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落ちこぼれ聖女候補に転生した魔王は静かな隠居暮らしを目指す~今度こそブラックな人生はごめんです!~  作者: あんずのかおり


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第4話 その少女の名はアマゾネス

朝の鐘が鳴り終わったばかりの寄宿寮は、白亜の壁に陽光を反射させ、荘厳な気配を纏っている。


「今日はパンケーキ出るかなぁ〜。昨日、厨房の人がバター多めに仕込んでたの見たんだよね」


アルマは想像だけで頬がゆるむ。


「……う、うん、楽しみだね」


他愛のない会話。


けれどユティナの声にはどこか上の空の響きが混じっていた。


寄宿寮本館のロビー――天井の高い大広間に差し込む光が、まるで神殿のような荘厳さを演出している。


二人はその中央を通り抜け、食堂へ向かおうとした。

だが、ユティナの足がふいに止まった。


「どうしたの、ユティ?」


不思議そうに首を傾げるアルマ。


ユティナは無言のまま、視線を上げた。


その先――二階へと続く大階段。


その途中の踊り場に、一枚の大きな絵画が掲げられていた。


それは、一人の女性の肖像画。

金糸のように輝く長い髪。

翠玉のように澄んだ瞳。

純白の法衣を纏い、微笑みを浮かべるその姿は、まるで聖光の化身そのもののようだった。


「あっ、あの女の人って……」 


ユティナの声が、震える。


「ん? ああ、すっごい綺麗だよね! 大聖女ソディナ様!」


アルマは憧れを隠さずに笑みを浮かべた。


「ソディナ様って、本当にすごい方だよね」


アルマは感嘆したように微笑んだ。


ソディナ――かつて勇者と共に魔王を討ち、世界に平和をもたらした伝説の聖女。


彼女は戦いの後、自分ひとりの力では世界を救い続けることはできないと悟った。そして、


「自分と同じように、人々を導き、癒やす存在を育てたい」と願った。


その志のもとに建てられたのが、この〈レディア聖院女学園〉である。


ソディナの理想は、今もなお学院の教えとして息づいていた。


「……ほんと、尊敬しちゃうよ」


ユティナはその言葉を聞きながら、喉の奥が焼けるような感覚に襲われた。


視界が滲む。


胸の奥で、かすかな痛みと熱がせめぎ合う。


(――間違いない。この女。あの時、私を殺した勇者と一緒にいた仲間の一人……)


心臓を掴まれたように息が詰まる。


憎悪か、恐怖か、それとも別の何かか――ユティナには分からなかった。


(皮肉なものだよね。あなたが建てた学院で、あなたの名を讃える娘たちの中に、かつての“魔王”が混ざっているなんて……)


アルマはそんなユティナの動揺に気づかず、絵画を見上げながら夢見心地で言葉を続ける。


「いつか私も、ソディナ様みたいにたくさんの人を救える聖女になりたいな〜」


ユティナは返す言葉もなく、ただその場に立ち尽くしていた。


白い壁の光の反射が、まるで彼女の心を焼くように眩しい。


そのとき――

ドンッ!と背中に強い衝撃を受け、ユティナの身体が前のめりに倒れた。


「きゃっ!」


「ユティ!?  大丈夫!?」


慌てて駆け寄るアルマ。


床に手をついたユティナは眉をひそめながら、押された方向を振り返った。


すると、そこには一人の少女が、上から見下ろす様に立っていた。


(もう……何なのよ、朝から……)


「あら、ごきげんよう。ハーリットさん」


澄ました声と共に現れたのは、一人の美少女だった。


ゆるやかな縦巻きウェーブのかかった長い金髪が陽光を受けてきらめく。


その翠の瞳は氷のように冷たく、見下ろす角度も完璧だ。


「こんな場所の真ん中でぼうっと立っているから、てっきり置物か何かと思いましたわ」


上品な微笑み。


けれど、その奥に確かに“悪意”が見えた。


そして、彼女の後ろでは取り巻きの女生徒たちがくすくすと笑っている。


(……あー、知ってる。この子。確か――)


ユティナが首を傾げながら言った。


「えっと……アマゾネスさん?」


「マリアベルよ!!」


ピシッとツッコミが飛ぶ。


「な、何なのよ!? そのジャングルの王者みたいな名前は!?」


「あ、ごめんなさい。なんかそれっぽい雰囲気だったから……」


「それっぽいって何よ!? 貴方の中で私のイメージどうなってるのよ!」


(いや、なんか……お山の大将ぽかったし)


そんな漫才じみたやり取りに、アルマが割って入った。


「マリアベルさん! いきなり押したら危ないじゃない!」


「あら、アルマさんもいたのね。ごきげんよう」


にこやかに会釈するが、その瞳はどこか値踏みするよう。


アルマはユティナの手を取って立たせる。


「立てる? ユティ」


「う、うん。ありがと」


だがマリアベルはその様子を見て、ふっと鼻で笑った。


「アルマさん、あなたもずいぶん物好きですね。そんな落ちこぼれと一緒にいるなんて……。品位が下がりますわよ?」


マリアベルの冷たい声に、アルマの眉がぴくりと動く。


「私が誰と一緒にいようと、マリアベルさんには関係ないでしょ!」


「まあ、そうお怒りにならないで。私はあなたのためを思って言っているのですよ?」


マリアベルは扇子を軽く仰ぎながら、まるで教師のような口ぶりで続ける。


「あなたは優秀ですし、初等部では学年首席だったでしょう? それに、孤児院育ちの方とは違って立派な家の出。――友人として付き合うなら、私の方がふさわしいと思いませんこと?」


「ユティは落ちこぼれなんかじゃない!」


アルマは一歩踏み出し、強い声で言い返す。


「それにね、私は生まれや成績で友達を選んだりなんかしないわ!」


マリアベルはわずかに目を細め、唇に作り笑いを浮かべた。


「……そうですか。それは、残念ですわ」


その声音には、どこか嘲るような響きが混じっていた。


だがすぐに、取り巻きの一人が声をかけた。


「マリアベル様、朝食の時間が終わってしまいます」


「あら、そうでしたわね。これ以上ここで時間を使うのも勿体ないですもの。では、ごきげんよう」


軽やかにスカートを翻し、マリアベルは取り巻きと共に去っていった。


「もう! 何なのよ!? いつもいつもユティに絡んできて!」


アルマがぷんすかと怒る姿に、ユティナは小さく苦笑する。


「……ユティ、あんまり気にしたらダメだよ?」


「あ、う、うん。ありがと……」


ユティナは、マリアベルたちが去っていった方向をちらりと見やった。


(マリアベル・ランカスター……確か帝国でも有名な貴族の娘だったわね。初等部の頃からずっと絡んできてるけど……)


(まぁ、今日みたいにちょっと嫌味を言ったり、小突いてくるくらいで、陰湿ないじめをしてくるわけじゃないし。むしろ可愛い方よね)


(魔王時代なんて、暗殺されかけるわ、家は焼かれるわ……もう、悲惨そのものだったんだから)


思い出しただけで、ユティナの肩が少し落ちる。


過去の“ブラックな生活”を振り返り、思わず遠い目になってしまうのだった。


「そんなことより、私たちも行こ! 朝ごはん食べ損なっちゃうよ!」


「う、うん!」


明るい声でユティナの手を取ると、アルマは軽やかに駆け出した。


引かれるまま、ユティナも思わず笑みを浮かべながらその後を追う。


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