第7話 ユティナの決意
魔力量測定を終えると、カトリット先生の指示で教室へ戻り、休憩時間となった。
そのため教室には人影も少なく、静けさが漂っていた。
窓際の席に、銀髪の少女・ユティナは穏やかな笑みを浮かべて座っていた。
その机に、ボブヘアの少女・アルマが駆け寄って来た。
「ユティ、笑ってる場合じゃないよ! どうするの!?
マリアベルさんとあんな約束して!」
アルマの言葉に、ユティナの脳裏で今朝の出来事が蘇る。
――二週間後の魔法実習。
模擬戦でマリアベルに“傷ひとつ”でもつけられたら、彼女からお金がもらえる。
もし出来なければ、ユティナは学園を去る。
それが、マリアベルの挑発に乗ってしまった結果だった。
「ユティ! マリアベルさんの実力、分かってるの!?」
焦りと心配が入り混じった声。
「彼女、総合評価Aランクだよ!? 魔力量もC! ユティは……Fランクなんだよ!?」
「うん、分かってるよ」
ユティナは微笑んだまま。焦りも後悔もない。
「分かってるなら、なんであんな約束したの!?」
「だ、だってさ……あのまま馬鹿にされっぱなしじゃ、悔しいでしょ?」
そう言いつつ、ユティナは心の中でまったく別のことを考えていた。
(今後、田舎でのんびり暮らすにしても――家は必要だよね。家を買うには当然お金も必要になってくる訳だし。早めに隠居生活を始めるなら、今のうちから貯金しておくのが賢いわよね。それに、学園生活もなるべく平和に過ごしたいのよね。となると、あのアマゾネスをこの機会に黙らせて、ついでにお金まで手に入るなんて……)
ユティナはふっと笑みをこぼした。
(まさに一石二鳥、いや三鳥くらいあるかも)
マリアベルに目をつけられたままでは、平穏など望めない。
だったら――勝って、静かで穏やかな未来を取り戻すだけだ。
「それに、模擬戦で魔法使えなくても、武器が有ればなんとかなるかなーって」
「……え?」
アルマが固まった。ユティナはそんなこと気にも留めず、腕を組んで考え込む。
(たとえ、魔法がなくても魔王時代の剣術で何とかなるはず。剣は得意だし、今さら子供相手に負けるはずが――)
「ユティ、それ……本気で言ってるの? 模擬戦って“魔法実習”だよ!? 魔法しか使っちゃダメなんだよ!?」
「…………は?」
ユティナの顔から血の気が引いていく。
「ま、まさか……武器とか使っちゃダメなの?」
「当たり前でしょ!」
「……」
沈黙。
「……あっ、見てアルマ! 小鳥さんが飛んでるよ?」
慌てて話題を逸らすように、窓際へ駆け寄るユティナ。
「小鳥なんて飛んでないから……」
「……」
振り向いたユティナの表情が“終わった人”みたいになっている。
「…………どうしよう」
「どうしようじゃないよ!」
「でもでも! ワンチャン勝てるんじゃないかな!?」
「勝てないよ! ユティ、魔力量Fランクなんだよ!? 魔力が尽きたら、マリアベルさんに触ることすら出来ないんだよ!?」
ユティナはふらふらと席に戻り、椅子に崩れ落ちるように腰を下ろした。
ぼんやりと机を見つめながら、呆然とした声を漏らす。
「アルマ……私……」
「ユティ……」
親友を見つめるアルマの胸に、決意が宿る。
(私がなんとかしなくちゃ……!)
「ユティ、私マリアベルさんに――」
ドンッ!
「こんな不利な条件なら、もっと金額上げとけばよかった!」
ユティナが机を拳で叩いて悔しがる。
「そこっ!? 今の流れでそこ!?」
アルマのツッコミが炸裂した。
「え? 違うの?」
「違うよぉ! 今日のユティ、なんかおかしいよ!? どうしちゃったの!?」
(やばっ! 魔王時代の記憶が戻って変なテンションになってた……!)
「ご、ごめん! ちょっと混乱しちゃって……!」
「……そっか。うん、こんな状況だもんね。不安だよね。ごめん、変な事を言って」
「ううん、私こそ。変な行動してごめんね」
一瞬、静かな空気が流れた。
「私、やっぱりマリアベルさんと話してくる! こんな馬鹿げた約束、取り消してもらうから!」
そう言ってアルマがその場を離れようとした時、その腕をユティナが慌てて掴んだ。
「待って!」
「ユ、ユティ……?」
ユティナは無理にでも笑顔を作る。
アルマを不安にさせないように。
「大丈夫だから。心配しないで」
「で、でも……!」
「大丈夫! ちゃんと考えがあるの!」
「か、考え……?」
アルマは半信半疑のまま、じっとユティナの目を見つめた。
そこには――恐怖ではなく、確かな“覚悟”が宿っていた。
「だから、私を信じて。ね、アルマ!」
その一言に、アルマは息を呑む。
何かを決意した人間の目だった。
「……うん。でも、もしどうしても無理そうなら言ってね? そのときは、私が絶対にマリアベルさんと話をつけるから!」
「うん。ありがとう、アルマ!」
ユティナは力強く頷いた。
親友の真っ直ぐな想いが、胸の奥に火を灯す。
(やらなきゃいけない。私自身の未来のために。そして――私を信じてくれたアルマのためにも! 魔王時代の知識をフル活用して、どんな手を使っても勝ってお金を手に入れる!)
その瞬間、ユティナの瞳に迷いは消え、揺るぎない決意の光が宿った。
静まり返った空気の中で、彼女の銀髪が淡く輝く。
それはまるで――
覚悟を決めた者だけが放つ、沈黙の証のようだった。




