第3話:ちょっと飛びすぎ?
「さぁ、ご飯が出来ましたよ」
目の前に置かれる少し大きめなハンバーグ。
程良く焦げていて、おいしそうな香りがたちこめる。
普段の俺ならば、ぱくりといくところだが、今回は状況が状況だ。
「お食べにならないのですか?……もしや、私の料理は食べられないと?」
「い、いやそういうわけじゃないよ。夕菜さんの料理はおいしいし」
「ならば召し上がってください」
にっこりと微笑む夕菜。
いや、でもなぁ……。1人、ずっとこっち見てる奴がいるんだよ。
「なんだよ裕也、俺らのことは気にするな」
いや、そういうわけには……。
「大丈夫だって。お前がクラスのアイドル朝倉夕菜と一緒に暮らしていて、それでメイド姿にして仕えさせてご主人様気分を満喫しているなんて誰にも言わないから」
「…………」
そう、俺が夕飯を食べる気が起きないのはこのなんともいえない雰囲気のせいであった。
こいつら……戸惑いを隠せないスバルと、夕菜と意味深な話をしている神条美咲あ〜んど橘有希。そして、俺を凝視する飯島庄司達、いつもの4人組がウチに来たのは約10分前。
後でウチに来る。この、スバルの発言の後、対処の仕方に色々と考えをめぐらせたのだが、結局いいアイデアは浮かばず、全てを話す事に決めていた。そして、その結果が変な誤解なわけで。 ……つーか俺をじっと見つめんのヤメロ。鳥肌が立つ。
「……俺は今、かつて無いほど殺意を覚えている」
だから目で殺そうってコトか?
「まぁ良いじゃねぇか、裕也にも色々と事情があるのさ。わかってやれよショウジ」
さすがスバル。やっぱお前は優しいよ。
「嫌だ!俺も可愛い子に朝起こしてもらったり、ご飯作ってもらったり、背中を流してもらったり、夜のお供をしてもらったりしたい!!」
凄く直球だな、オイ。この煩悩魔人め。
ていうかコイツ、メイドを勘違いしてねーか?
「だ・か・ら!俺も自分から望んでこの生活を始めたんじゃないんだよ」
原因はアホオヤジ。
「でも今一緒に住んでんじゃん」
「まぁ、実家にも家政婦さんは結構いたし、1人暮らしは十分満喫したしな。元の生活が戻ったみたいなものさ」
このメイドさんは少々人使いが荒いけど……。
「そっか、芹沢グループの御曹司だもんな。お前。そりゃ、超A級の専属メイド付いて当然か」
どっか嫌味くさい気もするがまぁそのとうりだな。
「まぁ、会社継ぐのは兄貴だけどな。だから俺はここに住んでるのさ」
「裕也んとこ兄弟いるのか?」
初めて聞いた。とスバル。
「ん?ああ、そういやスバル達には言ってなかったっけ。ウチは4人兄弟だよ。上に兄貴が2人、下に妹が1人いるんだ」
みんなちょっと頭おかしいけどな。
あ〜それにしても懐かしいな。元気にしてっかな?兄貴たち。
俺が感慨にふけっていると、
「ふーん、何か最近妙にそわそわしてた理由は夕菜ちゃんだったわけね。夕菜ちゃんから大体の経緯は聞いたわ」
ミサキが、肩のあたりでばっさり切った黒のストレートヘアーを揺らしながら近づいてきた。
「まぁ、そういうことだ。誰もがクラスメートと同棲してたら隠したくなるだろ?」
「それもそうね。じゃあ、これからは夕菜ちゃんもあたしたちの仲間ね」
おい、何勝手に決めてやがる。
「はい、よろしくお願いします」
アンタもそれで良いのか?
「はい。ですから、裕也様は早く御夕飯を片付けてください。洗い物が出来ませんので」
当然のことながらハンバーグは完全に冷え切っていた。