空集めのまち
空集めのまちに近づく頃には空はほとんど白に近い色になっていました。雲もないのに空が白いのは、クリィにとって初めての光景でした。クリィは空の草や自分の髪留めを見て、故郷の空作りのまちを思い出していました。空の色だけで、このあたりには住みたくないな、と思っていました。
「クリィちゃん! あれだ。空集めの工場だ」
おじさんがクリィを呼びました。
窓から外を覗くと、遠くに見覚えのある曲線が見えました。
空作りのまちで空が始まるときと同じように、砂時計のような美しい曲線に沿って空が終わっているのでした。
クリィは、空作りのまちの活動を逆再生しているようなこの光景を興味深く見守っていました。
空作りのまちでは、空のもとは倉庫に溜められ、工場で空の草と混ぜられて、ろうとのようなチューブに沿って上に押し出されます。
空集めのまちでは全てが逆でした。
ここでは、チューブに沿って空が集められ、工場を通って出てきた空のもとが倉庫に溜められます。
「おじさん。あの工場では何をしてるの?」
「あそこでは空から肥料を漉し取っているのさ。できた肥料も空のもとも、飛行船に乗せて運ぶんだ」
クリィは生まれて初めてこの循環を考えました。
空作りのまちで使う空のもとは、何度も何度も同じ道を通っているのです。
空の草にしたってそうです。
空の草が空を通って肥料になり、新たに空の草を育てるのですから。
クリィはなんだか不思議な気分になりました。
ソラじいさんのいたまちでやったのと同じように、旗を振り、みんなで力を合わせて飛行船を降ろしました。
外に出ると、クリィはここの空気が他のまちとは違うことに気づきました。
なんだか生暖かく、良い匂いがしません。
空作りのまちの爽やかな空の草の匂いとも、ソラじいさんのまちの美しい麦の匂いとも違います。
クリィは、このまちにはほとんど草木がないことに気づきました。
飛行船からは、空集めの工場ばかり見ていて気づかなかったのでした。
「ここに住んでるのは金持ちばっかりなんだ」
おじさんが言いました。
クリィは、お金をもらってもこんなまちには住みたくないと思いました。
空も綺麗じゃないし、空気も良くありません。
お金持ちがなんでこんなところに住んでいるのか、クリィには理解できませんでした。
「どうしてお金持ちがたくさんいるの?」
クリィはおじさんに聞いてみました。
「ここでは肥料を作ってるだろう? 昔はその肥料を高い値段で売ってたのさ。それで貯めた金で薬だの機械だのを作って、また高い値段で売ってるんだ」
クリィはそれを聞いて憤慨しました。
だって空の草の肥料はこのまちの人が作ったものではありません。
空が作ったものです。
それをここの人たちが高値で売っていたと知って、クリィはますますこのまちが嫌いになりました。
「私このまち嫌い」
「まあそう言うな。俺たちが乗ってきた飛行船だって、空作りのまちの工場で使ってる機械だってこのまちで作ったもんだ。このまちのおかげで、クリィちゃんだってソラじいさんに会えたわけだ」
クリィは納得がいきませんでしたが、もう文句は言いませんでした。
おじさんたちは荷物の積み替えの仕事があり、まちの人たちがクリィたちが乗ってきた飛行船の点検を始めたので、クリィは辺りをぶらぶらすることにしました。
地面は土でしたがカチカチに踏み固められていて、草木も人や馬車が通るときに邪魔にならない場所に申し訳程度に植えられているだけでした。
クリィは、草木の多い場所を探して、公園を見つけました。
多いとは言え周りに植えられているだけで、公園の真ん中は大きな広場になっていました。
クリィは、公園の草や木を観察して、不思議に思いました。
肥料がたくさん取れるまちなのに、ここの草木には元気がないように見えたからです。
「その髪留め、きれいだね!」
不意に後ろから話しかけられて、クリィはびっくりしました。
見ると、クリィと同じくらいの歳の子供が四人いました。
クリィは、自分の髪留めが褒められていることに気づいて、お礼を言いました。
「ありがとう! これ、空のもとで作ったの!」
どんなに住む場所が違っても、子供は子供です。
クリィとまちの子供たちはすぐに仲良くなりました。
まちの子供たちは、空作りのまちでは、空がクリィの髪留めと同じくらい美しいと聞いて羨ましがりました。
クリィのほうは、子供たちが持っている珍しい遊び道具に心を惹かれました。
全く違う環境で育った子供たちの間で、話題は絶えませんでした。
クリィがこのまちは空が真っ白だと嘯くと、子供たちの一人が
「もっと青い日だってあるんだよ! 今日は特別白いんだ!」
と言いました。
空作りのまちで作られる雲はいつだって同じ鮮やかな青色です。
それなのに空集めのまちでは日によって色が違うと聞いて、クリィは不思議に思いました。
まちの子供たちの道具を使って遊ぶと、要領を得ないクリィが大負けし、道具を使わない鬼ごっこをやると、すばしっこいクリィは負け知らずでした。
まちの子供たちは、鬼ごっこでするすると木に登るクリィに舌を巻きました。
「クリィちゃん! そろそろ行くぞお!」
遠くからおじさんの声が聞こえました。
クリィは、子供たちみんなと握手して別れました。




