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落ちこぼれ聖女候補に転生した魔王は静かな隠居暮らしを目指す~今度こそブラックな人生はごめんです!~  作者: あんずのかおり


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第33話 放たれる力

静密の森の奥深く。


鬱蒼とした木々をかき分け、ユティナは息を切らしもせず駆け抜けていた。


(…聞こえる…! やっぱり誰かが戦ってる…!)


深い森を震わせる爆ぜる音。震動。焦げた匂い。


ユティナはその方向へ迷いなく加速した。


ほどなくして、視界がぱっと開ける。そこは――

黒く焼け焦げ、木々が溶け落ちた異様な“広場”だった。


「……っ! いた!!」


目に飛び込んできたのは、息を切らすマリアベルと、負った傷を押さえたまま座り込んでいるアルマだった。


二人の前では白い霧が渦を巻き、その奥で“何か”の赤い光が揺らめいていた。


次の瞬間――

霧の奥から、灼熱の魔力が迸った。


炎の揺らぎが一瞬で膨張し、巨大な火球となって射出される。


空気が歪むほどの高熱。


地面の焦げ跡が一瞬で赤く輝き出す。


(まずい……っ! あんな……高密度の魔力の塊を正面から受けたら……二人とも……!)


ユティナは息をのみ、意識を一点へと研ぎ澄ませた。


「──身体強化エンハンス……魔法強化マジックブースト!」


発動と同時に、彼女の全身を駆け巡る力が一気に跳ね上がる。


筋肉はしなやかに張り詰め、体内を巡る魔力は嵐のように脈動した。


(……お願い、間に合って!)


「――加速魔法(アクセラレーター)!!」


足元が爆ぜるように割れ、ユティナの姿が“掻き消えた”。


炎の奔流が迫りくる寸前、アルマとマリアベルの前に

風の轟きとともにユティナが現れる。


「ウィンドシールド!!」


ユティナの叫びと同時に、空気がうねる。


目の前に展開された巨大な風盾が“バンッ”と衝撃音を響かせ、迫りくる火球を受け止めた。


「ぐ……っ、うぅぅ……!」


全身にのしかかる圧力。


風盾が焼け焦げ、きしむ音が鼓膜に刺さる。


「ユ、ユティ!?」

「ユティナさんっ!?」


後ろからアルマとマリアベルの声。


でも振り向く余裕なんて一瞬たりともない。


「お、おもっ……っ!!」

(正面からは……無理……! 逸らすしか……!)


ユティナは奥歯を噛み締め、片足を踏み込み――

風盾の角度をほんの僅かずらした。


その瞬間。


轟音を残して火球の軌道が外れ、

三人の頭上をかすめて空へ――


ドォォォォンッ!!!


空中で巨大な火の花が咲き、衝撃波が木々を揺らした。


(このまま反撃に転じて、あの魔物を、アルマ達から遠ざけなきゃ!)


判断は一瞬だった。


ユティナは間髪入れず、地を蹴った。

一直線に魔物へと距離を詰める。


それに反応し、魔物は咆哮を上げながら鋭い爪を振り下ろす。


「――っ!」


横へ跳ぶように身を捻り、紙一重で回避。

叩きつけられた爪は地面を抉り、土と岩を砕いて深く食い込んだ。


その一瞬を逃さない。


ユティナは沈み込んだ魔物の腕を足場に蹴り上がり、その巨体を一気に駆け上がる。


「はぁっ!」


頭上から振り下ろした一閃。

刃は確かに捉え、血飛沫が宙を舞う。


――だが。


(硬っ……!)


