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落ちこぼれ聖女候補に転生した魔王は静かな隠居暮らしを目指す~今度こそブラックな人生はごめんです!~  作者: あんずのかおり


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第38話 刻まれた聖印

静密の森の入り口。


夕刻の光が森の奥を朱に染め、実習終了を告げるカトリット先生の「本日の実習はここまでです」という声とともに、生徒たちは安堵の息を漏らしながら三々五々、学園寮へと帰っていく。


だが、その中で――カトリット先生に呼び止められた生徒が三人いた。


ユティナ、アルマ、そしてマリアベル。


「皆さんはこの後、すぐに保健室へいらして下さい。静密の森で起きた件について、お話があります」


「……分かりました」


三人は返事を交わし、どこか落ち着かない足取りで保健室へ向かった。



保健室の扉を開くと、既にブレア先生とアニヤ先生が待っていた。


少ししてカトリット先生も到着し、部屋の中にいる全員をざっと見渡す。


「全員そろっていますね」


その声音は、普段の穏やかな調子とはまるで違った。


ユティナたちは自然と背筋を伸ばす。


「カトリット先生、ちゃんと……話してくださるのですよね?」


先に沈黙を破ったのはアニヤ先生だった。

教師であるはずの彼女の声に、どこか不安が滲む。


「はい。もちろんです。まずは――ブレア先生、この保健室は?」


「ご安心を。この教室には防音魔法を施し、さらにカトリット先生が入られた後で、外部を遮断する結界も展開しています。ここでの会話が漏れることはありませんし、誰も入ってこられません」


「助かります」


カトリット先生の短い礼に、場の空気が一層引き締まる。


その厳重すぎる対策に、ユティナたちだけでなくアニヤ先生まで目を丸くした。


「あ、あの……ここまでする必要があるのでしょうか?」


「――一応、念のためです」


絞り出すような静かな返答。


しかし、その言葉には隠しようのない緊迫感が宿っていた。


「まず、皆さんに説明をする前に……ひとつ確認しておくべきことがあります。――ハーリットさん」


急に名指しされ、ユティナはビクリと肩を震わせた。


「は、はい?」


「服を脱いでください」


「…………へ?」


保健室に、時間が止まったような沈黙が落ちた。


ユティナの脳裏では、理解の歯車がきゅるきゅると空回りしている。


「何をしているのですか? 早く服を――」


「ちょっ、ちょっと待ってください! な、なんで服を脱ぐ必要があるんですか!?  しかもここで!?」


必死に両手を振るユティナ。


しかしカトリット先生は相変わらず真顔である。


「ここで脱ぐのが嫌であれば……ブレア先生」


「は〜い♪」


 いつの間にか背後に回っていたブレア先生が、にゅっと腕を伸ばし――


「はいっ、可愛い女の子ゲット〜♡」


ユティナの両脇を掴み、そのまま軽々と持ち上げた。


「へぁっ!?」


理解が追いつくより先に、体が宙に浮く。


そのままブレア先生は、保健室のベッドへ向かって――


「ほいっと♪」


ぽいっと投げた。


「ちょ、ちょっとおぉぉ!?」


ベッドにふわりと落ちたユティナを後目に、カトリット先生は淡々と告げる。


「皆さんはそこで待っていてください」


そう言って、仕切りのカーテンをシャッと閉め、ブレア先生と一緒に中へと入っていく。



「え、えっと……カトリット先生? ブレア先生……?」


 カーテン越しに、ユティナの不安げな声が漏れる。


「さぁ〜、すぐ終わりますからねえ♪」


「ま、待って……何するの!?」


「ブレア先生、そちらを脱がせて確認を。私はこっちを」


「は〜い♪」


「ひゃっ……そこ、だめっ……! あはっ……く、くすぐった……あははははっ!?  や、やめてくださ……あははははっ!」


キャッキャと弾む笑い声。

何かがバサッ、という布の音。

ブレア先生の「おお〜♪」というやけに愉しそうな声。


(……一体、中で何が?)


