表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白梅は毒を抱く  作者: non
4/4

花と杯が揺れる宵



離宮の広間には、色とりどりの灯火が垂れ、その光が朱紅の柱に反射して波のように揺れていた。

芳香の焚かれた空気は甘く、鈴の肺にまとわりつく。


四人の妃候補は中央の席に並べられる。

序列順は翡翠・瑠霞・芍瑶・鈴の順だった。


案内役の侍女は、鈴にだけ礼が浅い。

差別というより、既定の扱い。


鈴は気にも留めないが。


宴席の周囲には、鈴以外の候補の女中たちが色濃く集まり、視線は四人に釘づけだった。


楽が始まる。

この離宮の主人である黎真は体調が整わず、姿を見せない。

それはいつものことのようで、この場で黎真を気遣うものは誰1人いなかった。



柔らかな琴の音が響き、やがて盃が運ばれてきた。


翡翠が一口飲む。

光を宿した瞳が流し目で鈴をなめるように見つめた。


「――まあ。異国での初めての宴、緊張して?

顔色が悪いわよ、あなた」


声が甘い。だが棘がある。


瑠霞が横から笑って軽く流す。


「鈴、気にしなくていいよ。翡翠はいつもこんなだ」


「まあ、瑠霞様は黎真様の“幼なじみ”のお立場でしたね。

特権の上で笑う余裕、とても羨ましいわ」


瑠霞の眉がわずかに上がった。


「幼なじみだろうと関係ないよ。“自分が選ばれる”と自信があるのは翡翠だろ?」


翡翠は扇で口元を隠して笑う。


「だって、当然でしょう?

妃にふさわしい血筋、教育、容姿――全て私が最も優れている。皇族に嫁ぐなら、それくらい“前提”ですわ」


周囲の女中たちが誇らしげに頷く。


芍瑶は端で縮こまり、盃を両手で持っておろおろしている。


翡翠は甘い声で慰めるふりをし、意地悪に針を刺す。


「芍瑶は優しい性格ですもの。

ただ優しさだけでは――皇子のお傍は務まらないから、努力なさって?」


芍瑶の肩が震え、俯く。


(言葉で抑えつけるのに慣れているようだ)


鈴は盃を口元に寄せ、香りを嗅いだ。

(甘いが、僅かに頭が冷える草の匂い)


手を止める。


翡翠が目ざとく見つけた。


「あら、飲まれないの?」


「...体質と合わない匂いがしますので」


扇がピタリと止まる。


「皇宮の酒を断るの? ……大胆ね」


翡翠は扇を閉じ、近づき、耳元で囁く。


「――田舎娘が、引き篭もった国の礼節でここに立てると思わないで?」


配膳が進む。

翡翠が、鈴の前に色の濃い菓子を押し置く。


「田舎者でも、甘味は分かるでしょう?」


鈴は手を伸ばさない。


(なにか、甘味と混ざって、薬の匂いがする) 


祖国で嗅いだ香りがする。

これはどの匂いだったのかと思考を張り巡らす鈴。

なかなか食べようとしない鈴に翡翠はイライラとした様子で鈴を睨みつける。

その様子をみた芍瑶が、おずおずと手を伸ばした。


「あっ、あの...わ、わたしが……いただきます」


鈴が食べるのをとめようと手を伸ばしたが間に合わず、


ぱくっ。


芍瑶の小さな口に菓子が入った瞬間、


「……っ、あ……!」


皿が床に落ち、芍瑶の身体が崩れる。


会場が凍りつく。


「芍瑶様!?」

「まさか、毒!?」


ざわっ――!!


鈴は即座に膝をつき、芍瑶の唇を開き、芍瑶の脈を見る。

指先の冷え、呼吸の浅さ、痺れ。

舌先に紫。


(毒だ、...舌下から吸収している。)


「……舌下吸収阻害の解毒薬、三滴」


鈴はそう呟くと裾の中から小さな薬品を取り出し、素早く芍瑶に飲ませる。


「あなた、なにをするのよ!?」


翡翠が叫び、鈴から芍瑶を引き剥がそうとした、その時、芍瑶は咳き込み、徐々に呼吸が整ってきた。


「応急処置はした。この毒は即効性だな解毒剤を正しく使えば解毒の効果も早い。念のため医官にませた方が良い」


幽真は鈴の言葉に目を細める。


「なぜ分かる」


「――祖国でよく、飲まされた」


さらり。


会場が静まり返る。


「ご、ごめんなさい……わたし……」


「謝る理由がない」


瑠霞は鈴を見つめ、低く笑う。


「……へぇ、鈴、君って面白いね」


翡翠は顔を引きつらせる。


「あなたが怪しいんじゃなくって?毒に詳しいあなたの自作自演じゃないの?」


翡翠付きの女中たちも鈴を冷たく見やる。


「私がやる理由はない」


「あら、充分にあると思うわよ。ーー、敗戦の姫が、黎真様の印象に残りたいだけだわ。」


軽蔑を込めた視線で翡翠はそう冷たく言い放つ。



「皆、静かに。これから身体検査を行う」


幽真は他の護衛たちにも指示を出し、その場の人々の誘導し始める。


幽真は立ち去る間際、鈴にだけ小声を落とす。




「――鈴、黎真様が今夜君に会いたいそうだ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