感触が浅い。

致命傷には程遠い、表皮を裂いただけの手応え。


魔物は怒りの唸り声を上げ、身をよじる。


「く……なら!」


ユティナは着地と同時に、足へ魔力を集中させた。


次の瞬間――

踏み込みと共に、地面がひび割れる。


加速した身体が一気に懐へ潜り込み、渾身のハイキックが魔物の腹部を撃ち抜いた。


「グゥェェァ……!」


衝撃に耐えきれず、巨体が大きくよろめく。


距離が開いた瞬間を逃さず、ユティナは即座に魔法陣を展開する。


「――ファイヤーランス!!」


蒼白い炎を纏った槍が一直線に走り、魔物の胴へと突き刺さる。


直後――

爆ぜるような轟音。


「グゥェェアアアアァァァッ!!」


凄絶な絶叫が森に響き渡った。


ユティナは荒い息を吐きながら、即座に振り返る。


「だ、大丈夫!? 二人とも!」


剣を握り締めたまま、仲間の元へと駆け寄っていった。


「え、えぇ……助かりましたわ…!」


マリアベルは胸を押さえながらも、ユティナの技量に驚愕の目を向けていた。


「よ、よかった……本当に……無事で……っ――」


そう言いかけて、ユティナの表情が凍りついた。


視線の先――アルマ。


彼女の右腕からは血が滴り、額の傷口からも赤い筋が垂れている。


服のあちこちが裂け、打撲と擦り傷が痛々しく浮かんでいた。


「ア……アルマ……その……怪我……」


ユティナの声は震えていた。


胸の奥がぎゅっと掴まれたように痛い。


「あ、はは……ちょっと……ドジっちゃった、かな……?」


アルマは痛みを堪えながら、いつものように笑って見せた。


その笑顔が逆に、ユティナの心を締め付ける。


「そ、そんな……アルマ……どうして……。なんで……こんな……!」


視界が揺れ、呼吸が乱れる。

力の抜けた手から、剣が音もなく地面に落ちた。


目の端が滲み、世界が歪む。


目の前でこんなに血を流しているなんて――


もっと早く来ていれば。


その想いが胸の奥で何度も反響し、鋭い痛みとなってユティナを締めつける。


息を吸うたび、後悔が深く沈み込み、逃げ場のない重さとなって広がっていった。


やがて、その痛みは形を変える。

震えるほどの悔しさと、抑えきれない怒りへと。


――許せない。

自分も、そしてこの状況を生んだすべてが。


燃えさしがぱちぱちと弾け、焦げた匂いが重く漂う中――

揺らめく炎の向こうで、黒い巨影がゆっくりと姿を現した。


焦げた毛から煙を上げつつも、魔物はほとんど無傷。


むしろ怒りで魔力が膨張していた。


「グガァァァァァッ!!」


地響きとともに咆哮が森を震わせる。


「ま、マズイですわ……! は、早くここから離れませんと……!」


マリアベルが後ずさる。


その横で、ユティナはアルマの傷から視線を離せずにいた。


「ア、アルマ……私……」


「ユティナさん、しっかりして下さい! アルマさんの怪我に驚かれるのは分かりますが、今は――」


マリアベルが言い終える前に、ユティナの唇が震えながら動いた。


「…まれっ…!」


かすれたその一言。


だがユティナの声は、まるで周囲の空気を震わせる“合図”のようだった。


「え……ユティナさん……?」


マリアベルが青ざめた声を漏らす。


その背後で魔物の咆哮が響いた。


「グルガァァァァァッ!!」


次の瞬間――


「黙れ」


ユティナが魔物に向けて吐き捨てた。


その声は低く、深く、まるで別人のように響く。


瞬間だった。


──ドカァァンッ!!