アルマもマリアベルも、ただ無言で顔を見合わせるしかなかった。



そして数分後。


カーテンが静かに開く。


カトリット先生とブレア先生が、すっかり仕事を終えた顔で出てきた。


続いて――


「……もう……お嫁に行けない……」


両手で顔を覆い、真っ赤になったユティナがトボトボと現れた。


肩はしょんぼりと落ち、なんだか“何か大切なもの”を置いてきてしまったような表情だった。


アルマとマリアベルは思わず、そっと目を逸らした。


あまりに衝撃的な状況に、誰も言葉を出せず固まっていた。


そんな沈黙を破ったのは、顔をひくつかせていたアニヤ先生だった。


「カ、カトリット先生……これは、一体……?」


「はい。ハーリットさんの“聖印”を確認していました」


「せ、聖印? な、なぜです? 彼女は聖霊の儀を“失敗”しているのですよ!? 聖霊獣と契約していない以上、聖印など――」


「ありましたよ♪」


アニヤ先生の言葉を、ブレア先生が明るい声で遮った。


「……え? あった……?」


その瞬間、保健室の空気が揺れた。


アニヤ先生、アルマ、マリアベル――全員が目を丸くする。


「はい。間違いなく、彼女にも聖印がありました」


ブレア先生はきっぱりと言い切る。


「そ、そんな……どこに……?」


「ここです」


ブレア先生は、自分の体を触って場所を示した。

――下腹部。


「か、下腹部……。そんな場所に現れた例は……記録には……」


アニヤ先生は必死に記憶を探るが、答えは見つからない。


その時。


「では確認しますわ」


マリアベルが突然、無表情のままユティナのスカートを両手でガバッとつかみ――


勢いよくめくり上げた。


「ふぇぇぇえええええっ!?」


ワンピース型の制服なので、当然、下腹部と……ついでにパンツまで丸見えになる。


「ほ、本当ですわ……」


「ほんとにある……!」


 アルマまで覗き込み、神妙に頷く。


「しかし……見たことのない紋様ですね……」


アニヤ先生も自然とユティナの方へ寄り、三人がかりで覗き込む。


ユティナの下腹部には、白と青の線で描かれた、異様に美しい――しかし明らかに普通ではない紋章が浮かんでいた。


「ちょ、ちょぉぉぉぉぉぉおっ!!」


 ユティナは悲鳴を上げ、慌ててスカートを押さえ元に戻す。


「なな、急に何するのぉぉぉ!?」


「何って、聖印があるかどうか確認しただけですわ」


マリアベルは悪気ゼロでサラッと言う。


「そ、それでもっ! 勝手にスカートめくるなんて……!」


「恥ずかしかったのですか?」


「当たり前でしょ!? わ、私だって女の子だよ!? 乙女だよ!? は、恥ずかしいに決まってるじゃん!」


ユティナは涙目で抗議する。


「今更何を。私達しかいないのですから問題はないでしょう? それに……パンツを見られたくらいで照れるなんて、ユティナさんにも可愛い所があるのですわね」


悪気なく放たれた一言が、ユティナのHPをさらに削る。


「うう……ひどい……」


両手で顔を覆い、シクシク泣き始めるユティナ。


「あはは……まあまあ、マリアベルさんもそのくらいに。ほら、ユティも、いつまでもメソメソしないの」


アルマが優しくなだめようとすると――


「……アルマも、見たくせに……」


「うっ……」


ぐさり、とアルマの良心に刺さる。


「あ、あのっ、そんな事より…!」


アニヤ先生が、強引に話題を本筋に戻そうとする。


「“そんな事より”!? ひ、ひどい……! わ、私の人権は……どこに……」


ユティナがシクシクと泣いて居る横で、話は容赦なく進んでいった。


「何故ハーリットさんに聖印があるのです!? それに……静密の森で起きた現象も説明していただかないと。彼女が霊獣語というものを喋っていたことや、あの森を削った巨大魔法……あれは一体……?」


