表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちこぼれ聖女候補に転生した魔王は静かな隠居暮らしを目指す~今度こそブラックな人生はごめんです!~  作者: あんずのかおり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/20

第9話 楽しい楽しいアイテム作り

夜の訓練を始めた、その翌日の早朝。


まだ朝靄の残る時間帯。


初中等部の校舎の前にある外庭は、人影もまばらで、静けさが支配していた。


その外庭の端、人目につきにくい場所で、一人の少女が黙々と地面に向かっていた。


ユティナだ。


「……あ、あったあった。……あ、そっちにも……」


小さな声を漏らしながら、ユティナは腰を落とし、土に指を差し込んでは雑草を引き抜いていく。


まるで宝物でも探すかのように、あるいは何かに取り憑かれたかのように、ひたすら、無心で。


引き抜いた草はすでに小さな山を作り始めていたが、それでも彼女の手は止まらない。


早めに登園してきた生徒たちが、その光景を目にして足を止める。


「あれ……誰?」

「朝から草むしり……?」


ひそひそと交わされる声。


好奇と困惑が入り混じった視線が向けられていることに、ユティナはまったく気づいていなかった。


ただ黙々と、土と向き合い続ける。


やがて、ひと息つくように背筋を伸ばし、額の汗を袖で拭った。


「ふぅ……これぐらい取れば、十分……かな」


ユティナが抜いていた草――

それは、ポルカ草とエルク草と呼ばれる、ごくありふれた植物だった。


学園の敷地内はもちろん、街道脇や空き地にさえ生えている、誰も気にも留めない雑草。


だが、薬師やアイテム生成に通じる者にとっては話が違う。


「……やっぱり、結構生えてる」


ユティナは独りごち、次々と草を抜いていく。


昨日の夜から始めた、魔力欠乏症状を意図的に引き起こす訓練。


あの訓練は、信じられないほどの消耗を伴う。

魔力を使い切り、その都度、ポーションやエーテルで回復しなければ命に関わる。


――当然、大量に必要になる。


(でも……買うお金なんて無いし……)


転生前のユティナの記憶では、ポーションなどのアイテムは高価だ。


学園にもポーションやエーテルは備蓄されているが、使用には緊急時を除いて許可が必要となる。


そのため、訓練で消費する分をどう確保するか――思案していた折、アルマが自分の所持品を分けてくれるという話になった。


だが、それに甘え続けるわけにはいかない。


頼れるからこそ、甘えすぎたくない。


だから、辿り着いた結論は一つだった。


(自分で作るしか、ないよね……。でも、どうやって……?)


ユティナは腕を組み、記憶の底を探るように考え込む。


(うーん……確か、何か方法があったはず……昔……)


――そして。


(あっ!)


「アイテムクリエイション!」


思い出したように、声が弾ける。


「そうだ、そうだ! あの魔法があったじゃん……! なんで今まで思い出さなかったんだろ……。これがあれば、最初からアルマにポーションを分けてもらう必要もなかったのに……」


アイテムクリエイション。


それは、ユティナが魔族だった頃、とある人物に徹底的に叩き込まれ、使いこなしていたアイテム生成魔法である。


素材に魔力を流し込み、術式を定着させることで、様々なアイテムを作り出す技術。


簡易なアイテムであれば、最低限の材料と少量の魔力で生成できるが、複雑なものになるほど、膨大な魔力と複数の素材が必要となる。


性能の低いポーションやエーテルであれば――

今のユティナでも、十分に製作可能だった。


そして、魔族だった頃。


まだ魔王になる前で、力も地位も持たなかった時代。


彼女はこの魔法を使い、アイテムを作っては売り、日銭を稼ぎながら生きていた時期があった。


何も持たず、頼れるものもなく――

ただ、知識と工夫だけで日々を乗り切っていた、あの頃。


その記憶が、今になって静かに蘇っていた。


(まさか……あの時の知識が、ここで役に立つなんて……)


少しだけ、懐かしそうに目を伏せる。


ポーションに必要なのはポルカ草。

エーテルに必要なのはエルク草。


素材さえ揃えば、あとは簡単だ。


それぞれにアイテム生成魔法をかけるだけでいい。


誰にも注目されない草。

誰にも知られない早朝の外庭。


だが、その一つ一つが、ユティナの訓練を支える“命綱”だった。


だからこそ彼女は、無心で草を抜く。


集めた材料を抱え、ユティナは自室へと戻った。


扉を閉めると、すぐにテーブルの上を片付け、ポルカ草とエルク草を丁寧に並べていく。


無造作に見えて、その配置にはどこか手慣れた様子があった。


「それじゃ……どんどん作っていきますか!」


小さく拳を握り、気合を入れる。


ユティナは次々と素材に魔力を流し込み、

アイテム生成魔法――《アイテムクリエイション》を発動させていった。


淡い光がテーブルの上を包み、

ポルカ草は赤みがかった液体が入った小瓶へ、エルク草は澄んだ紫の液体が入った小瓶へと姿を変えていく。


「順調、順調〜♪」


鼻歌混じりに作業を続け、瓶が増えていくのを眺めていたが――


「……あー、もー、ダメ……作れない……」


3本目のポーション、3本目のエーテルを完成させたところで、

ユティナは力尽きたようにテーブルへと突っ伏した。


体の奥が、すうっと空になる感覚。

魔力が、完全に底を突いている。


「なんか……この体、まだ慣れてないせいか……余計に魔力使っちゃうんだよねぇ……」


ぼやきながらも、彼女は顔だけを上げる。


「とりあえず……」


そう言って、先ほど自分で作ったエーテルを一本手に取り、栓を抜く。

ためらいなく一気に飲み干した。


「……うん。全回復」


体の内側に、じんわりと魔力が満ちていくのを感じながら、

ユティナは苦笑する。


「魔力量が少ないから、低ポーションでも全回復できるって……やっぱり、私の魔力量って少ないんだなぁ……」


視線を落とし、今日集めてきた材料の山を見る。


視線を落とすと、足元には今日集めてきた材料の山が積み上がっている。


「はぁ……これは……作ったエーテルを飲みながらじゃないと、全部は無理だなぁ……」


指先で頭をぽりぽりと掻き、深く息を吐く。


「ま、仕方ないか。とりあえず毎日、一日に使う分だけ作っていけばいいよね……」


そう呟いてから、ふと何かに気づいたように顔を上げる。


「なんか、転生したのに……まだブラックみたいな生活が続いてるんですけどぉぉぉ!!」


誰もいない部屋に、盛大なツッコミが響いた。


――元魔王の、相変わらず過酷な日常は、今日も健在だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