オルゴールを開いて、
「こんな物まで取っておいて……」
実家の押し入れを開けると、
ビール瓶の蓋がぎっしり詰まった箱が出てきた。
なぜこんな物を、とため息混じりに愚痴がこぼれる。
今は亡き両親が暮らしていた家。
ひと月ほど前、私たち家族はこの土地で暮らすため、
思い切って“建て替え”を決めた。
それからというもの、週末になると家族総出で片付けに通っているのだが——
(……きっつい)
片付けなんてすぐ終わる、そう思っていた。
けれど現実はまったく違った。
捨てていいもの。
捨ててはいけないもの。
そして、捨てるにも決まりがある。
取り出して、見極めて、また分ける。
この単純作業が、想像以上に重労働だった。
屈んでいた腰を伸ばし、ふうっと息を吐く。
痛む腰を軽くトン、トンと叩いて天井を仰いだ、そのとき——
「おかあさーん!」
ぱたぱたと駆け寄ってくる足音と、息子の弾んだ声がした。
私は振り返る。
“どうしたの?”
私がそう口を開くより先に——
「これっ! どうしたらいい?」
両手で差し出されたそれは、ひと目で分かった。
小学校の卒業制作で作った、世界にたったひとつのオルゴール。
拙い木彫りの箱に、拙い絵。
今見ると、なぜすぐに捨てなかったのだろうと思うほどだ。
あまりの恥ずかしさに、思わず目を逸らす。
“捨てていいよ”——そう言いかけた瞬間。
「かわいいね。キレイな音もするよ」
息子は頬をほころばせ、ふたをそっと開いた。
〜♪
上品で、どこか澄んだ音が部屋に響く。
——小学校の校歌。
二十年も経つというのに、
オルゴールの音は驚くほど滑らかだった。
音が紡がれるたびに、胸の奥がふわりと震える。
白い校舎。広い校庭。
笑い声ばかりだったクラスメイトたち。
卒業式で涙ぐんでいた——両親。
「おかあさん、これ持って帰ってもいい?」
はっと肩が揺れる。
息子は頬を桃色に染め、きらきらと瞳を輝かせていた。
その姿に、自然と口元がゆるむ。
「……うん。持って帰ろうか」
どんなに不格好でも、構わない。
ここには、確かに——
思い出が詰まっているのだから。




