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落ちこぼれ聖女候補に転生した魔王は静かな隠居暮らしを目指す~今度こそブラックな人生はごめんです!~  作者: あんずのかおり


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第30話 迫り来る恐怖

静密の森――深く、深く、薄闇が支配するその奥を、ひとりの女生徒が必死に駆けていた。


葉を裂く足音は乱れ、呼吸は悲鳴のように掠れている。


それでも彼女は振り返らない。


ただ、何かに追われるように、いや――明確に「追われている」恐怖に突き動かされて。


揺れる緑の三つ編み。震える肩。


伊達メガネの奥の瞳には涙が滲み、視界を曇らせていた。


カルノーラ・マイティニアス。


ユティナと同じ一年二組のクラスメイト。


普段の彼女は目立たない。

声も小さく、成績も平凡。

良くも悪くも「普通」で、誰の記憶にも深く残らないタイプの生徒だった。


そんな彼女が今、誰よりも必死に走っている。


聖晶花――今回の実習で手に入れるべき重要な花。


それを求めて迷い込み、気づけば森の奥へ奥へと進み過ぎてしまった。


魔物との遭遇自体は珍しくない。


むしろ、この森で目的の花を探す以上、覚悟の上で踏み込むのは当然だ。


将来、聖女になれるかどうかが掛かった実習。


焦る者がいて当然、いや――焦らずにはいられない。


カルノーラも、そんな生徒のひとりだった。


だが、彼女が出会った魔物は、想定していた“レベル”を大きく超えていた。


血の気が引くほどの威圧感。

生ぬるい吐息。

視界の端で揺れる巨影。


「……無理、無理無理無理……っ!!」


叫びさえ喉に張りつき、声にならない。


それでも、彼女の脳ははっきりと理解していた。


立ち向かったら死ぬ――!


だから走る。


枝をかき分け、転びそうになりながらも走る。


心臓が破裂しそうなほどの恐怖に突き動かされ、ただひたすら足を前へと。


背後の暗がりで、魔物の咆哮が森を揺らした。


彼女は涙をこぼしながら、それでも生きるために走り続けた。


一方その頃、アルマもまた静密の森の奥へと進んでいた。


「確か……このあたりから聞こえたはず……声みたいなのが」


足を止め、周囲を注意深く見回す。


風が葉を揺らす音――それだけ。


だが、耳を澄ませば……


「……あっ、聞こえた。これ、悲鳴……!?」


胸の奥に冷たいものが走る。


嫌な予感。


それはまるで、背中を押すような強烈な警鐘となってアルマの体を駆け抜けた。


「っ……!」


気が付けば、彼女はもう走り出していた。


悲鳴のした方へ。迷うことなく。


(あれはただの叫びじゃない……!誰か、本気で危ない……!)



