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落ちこぼれ聖女候補に転生した魔王は静かな隠居暮らしを目指す~今度こそブラックな人生はごめんです!~  作者: あんずのかおり


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第31話 アルマの死闘

森に漂うのは、重くのしかかる焦げ臭さ。


つい先ほどまで生い茂っていた木々は無残に黒炭となり、草木も形を失って地面に灰だけが舞っている。


爆ぜるような咆哮と共に、熊型の魔物が吐き出した火球は森を焼き尽くした。


その灼熱の直撃地点――そこには、まるで奇跡の残滓のように、半透明の金色の球体が静かに揺らぎながら残っていた。


球体の内側には、寄り添うように二つの影。


「……う、うぅ……わ、私……生きて……る?」


弱々しく呟きながら、緑髪のおさげの少女・カルノーラがゆっくりと目を開く。


掛けていた眼鏡は斜めにずれ、レンズには細かなヒビが走っていた。


「よかった……! カルノーラさん、大丈夫? どこか痛むところはない?」


優しい声が、焦げた空気の中でほっとする温度を帯びて響く。


カルノーラがその声の主へ視線を向けると――そこには息を荒げながらも、必死に彼女を案じるアルマの姿があった。


「ア、アルマさん……?」


その瞬間、カルノーラは気づく。


アルマの右腕から、赤い滴がぽたぽたと地面に落ち続けている事に。


「ア、アルマさん、腕が――っ!?」


カルノーラの声は震え、ほとんど悲鳴だった。


「ん、大丈夫。さっきの爆発で飛んできた破片にちょっとかすっただけだから…」


平然と答えるアルマ。しかし血の量は“ちょっと”という言葉には明らかにそぐわない。


「で、でも…それ…!」


「待って。今はケガのことより――ここから離れなきゃ。」


その静かな一言に、カルノーラは息を飲む。


そしてようやく、自分たちの周囲を覆う“何か”の存在に気づいた。


薄く金色に輝く半透明の球体。


まるで温かい光が膜になったような不思議な結界が、二人を守るように漂っている。


「こ、これって……?」


「多分、実習で渡されたネックレスの効果だと思う。ほら」


アルマが胸元を軽く持ち上げる。


銀のネックレスが淡い光を放ち、まるで彼女の鼓動に呼応するように脈動していた。


「ブレア先生が言ってた……聖結界……」


「うん。身の危険が迫った時だけ、自動で発動するって。どうやら反応したのは私の方みたいだね」


カルノーラは慌てて自分のネックレスを確かめる。


だが彼女のものは、ひどく静かで、ただの金属の塊のように光一つ灯していなかった。


「わ、私のは……光ってない……」


「さて――本来なら、このままここで先生たちを待つのが正解なんだけど……」


アルマは言葉を選びながら、しかし瞳はどこか険しい。


「ま、待たないの!? だって、ブレア先生は言ってたよ! この森にいる魔物じゃ、この聖結界は破れないって……! それに、結界が展開したら助けに来るって……」


「それは、私も信じたい。信じたいんだけど……」


アルマはそっと、結界の膜を指さす。


「カルノーラさん。よく見て」


促され、カルノーラは光の膜を凝視した。


そして――背筋が凍る。


「そ、そんな……嘘……」


金色の結界の一部に、蜘蛛の巣のような細い亀裂が走っていた。


魔力の光がそこだけ揺らぎ、まるで今にも壊れてしまいそうに明滅している。


「結界に……ヒビが……入ってる……」


カルノーラの声は完全に震えていた。


遠くから、焼け焦げた木々の向こうで、再びあの熊型の魔物の低い唸り声が響く――。


