空色の髪留め
もうすぐ飛行船が出発する時間でした。
クリィはソラじいさんともっと話したかったのですが、おじさんが飛行船に乗るように言うのでしぶしぶ着いて行きました。
ソラじいさんが飛行船まで見送ってくれました。
「次は二日かけて空集めのまちに行くんだ」
おじさんが言いました。
クリィはまだ空塗りの自分を想像していて、上の空でした。
「クリィちゃん。君のお母さんが生まれたまちだよ」
クリィは突然妄想の空から引き戻されました。
「お母さんってずっと空作りのまちにいるんじゃないの?」
「そうとも。昔、空が見たいからって言って空集めのまちから飛行船に乗ってきたんだ。クリィちゃんが生まれる少し前のことだから、もしかしたらクリィちゃんはそのときもうお母さんのお腹の中にいたかもな。空作りのまちに着くとすぐに家を決めちまってね。それ以来ずっとあそこに住んでるのさ。よっぽどあのまちが気に入ったんだろう」
クリィは、そんな話お母さんから聞いたことがありませんでした。
少し考えて、クリィは尋ねました。
「じゃあ空集めのまちに私のおじいちゃんやおばあちゃんがいるの? お父さんも?」
「ああ、そりゃあ……どうだろうなあ。君のお母さんは俺には何にも教えてくれなかったからなあ」
おじさんが知らないと言うので、クリィはがっかりしました。
いくらお母さんの生まれたまちでも、お母さんを知っている人と会わなければ意味がありません。
クリィは空集めのまちにいるであろうおじいちゃんとおばあちゃんに思いを馳せました。
お母さんがいつまでたっても帰ってこないので、寂しがっているに違いありません。
クリィは、今度はお母さんと一緒に飛行船に乗りたいと思いました。
それからの旅路はクリィにとっては退屈でした。
移動するにつれて空の色は薄くなっていきます。
空の色は、時間がたつと消えていくのです。
クリィは空作りのまちで見る空のほうが好きでした。
おじさんが見かねてちょっとした遊びを持ってきました。
飛行船の中にある空のもとを少しとってきて、窓辺の空の草の葉っぱと一緒に口の中に放り込みました。
びっくりして目を見張っているクリィの前でしばらくもごもごとひげを動かした後、おじさんが口を開くと、鮮やかな青色になった空のもとがゆっくり出てきました。
クリィは空作りのまちで見るような美しい青に目を輝かせました。
「おじさん! それ私もやってみたい!」
おじさんは元気を取り戻したクリィを見てほっとしながら、あめ玉大の空のもとと、空の草のかけらを差し出しました。
おじさんは自分の歯を見せながら、口の中が青くなるから終わったらすぐに歯を磨くように言いました。
クリィはすぐに空のもとと空の草を口に入れました。
空のもとは当然食べ物ではありませんし、空の草は薬に使うことはあってもそのまま食べるものではありません。
クリィは初め、空の草が苦いのに驚きました。
一方空のもとは、ほとんど味はありませんがかすかに甘みがあります。
クリィは器用に舌を使って空の草を空のもとの中に入れ、しばらく噛んでみました。
完全に二つが混ざると、はっかのような爽やかな味と苦味の混じった不思議な味になりました。
クリィはなんだか切ない気分になりました。
もともと空の草は興奮を鎮める薬によく使われるもので、クリィはこの味の効果を早速受けたのでした。
それでも、これが空の味だと思うと、クリィはちょっとうれしくなりました。
クリィは口の中で作った空のあめ玉を眺めました。
まるで宝石のようだと思いました。
空の草が混ざったことで、空のもとは浮かび上がることなく手に収まっていました。
ソラじいさんがこれで空のひびを埋めることを思い出して、その玉を伸ばしたりこねたりしてみました。
クリィは空の玉を輪にして、自分の髪を後ろで束ねてみました。
空を身に付けていると思うとうれしくて、すぐにおじさんに見せに行きました。
「可愛いじゃねえか。しばらくそうやって付けてるといい。空の草を混ぜた空のもとは逃げて行きはしねえからな」
言いながらおじさんはクリィに歯ブラシを手渡しました。
クリィは得意になって、歯を磨く間ずっと鏡でこの新しい髪留めを見ていました。




