勇者パーティから勇者を追放したので、もう魔王城には行きません!
【短編版】勇者パーティから勇者を追放したので、もう魔王城には行きません!
「ねぇ、フォル……。悪いけど、もうあんたとは一緒に行けない」
魔王討伐に向けて旅を始めてから三ヶ月。
まもなく出発という時に、踊り子のルディアが突然そう言い出した。
「急にどうした? 何か気に触るようなことをしてしまったか?」
「気に触るとか、そういうことじゃなくてさ……」
じゃあどういうことだ?
何か不満があったのだろうか……。
勇者パーティのバッファーであるルディア。
常に場を盛り上げてくれる子で、何度その明るさに救われたかわからない。
そんな彼女に抜けられては、パーティの士気そのものに関わる。
「ルディア、考え直してはくれないか?」
「いや、悪いけどそれは無理だ」
勇者フォルの言葉を遮ったのは、戦士のアルデオだった。
「無理? アルデオはルディアが抜けてもいいって言うのか!?」
「そういう意味じゃなくてよ」
「今無理と言ったじゃないか!」
つい、語気が強くなる。
アルデオは仲間想いで面倒見のいい男だ。
同じ前衛でありながら、後衛の二人にも常に気を配る。
彼がいるから、僕は戦闘中に魔族のことだけを考え、戦うことができた。
「フォル、落ち着いてください。ルディアが抜けるわけではありませんよ」
空気が悪くなり始めたところで、僧侶のメデリが口を開いた。
「でも、もう一緒に行けないとルディアが」
「はい。もう一緒には行けませんから」
何を言っているのかわからない。
メデリは知識が豊富で思慮深く、パーティのまとめ役だ。
特に僕とアルデオは、何度彼女に治癒魔法をかけてもらったかわからない。
そんな知性溢れる彼女が、意味のわからない発言をすることが理解できなかった。
「なら止めないといけないだろう!?」
ルディアが首を横に振る。
「違うんだよ、意味がさ」
「意味が違う……?」
今度はアルデオが首を縦に振った。
「あぁ、俺たちには俺たちの夢があるんだ」
「私たち三人の意思は固まりました。ですので、多数決をもってあなたを追放します」
最後にメデリがそう言い放った。
*
「ちょ、ちょっと待ってくれるかい!?」
頭が追いつかない。
ルディアが抜けるのではなく、僕が追放される側?
僕たちって、勇者パーティのはずなんだが——。
「混乱させて悪い。でも、俺たちはもう行けないんだ」
「もう行けないってどういうことだい、アルデオ!!」
思わず、彼の肩を強く掴む。
ぶつかる視線からは、僕への嫌悪感ではなく罪悪感が滲んでいた。
「ごめん……。フォルが魔王討伐をして、親父さんの仇を討ちたいのもわかってる。でも俺たちには、行く理由がないんだ」
「行く理由がない……?」
「そうだ。行く理由がない」
アルデオは何を言ってるんだ?
僕たちは勇者パーティだ。
行く理由なんて、考える必要さえない。
魔王を倒し、世界の平和とみんなを護る。
その使命を全うする以外に何が必要だと言うんだ……!
「フォルってさ、夢ある?」
「夢?」
「うん。夢」
ルディアが急に話を振ってきた。
表情を見る限り、ふざけているわけではないだろう。
こんな時に、何故そんな質問をしてきたのかはわからないが……。
「僕の夢は、世界の平和を、みんなを護ることだ」
「……それってさ、夢なのかな」
「どういうことだ?」
「それって、フォル自身がやりたいことなの?」
「やりたいとかやりたくないとか、そういう話じゃないだろう? 魔王討伐は僕たちの使命だ!」
質問の意味がわからない。
僕の家は代々勇者の家系だし、これが役目なんだ。
僕たちがやらなければ、誰が魔王討伐を成し遂げる?
