃれ)は女の(いくさ)装束(しょうぞく)なんだから、しっかり準備しないとな」

――ここで、本当に実際の戦闘にも十分以上に通用する装束になってしまうのが、フェルメリア仕様である。

何せ、婚礼(こんれい)衣装(いしょう)が戦闘服になるという、他国では笑い話になるような実例が存在するくらいだ。

強力な魔物が跋扈(ばっこ)するフェルメリアの民は、身に付ける物が自然と対魔物を意識したものになる。それは、『備えあれば(うれ)い無し』という(ことわざ)実践(じっせん)しているというよりは、『備えなければ死ぬ』という強迫観念に発展していると言った方が正しい。

婚礼衣装はその最たるものだ。フェルメリアの民は、かけられるだけの金をかけて、婚礼衣装に守護や身体能力強化といった効果を付加する。結婚式の最中(さなか)に魔物が襲って来ても大丈夫な様に、という心遣(こころづか)いなのである。

勿論(もちろん)、今現在クライドロ達が着ている礼服や夜会服も、そのまま魔物の討伐(とうばつ)に直行しても問題ない様な性能がある。

と――。

「陛下~」

ぽんっ、と音を立てて、空中に羽付きの二足歩行のカピバラが現れた。

「ジーニアスが材料費の立て替えお願いって言ってました~」

「何のだよっ!」

伝言をしに来たトーポに、クライドロは(さけ)んだ。たかだ材料費と(あなど)るなかれ。ジーニアスの様にいろいろと(こだわ)る魔法具職人が用いる素材は、普通に目玉が飛び出るような価格になる。

此処(ここ)の修理のついでに、耐久性の強化とか結界を()るのとか頑張るって言って、張り切ってましたよ~」

「ああ、そっか~。――トーポ、とりあえず、(わな)だけは絶対作るなってあいつ等に言っといて」

()めないんだな……」

「やる気満々な(やつ)()めたって、どうせ()まんないしな~」

クライドロは(さと)りきった表情で、溜息を()いた。

フェルメリアの民の気質からすれば、館の修繕(しゅうぜん)が魔改造に行き着くのは当然の帰結と言える。備えなければ、おちおち(くつろ)げもしないのだから。

「帰るときにテオドール陛下には謝っとくから、大丈夫だって」

「もうすでに謝った方がいいんじゃないか?」

そう言って、ジャワードは天を(あお)いだ。古ぼけカビが()えてさえいた天井は、輝く白さを取り戻している。フェルメリア一行がこのオンボロだった(はず)の建物に足を踏み入れてから、数時間足らずでの早業である。

フェルメリアの民の技術力と行動力は(すご)い。――凄いが、それだけで何もかもが上手くいく訳でもないのだ。

「本当に大丈夫なのか……?」

いろいろと。

ジャワードはものすごく不安になった。

「大丈夫にすればいいんだよ」

クライドロの言葉は、逆にジャワードの不安を増幅(ぞうふく)させるだけだった。




フィーちゃんは心の準備で、クーさんたちは衣装の準備です。

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