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空作りのまち  作者: 一平
3/15

ソラじいさん

 飛行船は、このまちに来るときは低く飛び、まちを出るときは高く飛びます。

空気の流れに乗るためです。

上空では空気は空の流れと同じ向きに流れ、地表近くではその逆に流れています。

普段遠くから眺めている空を近くで見られて、クリィは幸せでした。

飛行船の中は思いのほか小奇麗で、窓辺に空の草が植えてあるのも素敵だと思いました。

クリィは空を眺めたりおじさんに話を聞いたりして過ごしました。


「おじさん。何で昔は空に生ごみなんか入れたの?」


「生ものを空に混ぜて流すと肥料になるのさ。時間をかけて流れる間にね。今使っている肥料も、ほとんどは空集めのまちで空から取った空の草だしなあ」


「空が割れるとどうなっちゃうの?」


「さあてねえ……そればっかりは俺も知らねえなあ。ソラじいさんに聞いてみるといい」


次の日にはソラじいさんのいるまちに着きました。

男たちは、旗を振って着地するサインを出していました。

飛行船は、地上からの助けがないと着陸が難しいのです。

飛行船からたらした錨を地上に固定し、その後錨を巻き戻すことで地上に降ります。

錨を巻く作業は男たちが力を合わせて行うので、みんなはまた汗をかきました。


 クリィは、生まれて初めて違うまちの土を踏みました。

ここは大きな穀倉地帯で、まちの周りには広大な麦畑がありました。

ちょうど収穫前で金色になった一面の麦が風になびくのに、クリィは見とれていました。


 そのとき、クリィは麦畑の上をゆっくり降りている白いものに気がつきました。


「あれがソラじいさんだよ。今もあんなことやってんだなあ」


とおじさんが言いました。

ソラじいさんは、空のもとに身を包んで飛んでいたのでした。

クリィが見ていると、ソラじいさんはゆっくりとまちの方に近づいてきました。

ソラじいさんはポンプのようなものを持っていて、それをうまく使って移動しているのでした。

近づくにつれて、そのシュコ、シュコというゆっくりした音が、クリィの耳にも聞こえてきました。

ソラじいさんは、クリィとおじさんのところまで来ると、ポンプを逆向きに噴射してうまく止まりました。

ソラじいさんは真っ白い立派なひげをたくわえて真っ白い空のもとの中にいるので、目と鼻だけが目立っていました。

ソラじいさんはおじさんの顔を見ると、ニカッと笑いました。


「よう! 飛行船の坊主か!」


「おいおい。俺はいつまで坊主なんだい?」


おじさんも笑って答えました。


「じいさん。その格好をしてるってことは、まさかまた空塗りを始めたのかい?」


「その通りじゃ! 空のひびなど久しぶりに見たわい」


「おじいさん、空のひび直したの?」


クリィが尋ねました。

ソラじいさんは、初めて気がついたようにまじまじとクリィを見つめました。


「はて。こんな子がこのまちにおったかな」


「その子、空作りのまちから来たんだ。ソラじいさんに会いたいって言ってな」


おじさんの言葉に、ソラじいさんはうれしそうな顔をしました。


「そうかい。わしに会いたがる客など何年ぶりか分からん。お嬢さん、ゆっくりしていきなさい」


 おじさんは穀物や肥料を運ぶ仕事があるのでそこで別れ、クリィはソラじいさんの家にお邪魔することにしました。

ふわふわと飛ぶソラじいさんについていく間、クリィは自己紹介したり、空作りのまちから空のひびが見えたことを話したりしました。

家に入ると、ソラじいさんは体にまとった空のもとを丁寧に取り、皮袋につめてたんすの中に片付けました。

クリィは、ソラじいさんが自分とほとんど同じ背格好なのでびっくりしました。

空のもとをまとって、かなり大きく見えていたのです。

じいさんの立派なひげと白髪は、顔に空のもとがまだ残っているみたいに見えました。


「さてさて。お嬢さん。あんたは空のひびを昨日見つけたと言ったね。それも空作りのまちで。不思議なもんじゃ……空がおかしいとき、最初に気づくのはいつも子供じゃ」


クリィはソラじいさんにいろいろな事を聞きました。

空塗りの方法。空の草を使うようになる前の空の色。どうして空にひびが入るのか。

ソラじいさんは丁寧に答えてくれました。

空塗りのとき、空のもとと空の草を口の中で混ぜるのだとじいさんが言うと、クリィは目を丸くしました。

昔は空の色はいろんな色が混ざってあまり綺麗なものではなかったと聞くと、クリィはいろんな色があるのも面白そうだと思いました。

空のひびの原因については、じいさんは曖昧な返事をしました。


「空の向こうにもいろんなもんがあるんじゃ。しかしわしらは空の中でしか生活できんからのう……お嬢さん。世の中には知らんでいいこともあるんじゃよ」


クリィは、ソラじいさんの言っていることが分かりかねて、怪訝な顔をしました。おじいさんはそれを見て、


「とにかく、空のひびは塞がなきゃならん。一回割れちまったら取り返しがつかんからのう。お嬢さんだって、綺麗な空がなくなってしまうのは嫌じゃろ?」


クリィは、空の向こうを見てみたいような、空に傷を付けたくないような、複雑な気持ちでうなずきました。

ソラじいさんは笑って言いました。


「わしもお嬢さんも、空が大好きな仲間じゃ。このまちでは青い空よりも金色の麦のほうが好きだと言うものが多くてね。誰も空のひびなど気づかんのじゃ。今度会うときはお嬢さんには空塗りのやり方を教えてやろう」


クリィは、空のもとをまとって宙を舞い、空のひびを綺麗に埋める自分の姿を想像しました。

大好きな空のための仕事です。

クリィはとても素敵だと思いました。

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