牧場とネズミ
その日は飛行船ではなく、そのまちの宿に泊まりました。
宿の備品はみんなピカピカで、料理もぜいたくだったので、クリィはさすがお金持ちのまちだと思いました。
次の日は出発が早いからと言われて、すぐに寝かされました。
クリィはふかふかのベッドに横たわり、
疲れていたのですぐに眠ってしまいました。
空集めのまちからの行程は低く飛ぶことになります。
ここはちょうど空作りのまちの反対側で、空気の流れが切り替わる場所なのです。
飛び立ってしばらくは、空集めのまちの人々がよく見えました。
クリィは、公園に四人の子供が集まっているのを見つけて、おじさんに言いました。
「私、今度またこのまちに来たい」
事情を知らないおじさんは、値の張る宿に泊まった甲斐があったと思って笑いました。
飛行船は海の近くを飛び、山の近くを飛びました。
クリィは、白い空には興味が持てなかったので、下ばかり見ていました。
クリィはときどき見える野生の動物に目を奪われていました。
空作りのまちの周りでは、ほとんどの土地に空の草が植えられていて、動物が寄り付きません。
空の草は苦くて、たくさん食べると気分も沈むので、食べる動物がいないのです。
だからクリィは、今までほとんど食肉の形でしか動物を見てきませんでした。
夢中で動物を探すクリィにおじさんが、次は牧場に寄るからそこでゆっくり見られると言うと、クリィは大喜びしました。
牧場ではおじさんたちは穀物を運び出し、肉や牛乳を運び込んでいました。
クリィは、おじさんたちがどこに行っても同じような仕事ばかりなので、なんだかおかしくなりました。
空が綺麗でも、麦が綺麗でも、動物がたくさんいても、目もくれずひたすら荷物を運んでいるのです。
おじさんがクリィを牧場主に紹介してくれていたので、クリィは牧場主の案内で牛や馬や鶏を見たり触ったりしました。
クリィは生きている鶏を見るのが初めてで、追いかけ回して遊んだり羽を拾ったりしました。
「そうだ。最近うちに来た可愛いのがいるんだ。ちょっとおいで」
クリィの喜びしきりの姿を見て上機嫌な牧場主は、牧場の隅にある小屋にクリィを案内しました。
そこは、生まれたばかりの動物や、弱っている動物を雨風から守るための小屋でした。
小屋の中は、一面緑の牧場とは対照的に、一面に藁が敷き詰めてありました。
「さて……どこに行ったかな」
牧場主は、着ているチョッキのたくさんのポケットを探り始めました。
クリィは、牧場主の探し物を待ちながら、窓から外を眺めていました。
空の色は、空集めのまちにいた頃より少し青みを増していました。
と突然、クリィの足に小さな動物が飛び掛ってきました。
「わっ……わあーー!!」
クリィがびっくりしている間に、その動物はクリィの肩の上にまで上り、クリィの髪にしがみつきました。
クリィは引き剥がそうとしましたが、自分の髪を一緒に引っ張ってしまい、痛くてうまくいきません。
牧場主がなんとかこれを引っぺがしました。
「ごめんごめん。こいつ、今まで人に飛び掛ったことなんてなかったんだけど」
それは、小さなネズミでした。
背は茶色ですが、腹と耳の内側は薄い黄色でした。
クリィは、自分の手のひらに収まるほど小さな生き物はほとんど知らなかったので、驚きをこめてその生き物を見つめました。
「こいつは空の草を食べるネズミなんだ。珍しいだろう? 空の草なんて誰も食べたがらないのに……何日か前に牧場の近くで寝ているのを見つけてね、あまり可愛いから連れて返ってきたんだ」
言いながら牧場主は、ようやくポケットから出てきたくしゃくしゃの空の草の葉っぱをネズミに食べさせていました。
クリィは、この小さな生き物が必死に葉っぱを口に詰め込む姿をじっと見つめていました。
手を使って食べ物を口に押し込むしぐさがとても可愛いと思いました。
牧場主は、クリィがこの自慢のネズミに夢中なのを見て、さらに上機嫌になりました。
「気に入ってもらえてうれしいよ。このネズミがもう一匹いたら君にも分けてあげるんだけどねえ」
牧場主は、興味津々で牧場を隅から隅まで見てくれたクリィに、記念にと言ってひよこを一羽分けてくれました。
クリィは、あのネズミに負けず劣らず可愛らしいこの小さな生き物がすぐに気に入り、牧場主に何度もお礼を言いました。
ひよこの育て方を熱心に教わっていると、荷物運びを終えたおじさんがやって来ました。
「クリィちゃん。そろそろ出発だぞ」
クリィは、ひよこの話を聞き終わるまで待ってくれるように頼みました。
こんなに熱心な聞き手を持つのは初めてだった牧場主は、話を続ける時間を稼ぐために、飛行船にチーズと牛乳をサービスしました。
「牧場主さん! 本当にありがとうございました!」
クリィは大きく手を振って牧場を後にしました。




