気がかり
ソラじいさんは、二、三週間空作りのまちに滞在してクリィに空塗りを教えるつもりだと言いました。
でもその前に、道具を準備したり空の草の味に慣れたりしなければなりませんし、何よりクリィのお母さんの許可も必要でした。
クリィは期待と不安ではち切れそうになりながらおじいさんの話を聞いていました。
ソラじいさんはクリィが一種の興奮状態にあるのを見て、腰につけた袋から空の草の葉っぱを取り出しました。
「空塗りへの第一歩じゃ。ちっとばかり興奮しとるようじゃしのう。少しかじってみなさい」
クリィは言われたとおりにしました。
すぐに落ち着いてきたので、ソラじいさんにお礼を言いました。
落ち着くと、クリィは飛行船の中で髪留めを作ったことを思い出し、ソラじいさんに話しました。
ソラじいさんは、空のもとと空の草をうまく口の中で混ぜるのは初めての者には難しいと言い、うまく空を作ったクリィを褒めました。
クリィは、これをきっかけにいろんなことを話し始めました。
空集めのまちでは日ごとに空の色が違うこと、牧場主のレークと風変わりなネズミのこと、いまや立派な鶏に成長したひよこのレークのこと、一週間旅に出ていたせいで学校で大変な苦労をしたこと。
ソラじいさんは静かに聞いていて、うなずいたり笑ったり、眉をしかめたりしました。
クリィが話し終わると、ソラじいさんは真剣な表情でクリィに尋ねました。
「その奇妙なネズミは一匹しかいなかったと言ったね?」
「うん。もう一匹いたら分けてあげるんだけどって、牧場主さんが言ってたから」
「そうかい。それならいいんじゃ」
クリィは一刻も早くソラじいさんのように宙を舞ってみたいと思いましたが、ソラじいさんはお母さんにちゃんと話してからでなければだめだと言いました。
クリィのお母さんは、クリィが危険なことに手を出そうとするといつも悲しそうな顔をしました。
クリィにとって、これは厳しく叱られるよりも効きました。
クリィは、飛行船での旅のことを何もかもお母さんに話していました。
ソラじいさんとの約束の話をしたときには、お母さんの目にわずかに悲しみの色が浮かんだような気がしました。
そのときには話に夢中でほとんど気にも留めなかったのですが、今となってはクリィの心はお母さんのその目に囚われていました。
お母さんが帰ってくるまでにはまだ時間があったので、二人はまちを散歩することにしました。
クリィはまず、庭先に出てレークにえさをやりました。
ソラじいさんは、レークの食べっぷりに感心して、
「こんなに食うんじゃあ卵でも貰わんと割に合わんなあ」
と真面目な顔で言いました。
ソラじいさんは、まちで会う子供たちみんなに体をつつかれたり体当たりをくらったりしました。
子供たちは、ソラじいさんが空を飛ぶ不思議な生き物ではなくてただのおじいさんなのを見ると、余計に不思議がりました。
「じいちゃん、どうやって飛ぶの?」
と子供に聞かれると、ソラじいさんは決まって、
「このひげを大きく膨らまして飛ぶんじゃ」
と言って笑いました。
子供たちはソラじいさんのひげを引っ張ったりくしゃくしゃにしたりしましたが、空飛ぶおじいさんの秘密はつかめませんでした。
ソラじいさんは前にも空作りのまちに来たことがありましたが、久しぶりに来ると変わっているものも多く、新しくできたものを見つけては喜び、なくなっているものに気づくとがっかりしました。
特にソラじいさんを驚かせたのは、空作りの工場のすぐ近くにある製紙工場でした。
空作りのまちでは、空を作るために大量の空の草を使います。
でも、空作りに使うのは空の草の葉っぱだけです。
茎や根は、葉っぱに比べて空作りに必要な成分が少なく、しかも硬くて空のもととうまく混じりあわないので、地面に埋めて捨てていました。
これではもったいないというので、十年ほど前に製紙が提案されたのでした。
ソラじいさんはこんな大きな建物を建てるお金がどこから来たのか不思議がりましたが、クリィはそんなことは知りませんでした。
「私のお母さんもここで働いてるのよ!」
クリィは自慢げに言いました。
この工場の紙は、空の草特有の爽やかな香りがするというので、空作りのまち周辺では評判でした。
クリィの学校でもこの工場の紙を使っていました。
一通りまちを見終わると二人はクリィの家に戻りました。
空を飛ぶ秘密を探ろうと粘り強く後をつけていた子供たちを満足させるために、ソラじいさんは空のもとをまとって外に出、子供たちと遊びました。