「……恐らく、あの魔物の攻撃は、もうこの結界じゃ防ぎきれない」


アルマの言葉は静かだったが、その静けさが余計に現実を突きつけてくる。


「あ、あぁ……どうしよう……っ!?」


カルノーラの声は震え、手はぎゅっと胸元を掴んでいた。


「落ち着いて、カルノーラさん」


アルマは痛む腕を押さえながら、必死に穏やかな声を作る。


「私の聖結界はもう発動してる。でも――貴女のは、まだ発動してない。だから……今のうちに、逃げて」


「……え?」


言葉の意味を飲み込んだ瞬間、カルノーラの顔色がサッと失われる。


「な、何を言ってるのアルマさん!?」


「あの魔物から逃げるには……誰かが引きつけなきゃいけない。」


「だ、だったら……まだ結界が発動してない私が――!」


「だめ」


アルマは首を横に振った。


その瞳は揺れていない。


「貴女の結界は“逃げるための命綱”になる。壊れかけの私のより、ずっと……生き延びる確率が高い」


「で、でも、アルマさんは……!」


「大丈夫だよ」


アルマは痛みをごまかすように笑ったが、その笑顔はどこか切なかった。


「貴女が逃げ切ったのを見届けたら、私もすぐに逃げるから」


「だけどっ……!」


その瞬間――

森全体が震えるほどの咆哮が轟いた。


「――来た」


アルマは視線を魔物へ向けながら、小さく息を吸う。


「カルノーラさん。行って」


ふらつく足で、アルマは前へ一歩進み出る。


その背中を見た瞬間――カルノーラの胸がぎゅっと締めつけられる。


「アルマさん……」


カルノーラは目を固く閉じ、震える拳を握る。


そして――決意と共に目を開いた。


「……絶対に死なないで! アルマさん、必ず先生を連れて戻るから!」


涙をこらえながら叫び、カルノーラは結界を抜けて走り出した。


魔物の巨体が、カルノーラの背を追うように動く。


だが――


「この先には――絶対に行かせない!」


アルマが叫び、詠唱を紡ぐ。


「風よ、荒れ狂う嵐となり――すべてを巻き込め!

サイクロン!」


轟音と共に、巨大な竜巻がアルマの前に立ち上がり、魔物へと襲いかかる。


木々を引き裂き、地面をえぐり、大気を震わせるほどの風圧。


しかし――


「グルォァァァァッ!!!!」


魔物の咆哮と同時に、赤い閃光が爆ぜた。


次の瞬間、竜巻はまるで紙のように破裂し、吹き飛ばされる。


「うそっ……!?」


アルマの瞳が大きく見開かれた。


「あれを……“魔力の放出だけ”で……弾いた……!?」


胸の奥が冷たくなる。


その化け物が、ゆっくりとこちらへ歩み始める。


そして――戦いは避けられないものになった。


魔物の巨体が地を割る勢いでアルマに向かって突進してくる。


焦げた土が跳ね、空気が震え、獣の咆哮が耳を貫く。


アルマは一歩も退かず、震える息を整えると――手を前に翳し、詠唱を始めた。


(くっ……もっと高威力の魔法じゃないと……!)


「遥か古より沈黙する蒼天よ……すべてを凍てつかせ、万物を巡る熱を断ち切れ――!」


詠唱の途中、

ドンッ!!!!


結界に凄まじい衝撃が走った。


魔物の突進が真正面から叩きつけられたのだ。


金色の膜が大きく歪み、結界全体に

ピシッ……ピキィ……ッ!

と、絶望的な亀裂が広がっていく。


(結界が……! お願い……もう少しだけ……持って!!)


願いも虚しく、魔物は止まらない。


結界に覆いかぶさり、獰猛な爪で何度も何度も叩きつけてくる。


ガンッ! ガガガッ!


叩くたびに、ヒビが増え、深く食い込み、膜が悲鳴を上げるように軋む。


だが――アルマは目を閉じ、集中を途切れさせない。


(全部使う……! 残りの魔力、全部……叩き込む!!)