アニヤ先生が問い詰めるように言う。

その疑問は、アルマもマリアベルも同じだった。

静密の森での出来事はあまりにも異常だったのだ。


「そうですね。順番に説明しましょう」


カトリット先生は真剣な表情で頷いた。


「まず結論から言います。ハーリットさんはすでに聖霊獣との契約を終えていると考えてよいでしょう」


「……え?」


ユティナの泣き声が止まった。


「皆さんも見た通り、彼女の下腹部に刻まれた印がその証拠です。あれが“聖印”。これがいつ刻まれたのかは現状わかりませんが……」


説明に合わせてユティナはお腹を押さる。


「そして、静密の森でユティナさんが放った巨大魔法――」


カトリット先生はそこで言葉を区切り、ゆっくり言った。


「……あれは“聖魔法”です」


空気が少し揺れる。


「せ、聖魔法……」


アルマが小さく呟く。


「はい。あの時点で契約はすでに完了していたのでしょう。ユティナさん」


カトリット先生はユティナを見た。


「本当に、聖霊獣と契約した記憶が“無い”のですね?」


ユティナは少し考え込む


「うーん……はい……全然……」


(記憶の欠落……その可能性も視野に入れるべきでしょうか)


カトリット先生は顎に手を添え、思案深く目を細めた。


「ほ、本当に契約者なのでしょうか? それに……あんな聖印……私は見たことがありません」


アニヤ先生が不安そうに言う。


ユティナの印は、既知のどれとも違っていた。


「それは間違いありません」


きっぱりと言ったのはブレア先生だ。


「――あの印には聖力が込められていました。間違いなく“聖印”です。それに、あの時ハーリットさんは聖魔法の詠唱に“霊獣語”を使用していました。霊獣語が使えるのは……特別な契約者だけです」


ブレア先生の言葉に、アニヤ先生の眉がきゅっと寄る。


「と、特別な契約者……とは……?」


「それについては後ほど話します」


カトリット先生が短く返す。


その声音はどこか重い。


だがアニヤ先生は、ユティナが“契約者だった”とわかった途端、明らかに安堵の色を見せた。


「分かりました……事情は理解しました。いつ契約が行われたかは不明としても、ハーリットさんは――四人目の契約者、ということなのですね! 一回目の儀式で、一つのクラスから四人も契約者が出るなんて……これは快挙ですよ、快挙!」


アニヤ先生は両手を胸の前でぎゅっと握り、目を輝かせる。


しかし。


「…………」


「…………」


カトリット先生とブレア先生は、まったく同じタイミングで視線をそらした。


明らかに“喜んでいる雰囲気”ではない。


その違和感に気づいたアニヤ先生は、笑顔を引っ込めた。


「……カトリット先生? ブレア先生? どうされたのですか?」


「い、いえ……」


ブレア先生は、珍しく言葉を濁し、目を泳がせる。


「……確かに、四人目の契約者が現れたこと自体は……喜ばしいことです。ですが……非常に大きな問題があるのです」


カトリット先生の声は、重く沈んでいた。


「……問題?」


アニヤ先生の表情からみるみる不安が広がる。


アルマもマリアベルも、息を飲んで先生の口元を見る。


しかし当の本人は――


「…………?」


ユティナだけが、ぽけっと首をかしげていた。


説明についていけず、完全に置いてけぼりである。


その対比が余計に場の空気を張り詰めさせた。


「その“大きな問題”とは……一体……何なのですか?」


アニヤ先生がごくりと喉を鳴らして尋ねた。


カトリット先生とブレア先生は、一瞬だけ互いに目を合わせ――


重く、静かに告げようとしていた。

読んで頂きありがとうございます(*´∀`)♪

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