「ですが、私たちはそれを辞めたいのです」
「……辞めたい?」
「はい。私たちは勇者パーティに選ばれただけ。崇高な目標など持ち合わせていません」
「でも選ばれたからには——」
「それは、自らの夢を諦める理由になりますか?」
メデリが珍しく、僕の発言に被せてきた。
「夢って……。メデリの夢は魔王を討伐することだろう?」
「いいえ、違います」
「違う!? ならどうして勇者パーティにいるんだ!」
「先ほども言いましたが、選ばれただけです」
「でも選ばれたんだろう!?」
何故、選ばれた使命を全うしない!?
なんて責任感がないんだ!!
「選ばれたからって、やりたいとは限らないんだよ」
「ルディア! キミはなんてことを……!!」
「だって、あたしもやりたくないし」
やりたくない……!?
何を言っているんだこの二人は……!!
「だから言ったろ? もう行けないって」
「アルデオ! 今まで一緒に戦ってきたじゃないか!!」
「そうだな、それは事実だよ。でも昨日の夜、俺たちは気づいちまったからさ……」
「気づいた!? 何に!!」
アルデオは一つ大きなため息をつくと、はっきりと告げた。
「魔王討伐に行きたいのが、お前だけだってことに」
*
「今日はここで休もうか」
フォルの言葉に三人が頷く。
かつては栄えていただろう廃村が、今晩の宿となった。
各々明日の準備を整え、起こしていた焚き火の元へと集まる。
「あれ? フォルは?」
「素材が少し足りないからって、外へ取りに行ったぞ」
「それなら、僧侶の私も」
「フォルが一人でいいってさ。メデリ、疲れてるだろうからって」
「それは……彼も同じでしょうに」
旅を始めてから三ヶ月。
互いのこともなんとなくわかってきていた。
「もう、三ヶ月経つんだね〜」
「そうだな。あっという間だった」
「いろんなことがありましたね」
思い出話に花を咲かせていると、背後に視線を感じた。
すぐさまアルデオが臨戦態勢に入り、二人はその背後へと回る。
「敵かな?」
「いや、まだわからない。二人とも、気を抜くな」
くそっ、こんな時に戦闘か。
今はフォルもいないし、俺が二人を護りながら戦わないと。
緊張が走る中、メデリが杖を下ろした。
「……待ってください。あれ、子供ではないですか?」
「子供!? こんなとこに!?」
その言葉に目を凝らすと、確かに小さな人影が二つ。
とはいえ、魔族でないとも言い切れない。
「アルデオ、剣を下ろしてください」
「しかし……」
「子供であれば、出てきてもらわないと」
メデリの言うことは尤もだ。
だが、この状況で剣を下ろすなど——。
決断できずにいると、ルディアが口を開いた。
「なら、あたしが見てくるよ。それでもし魔族だったら、アルデオはすぐ戦えるし、危なくてもメデリが助けてくれるっしょ?」
「おい! そんなこと——」
「もし子供だったら助けないとだよ? 見捨てるの?」
「それでルディアが——」
「だいじょーぶ! あたし踊り子だよ? 回避は得意だかんね!」
前衛である自分が動かず、後衛であるルディアを送る。
下手をすれば命に関わることだが、メデリの覚悟も決まっているようだった。
——やるしかない。
もし魔族でも、俺がすぐ踏み込んで盾になればいい。
「わかった。ルディア、俺の瞬発力を上げといてくれ。それなら何かあってもすぐ護れる」
「りょーかい!」
彼女が舞うと、身体の底から力が湧いてくる。
そのままルディアは、小さな人影に向かって駆け出した。
*
「やっぱり子供だったよー!!」
暗闇から、ルディアの明るい声が飛んできた。
俺もメデリも武器をしまうと、すぐさま彼女の元へと向かう。
そこには、まだ幼い少女と、その子を護るように立つ威勢のいい少年がいた。
二人の恐怖を解くように、メデリが優しく声をかける。
「こんばんは、私はメデリと申します」
「うるさい! お前らもどうせ妹を奪いにきたんだろ!?」
「そんなことはいたしませんよ。ご兄妹なのですか?」
「そうだ!! ファファは俺のたった一人の家族なんだ!!」
「そっか〜、よく護ってきたね! かっこいいぞ!」