その瞬間、アルマの身体の奥底から魔力が逆流するように駆け巡った。


負荷に耐えきれず――

ぽたり。


鼻から血が流れ落ちる。


「静まれ、大気。……凍りつけ、世界。……命よ、眠れ……。時よ、止まれ……」


アルマの声が震えながらも、確実に魔力を束ねていく。


「――開くは、絶対零度の扉っ!!」


目の前に巨大な青の魔法陣が展開し、空気が一瞬で白く霜を帯びる。


温度が急落し、世界そのものが凍りつくような冷気が爆発的に膨れ上がる。


そして――


「グルォォォォッ!!!」


魔物の渾身の一撃が結界に叩き込まれ――


バリィィィイイイイイイン!!!!


とうとう結界が破裂した。


金色の破片のような光が四散し、守りを失ったアルマへ魔物が迫る。


だが、その刹那。


アルマは振り絞るように叫んだ。


「――アブソリュート・ゼロッ!!!!」


魔法陣から放たれた“青白い絶対零度の奔流”が、世界を凍てつかせる冷気となって魔物へと飲み込んでいく――!


凍てつく冷気が嵐のように吹き荒れ、視界は真っ白に閉ざされていた。


ただ、耳に残るのはアルマ自身の荒い呼吸だけ。


「はぁ……はぁ……っ……」


徐々に冷気が晴れ、白い霧の向こうに姿を現したのは――

巨大な魔物が、全身を氷に閉じ込められた姿。


「はぁ……はぁ……た、倒した……」


膝がガクンと崩れ、その場に座り込むアルマ。


安堵が胸いっぱいに広がり、思わず笑みすらこぼれそうになる。


「よ、よかったぁ……もう……ダメかと思っ――」


その瞬間。


ピシ……ッ。


静寂を裂く、小さなひび割れの音。


「……え?」


氷の表面に走る細い亀裂。


それは一度走り始めた途端、止まらない。


ピシッ、ピキッ、パリパリパリ――ッ!!


そして――


パリィィィィン!!!


破裂するような音と共に氷が粉々に砕け散り、冷気の中から、魔物が咆哮を上げながら復活した。


「グルォォォォッ!!」


「うそ……そんな……っ」


アルマの顔が、一瞬だけ絶望に染まる。


だが――その瞳に、再び“強い光”が宿った。


(まだだ……まだ終われない……!! こんなところで……倒れるなんて――!)


震える足を無理やり動かそうとする。

しかし――


「あ……れ……? 足が……動か、ない……?」


体の奥が冷たく痺れ、力がまったく入らない。


魔力を使い果たした反動が、肉体を蝕んでいた。


(魔力……使いすぎて……身体が……っ)


魔物が爪を振り下ろす。


アルマは咄嗟に身を捻って避けるが――


地面を抉る衝撃波に弾き飛ばされた!


「きゃっ……!」


何度も転がり、地面に叩きつけられる。


額を物理的な衝撃が切り裂き、血が頬を滑り落ちる。


呼吸が苦しく、視界は滲んで揺れた。


魔物はゆっくりと、しかし確実にアルマへ向かって歩く。


(あ……ぁ……もう……だめ……かもしれない……)


父と母の顔が浮かぶ。


優しく微笑む二人の姿に、心がじんわりと熱くなる。


(お父様……お母様……ごめんなさい……)


そして――

最後に浮かんだのは、一人の少女の顔。


(ユティ……ああ……最後に……会いたかったなぁ……)


涙がこぼれ、アルマのまぶたがゆっくり閉じられていく。


それは、生きる意思を放した者の動きだった。


魔物の鋭い爪が、頭上で大きく振りかぶられる。


風を裂く音が迫り――


アルマの身体へ、死が覆いかぶさろうとしていた――。


読んで頂きありがとうございます(*´∀`)♪

もし、面白い!続きを読みたい!と思ってくださって頂けるなら、ブックマークや☆評価など頂けると幸いですm(_ _)m

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