未来の空塗り
飛行船でのあの旅から二月ほどたったある日、クリィはまた原っぱに座って空を眺めていました。
クリィは全天をくまなく眺め、ひびが入っていないことを確認しました。
あの一件以来、クリィはほとんど日課のように空を点検していました。
空に異常がないのを見ると安心しましたが、それでもソラじいさんとの約束を覚えていて、空塗りをする自分を想像することもありました。
空にひびが入るのを待っている気持ちもあったのです。
一度だけひびを見たような気がしましたが、後で飛行船のおじさんに聞いても知らないと言われました。
そんなクリィの目に、遠くから漂ってくる白い点が見えました。
それは本当に点にしか見えませんでしたが、クリィはすぐにソラじいさんが来たのだと思いました。
クリィは走って迎えに行きました。
「お嬢さんは本当に目が良いのう!」
息を切らせてやって来たクリィを見て、ソラじいさんは驚きの声を上げました。
「よくわしだと分かったね。さて。空作りのまちに来るのは久しぶりじゃ。ここは本当に空が綺麗じゃのう」
クリィは懐かしいシュコ、シュコという音を聞きながら、ソラじいさんを家まで案内しました。
空中を移動するソラじいさんはすぐにまちの子供たちの注目を集め、クリィの家に着く頃にはちょっとした人だかりができていました。
ソラじいさんは、自分がいつになく注目されているので、驚きつつも喜んでいました。
「こんなに注目されたのはここ十年で初めてじゃ」
クリィは、こんなにユニークなおじいさんが注目されないほうがおかしいと思いました。
野次馬の子供たちは、ソラじいさんと一緒にクリィの家に入ろうとしましたが、ソラじいさんが後でいくらでも遊んでやると保証して帰しました。
ソラじいさんは、家に入ると空のもとを脱いで大きく伸びをしました。
「丸一日この中におったからのう。疲れてしもうた」
「おじいさん、ここまでずっとそのポンプで来たの?」
クリィが驚いて聞くと、ソラじいさんは笑って答えました。
「まさか! お嬢さんも風の流れは知っとるはずじゃ。地面の近くで風に身を任せておればいずれこのまちに着く。丸一日と言ったがほとんど寝ておったようなもんじゃ」
「そっか。じゃあおじいさん、わざわざこのまちまで何しに来たの? 丸一日もかけて来たんだから、何か理由があるんでしょ?」
ソラじいさんはニカッと笑いました。
「年寄りの道楽じゃよ! たまには旅行も良いと思ってな。それにここには、未来の空塗りのお嬢さんもおるし」
クリィは密かに胸が高鳴るのを感じました。
「じゃあ本当に教えてくれるのね!」
「もちろん」
本当に空塗りを教えてもらえるのだと思うと、クリィは自然に笑顔になりました。
ソラじいさんも笑顔でした。
家に帰らずに窓から様子を伺っていた野次馬の子供たちは、何があったのか知ろうと窓に耳を押し付けました。