爆ぜるような衝撃音とともに、魔物の巨体が“見えない圧力”に押し潰されたかのように地面へ叩きつけられた。


土が盛大に跳ね上がり、魔物の身体は半ばまで地面にめり込む。


「グ、ガッ……!」


魔物が苦痛に呻く。

しかし誰よりも“異様”なのはユティナだった。


ユティナの瞳は大きく見開かれ、瞳孔がぞっとするほど開いていた。


そこに、いつもの柔らかな光はもうない。まるで別の存在がその目の奥に宿ったかのようだった。


「……よくも……」


風が渦を巻き、落ち葉が舞い上がる。


「私の大事な友達を……大切な人を……よくも傷つけたな……!! たかが……魔物ごときが……ッ!!」


殺気が爆発するように周囲の空気を震わせる。


マリアベルはその場で膝が笑い、思わず一歩後ろに下がった。


「ユ、ユティナさん……?」


アルマは痛みに肩を押さえながら、ただ不安そうに彼女を呼ぶ。


「ユティ……」


その声が届くよりも先に――


「み、皆さん! 大丈夫ですか!?」


カトリット先生とアニヤ先生が駆け込んできた。


「なんて怪我……アルマさん、しっかり……!」


カトリット先生はすぐに二人の状態を確認しはじめる。


対してアニヤ先生は魔物を見て絶句した。


「あ、あれは……インフェルノベアー!? こんな場所に――!」


「インフェルノ……ベアー?」

マリアベルが呟く。


アニヤ先生は震える声で言う。


「A級冒険者のパーティーでやっと討伐できる魔物です……それを……ハーリットさんが、あれを……押さえているの……!?」


続いてブレア先生が駆け付け、目の前の光景を見た瞬間、言葉を失った。


「こ、これは……どういう状況なんです……?」


「ブレア先生! 今は生徒たちをお願いします!」


カトリット先生の強い声に、ブレア先生はハッと我に返る。


すぐさまアルマたちのもとに屈み込み、状態を確かめた。


「もう大丈夫ですわ。私が必ず治しますから」


その口調には安堵と決意が、はっきりと宿っていた。


「すみません……」


アルマが弱々しく微笑む。


ブレア先生は優しく微笑み、回復魔法を発動しようと手をかざす――その瞬間だった。


ユティナが、ゆっくりと前へ手を伸ばす。


そしてユティナは、焦点の合わない瞳のまま――


「アズ・ル=メイア……ルオ・シェファ=イン・ハルマ……」


まるで誰かに操られるように、聞き取れぬ言語を紡ぎ始めた。


その声に、ブレア先生とカトリット先生の表情が一瞬で変わる。


「こ、この言葉は……」


カトリット先生の顔色がみるみる青ざめる。


アニヤ先生が慌てて問いかけた。


「この言葉は何なのですか、カトリット先生!?」


「ま、まさか……そんなはずは……」


震える声を押し殺すように、カトリット先生は首を振る。


だが、その動揺は隠しきれない。ブレア先生までも、固まったように目を見開いていた。


そして――ブレア先生がぽつりと呟く。


「……霊獣語」


「れ、霊獣……語?」


アニヤ先生だけが理解できず、視線を彷徨わせる。


「そんな……。ありえません。霊獣語は、聖霊獣との契約……それも"隷属契約"した者にしか使えないはずなのに……。それにユティナさんから感じるこの大きな力は……!?」


場の空気は、一瞬で凍りついた。


その時だった。


ユティナの背後に、白く輝く魔法陣が次々に展開されていく。


しかも――一つではない。


十数枚の魔法陣が“彼女を守るように”半円状に並ぶ。


「こ、これは……!!」


ブレア先生が目を見開く。


さらに、ユティナの目前にひときわ巨大な白銀色の魔法陣が出現。


そして――


ユティナの唇がゆっくりと動く。


「ホーリーレイ……」


静かに告げられたその言葉を合図に、展開されたすべての魔法陣から光条が走り、それらが一点、ユティナの前の巨大な魔法陣へと吸い込まれるように収束していく。


そして生まれたのは――

天地を貫くような一本の純白の光の奔流。


轟音すら追いつけない速度で放たれ、魔物は触れた瞬間に跡形もなく消滅した。


地面は抉れ、森の木々は光に呑まれて消し飛び、ただ一本の白い線を描くように、遥か彼方まで“何も残っていない道”だけが続いていた。


「な、ななな……何なのですか……これは!?」


アニヤ先生が震える声で叫ぶ。


だが、その驚愕は彼女だけではない。


その場にいた全員が――

今、目の前で起きた“現実離れした破壊”に息をのんでいた。

読んで頂きありがとうございます(*´∀`)♪

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