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白梅は毒を抱く  作者: non
3/4

3人の妃候補との対面




馬車の車輪が石畳を叩く音が遠ざかる。

朱離国の離宮は、夜気の中でひときわ静かに光を放っていた。

白い漆喰の壁、金糸をあしらった門。

あまりの静けさに、鈴は自分の息が響くのを感じた。


 


「──ようこそ。離宮へ。」


幽真の低く落ち着いた声に鈴はハッとする。


「ついてこい。」


足音が静かに廊下を渡っていく。

すれ違う女官たちは一様に鈴を避けるように道を開けた。

(……この宮には、目に見えない境界があるようにみえる)

鈴は思う。

「外から来た者」は、それだけで“異物”なのだと。


 


案内された広間には、既に三人の妃候補が揃っていた。

鈴が一歩足を踏み入れると、空気がひやりと張り詰める。


 


最初に声を上げたのは、中央に座る女だった。

漆黒の髪を高く結い上げ、髪飾りが光を反射してきらめく。

唇は紅玉のように艶やかで、

金糸の刺繍が施された衣は、まるで舞台の上の主役のように華やか。


彼女は名を、翡翠といった。


「わたくしは翡翠ひすい。離宮の妃候補の中では一番上よ。」

その声音は、甘い蜜をまといながらも棘を含む。


「あなたが……あの、敗れた小国の娘?」


「はい。」


「思ったより“見すぼらしく”はないのねぇ。」


艶やかな笑みを浮かべ、翡翠は鈴を上から下まで一瞥した。


「戦に負けた小国の娘にしては、よく立っていられるものね。」


「……立つことくらいはできますので。」


鈴が静かに返すと、翡翠は鼻で笑った。

周囲の空気がまた少し冷える。


 


その隣に座る少女が、慌てたように声を上げた。


「わ、私は芍瑶しゃくようと申します……っ!」


彼女はまるで小鳥のように震えていた。

淡い桃色の衣が風に揺れ、瞳は怯えたように鈴と翡翠を見比べる。

絹糸のような髪が肩に流れ、指先は白磁のように細い。



最後に口を開いたのは、壁際に立つ一人の人物。


「僕の名前は瑠霞るか


声は穏やかでありながら、どこか芯がある。

銀灰色の髪を低く束ね、衣は他の候補と違って飾り気がない。

光の加減で、顔立ちは男にも女にも見える。


中性的なその存在は、宮の中で唯一、風のように自由に見えた。


「……鈴、よろしくね。」

「...よろしくお願いします。」


つかみどころがない笑顔で瑠霞は微笑む。


 


それぞれの挨拶が終わったあと、翡翠が扇を開いた。


「今日は歓迎の宴よ。

 せめてこの宮の“序列”だけは覚えておいてね。」


その言葉に、芍瑶が息を呑む。

序列――すでに、そこに鈴の居場所がないことを意味していた。


 


香が焚かれ、宴が始まる。

盃が並び、笑い声が薄く広間を満たす。


鈴は一口も飲まず、静かにその場の空気を観察していた。

(翡翠の笑み、芍瑶の震え、瑠霞の沈黙。

 ……この場は、毒そのものだ)





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