ルディアが少年の頭をガシガシと撫でると、堰を切ったように泣き始めた。
こんな廃村に妹と二人——。かなり心細かっただろう。
「大丈夫だから泣くな泣くな! 妹はファファで、お前は?」
「ぐすっ……そういうお前は、なんて言うんだよ……」
鼻水垂らしてるくせに、ちゃんと男なんだなー。
「俺はアルデオ。はい、お前の番な!」
「レシ……」
「いい名前だなー! そこのイケてるねーちゃんはルディアだ」
「よろしくね〜!」
「……よろしく」
二人を焚き火へと連れ出し、ルディアが夕食を振る舞う。
食事も久々だったのだろう。ものすごい勢いで平らげていた。
お腹が膨れると、ファファはメデリの膝の上で寝てしまい、レシがぽつりぽつりと話し始めた。
ひと月程前、ここは魔族に襲われて廃村になったらしい。
親も村人たちも殺されたが、二人はなんとか生き残り、今日まで耐えていたようだ。
「たまに大人が来るんだ。他の子たちはみんな、そいつらと行っちゃった」
「レシたちはどうして行かなかったんだ?」
「ファファと、離れ離れになるって言われたから……」
魔族に親を奪われ、住むところがなくなった子供は孤児院へと送られる。
しかし、どこの院も常にギリギリで生活しているため、兄妹で仲良くというのもなかなか難しい話ではあった。
「そうか、お前にーちゃんだもんな! じゃあこれやるよ!」
アルデオは、ありったけの食料をレシに手渡した。
「いいの……?」
「いいんだよ! それならしばらく食うには困らないだろ?」
「ありがとうアルデオ!」
少年は深々と頭を下げると、妹を背負い去っていった。
「魔族のせいで、あんなちっちゃい子たちまで……」
「あぁ、さっさと魔王を倒さないとな」
「……本当に、それで解決するのでしょうか」
「どしたん? メデリ」
「食料はいずれ無くなります。そうなれば、結局あの子たちは生きていけない。目の前の困っている子たちを置いて、先に進むのが正しいことなのでしょうか」
メデリの言葉に、ルディアが火を見つめたまま静かに口を開いた。
「実はさ、レシたちみたいな子の居場所になるのが夢なんだよね。ご飯作って、歌って踊って。みんなが笑顔になれる場所を作りたいんだ」
「いいですね。私は子供たちに勉学を教えるのが夢でした。かつて自分が、孤児院でそうしていただいたので」
「二人ともすげーな! 俺なんて、故郷の村を護りたいぐらいしか夢ないのにさ。じいちゃんばあちゃんや、村の子供たちを護りたいんだよなー」
各々が秘めていた夢や思いを口にする。
——勇者パーティに選ばれたからには、それを受け入れて成し遂げるべきだ。
そんな正義をかざす者は、三人の中にいなかった。
「あたしさ、正直——」
*
「僕が外に出てる間に、そんなことがあったのか……」
「あぁ。だから俺たちはもう一緒には行けない」
「ごめんねフォル。あたしたちはこの村に残る」
「子供たちだけでは、暮らしていけないでしょうから」
まさかの三対一。
しかも、勇者である自分が一だなんて……。
でも、それでも僕たちは勇者パーティだ。
「じ、じゃあ、魔王討伐はどうする気なんだ!?」
きっとわかってくれる。
確かに目の前の子供たちも大切だ。
だけど僕たちが行かなければ、同じような思いをする子供たちが増えるだけだ!
「フォルは行くんだろ?」
「もし疲れたら、いつでも戻ってきてね!」
「ここから、フォルの無事をお祈りしております」
嘘、だろ……?
なんでこんなに、ここに残る意思が固いんだ……?
「でも、僕たちが魔王城へ行かなければ——」
「「「行きたい人が頑張って」」」
僕たちは、勇者パーティのはずだった——。
「じゃあ、気をつけてな」
「あたしたちは離れていても仲間だよ!」
「神のご加護があらんことを……」
でも勇者を追放したので、もう魔王城には行きません!
勇者パーティに選ばれたからって、
みんなが行きたいかはわからないよね?
そんな話。
連載スタートしました☆
【連載版】勇者パーティから勇者を追放したので、もう魔王城には行きません!
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