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空作りのまち  作者: 一平
2/15

飛行船と空のひび

 飛行船は、週に一度、空のもとをたくさん積んでやって来ます。

飛行船は空のもとの浮力で飛んでいるのですが、たくさん積むときには浮かび過ぎないように大きなおもりを吊るしています。

おもりのほとんどは肥料で、これで野菜や穀物や、空の草を育てるのです。


 飛行船から、体におもりを付けた男たちが降りてきました。

みんな抱えるようにして空のもとを持っています。

これを工場の隣にある倉庫に運んでいきます。

倉庫の上では、まちの男たちが、入ってくる空のもとの量を見て、屋根のおもりを追加しています。

こうしてうまく重さを調節しないと、屋根が飛んだり潰れたりするのです。


 飛行船の男たちの中に、クリィと仲のよいおじさんがいました。

クリィはこのおじさんを見つけて駈けて行き、


「おじさん! 今日の空、割れそうだと思わない?」


と聞いてみました。

おじさんは、クリィを見つけてうれしそうな顔をしていましたが、それを聞いて急に真面目な顔つきになりました。


「割れるって? 何でそう思うんだい?」


おじさんが信じている様子なので、クリィは張り切って事情を説明しました。

おじさんは、立派な口ひげをなでながら静かに聞いていましたが、聞き終わると、


「そうかい……こりゃあ久しぶりにソラじいさんの出番かも知れねえな」


と言いました。

クリィはびっくりしました。

ソラじいさんなんて聞いたこともなかったし、おじいさん一人で割れそうな空をどうにかできるとは思えなかったからです。


「ソラじいさんって誰? 空をどうするの?」


クリィは興味津々で、目を輝かせながら矢継ぎ早に質問しました。

おじさんは仕事の途中で、クリィとしゃべってばかりもいられないので、困った顔をしました。


「クリィちゃん、仕事が終わるまで待ってくれねえか。後でゆっくり教えてやるよ。空のひびのこともな」


クリィは大人しく言われたとおりにすることにしました。

飛行船と倉庫を行ったり来たりする男の人たちを飽きずに眺めていました。

なんだか餌を運ぶアリを見ているようでした。


 仕事が終わったと見るや、クリィは飛行船の方に駈けて行きました。

飛行船の入り口では、汗だくの男たちがしゃべりながらビールを飲んでいました。

空のもとは軽くても、飛ばされないためのおもりが重いので、倉庫から飛行船に戻るときに汗をかいてしまうのです。


 クリィは、おじさんにぶつからんばかりの勢いで駆けつけました。


「おじさん! ソラじいさんのこと、教えて!」


おじさんは、クリィの勢いを面白がるように微笑みながら迎えてくれました。


「おうおう。教えてやるとも。昔々、おじさんが生まれるよりももっと昔の話だ」


おじさんは話し始めました。

昔は空のもとには空の草ではなくて、雑草や、場合によっては生ごみなどを混ぜていたこと。

その頃は空にひびが入ることもあって、空塗りと呼ばれる人たちが飛んでいって空のもとでひびを埋めていたこと。

空の草を混ぜて空を作るときれいで丈夫な空ができることに、ソラじいさんが初めて気づいたこと。

ソラじいさんの本当の名前はワットだけど、今の綺麗な空を作る基になったことを称えて、みんなソラじいさんと呼んでいること。

クリィは初めて聞く話ばかりで、ぽかんと口を開けながら聞き入っていました。

話がおわってもぽかんとしているクリィを見て、おじさんがあごをつかんで口を閉じると、周りの男たちが笑いました。

クリィはハッとして、少し顔を赤らめながら言いました。


「ソラじいさんってどこに住んでるの? 私、会ってみたい」


おじさんは、少し考えるようなしぐさをしながら、


「この子は本当に空が好きだなあ」


と、独り言のように言いました。


「うむ。それじゃあ……クリィちゃん。お母さんを呼んできてくれるかい。ソラじいさんのところはちょっと遠くてなあ。飛行船でないと行けないんだ」


クリィは少し不安になりました。

飛行船は週に一度しかこのまちに来ません。

つまり、飛行船で出かけると、来週まで帰って来られないのです。

クリィはそれでももちろん行きたいと思いましたが、お母さんが許してくれるでしょうか。

クリィは、どきどきしながらお母さんを連れてきました。


「クルトさん。この子を飛行船に乗せてやりたいんだ」


おじさんは単刀直入に切り出しました。

お母さんは難しい顔をしています。

クリィは顔色を伺いながらそわそわしていました。


「この子は空が大好きだ。空ってものをちゃあんと見せてやりてえ。昔のあんたのときみたいにね。」


最後の言葉に、クリィのお母さんは眉をピクッと動かしました。

クリィは、お母さんが飛行船に乗ったことがあると知ってびっくりしました。

クリィのお母さんは、クリィのほうに向き直って、


「クリィ。あなた、あの飛行船に乗ってみたいのね」


と、静かに言いました。

クリィは、おっかなびっくり小さな声で、


「うん」


とだけ言いました。

お母さんは、


「絶対に、来週帰ってくるのよ。絶対に」


とクリィに言いつけました。

クリィは、許しが出たと分かってうれしくなってお母さんに抱きつきました。

おじさんは、


「何ならあんたも乗ってくかい?」


と言って笑いました。

クリィのお母さんは、


「私には仕事がありますから。それより、この子がちゃんと来週帰って来るように、お願いしますよ」


と念を押すように言いました。

おじさんは、笑顔で答えました。


「大丈夫さ! このまちが世界で一番空が綺麗な場所だ! あんたもよく知ってることじゃないか」


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