「だ、誰か……はぁ……はぁ……誰か……助けてぇぇぇ!!」


カルノーラは必死に叫びながら走り続けていた。


けれどその声は森の深い闇に吸い込まれ、どこまでも虚しく散っていく。


代わりに聞こえてくるのは――


「グルォォォォガァァァ!!」


背後から響く魔物の怒号。


その低く唸る咆哮は、まるで後頭部を掴まれるかのような圧を帯びて迫る。


「ひっ……!」


恐怖に足がもつれ、カルノーラは前のめりに倒れ込んだ。


「あ……!」


息が詰まる。


立ち上がろうとする――が、腰が抜けてしまい、足が震えて全く力が入らない。


「あ、あ……!」


這いずりながら逃げる。


喉が焼けるほど叫びたいのに声がうまく出ない。 


その間にも――


「グォルガァァァ!!」


背後から、地を震わすような咆哮。


カルノーラは恐る恐る振り返った。


そこにいたのは――


体長三メートルはある、熊型の魔物。


二本足で立ち上がり、夜の闇よりも濃い漆黒の毛を逆立てている。


背に生えた赤い結晶のような鰭が鈍く光り、鋭い爪は刃物のように長く伸びていた。


その眼は――完全に“獲物”を見ていた。


カルノーラは後退るが、背中が木に当たり、逃げ場はなくなる。


「いや……いやっ……! し、死にたく……ない……っ!!」


極度の恐怖で震えた足は言うことを聞かず、喉はひゅっと音を立てて閉じる。


自分の鼓動だけが、やけに大きく響いた。


「誰かっ……誰か……助けてぇぇぇ!!」


魔物の影が覆いかぶさった。

巨大な腕が振り上がる。

鋭い爪が空気を切り裂き――

カルノーラへと迫る。


彼女はぎゅっと目をつむった。


――その瞬間。


「ウィンドストライク!!」


鋭い風の弾丸が飛び、魔物の脇腹へ直撃した。


ドッ、と鈍い音が響き、魔物の巨体がよろめく。


「え……?」


カルノーラが恐る恐る目を開けると、魔法の放たれた先に、息を切らしたアルマが立っていた。


「逃げて!!」


短く強い声に、カルノーラの意識が一気に現実へ引き戻される。


木を支えに震える膝を押さえ、なんとか立ち上がろうとした――その刹那。


「グルォァァァ!!」


魔物は再びカルノーラへ向かって鋭い爪を振り下ろそうとする。


「させないッ! ウィンドカッター!」


アルマが放った風の刃が、魔物の腕に深々と切り込む。


しかし――


「グォ……ッ」


攻撃は止められただけ。

傷は浅い。

魔物の目はなおも血走り、凶気が増すばかりだった。


(ダメ……この半端な威力じゃ通らない。それに――彼女が逃げる時間を稼ぐには、私が注意を引きつけないと!)


アルマは迷いを振り切るように、地を蹴って魔物へと疾走した。


その気迫に反応したのか、魔物の紅い瞳がギロリと彼女に向く。


(よし……食いついた!)


アルマは滑るように駆け抜け、腰のレイピアを抜き放つ。


銀の刃が一瞬、光を弾いた。


迫りくる腕の一撃を紙一重で躱し、魔物の懐へ一気に飛び込む。


そして、鋭い突きを腹部へ叩き込む――しかし。


ガキィィン!!


(硬っ……!? 皮膚が厚すぎて刺さらないっ!?)


アルマは舌打ちしつつ後方へ跳び退き、カルノーラの前に立ち塞がるよう剣を構え直す。


「大丈夫!? 立てる!?」


「は、はい……っ」


震える声で答えるカルノーラ。


アルマは視線を魔物へ向けたまま、低く問いかけた。


「あの魔物……一体何なの?」


「わ、分からないの……。花を探していたら、急に姿を現して……。それで、私、怖くなって逃げたら――」


「追ってきた、ってわけね」


カルノーラは唇を噛み、こくりと無言で頷いた。


その時だった。


魔物の背に突き出した赤い鰭が、ドクン……と脈打つように光り始める。


(まずい……! あれ、膨大な魔力を溜めてる……!!)


アルマの直感が悲鳴を上げた。


彼女は迷わずカルノーラの腕を掴む。


「走って!!」


二人が駆け出した直後――


魔物の結晶が一段と輝きを増し、魔物の口が大きく開く。


「グルルォォォォガァァァ!!」


吐き出されたのは、轟音と共に放たれた巨大な火球だった。


「くっ……!!」


アルマは振り向きざまに魔力を叩きつける。


「ウィンドシールド!!」


渦巻く風が集まり、うねりながら半透明の盾となって二人の前に現れる。


次の瞬間――


ドォォォォォンッ!!


火球がぶつかり、世界が白と赤の光に包まれた。


轟く爆炎、衝撃で揺れる大地。


炎が吹き荒れ、森に巨大な火柱が立ち上がる。

読んで頂きありがとうございます(*´∀`)♪

もし、面白い!続きを読みたい!と思ってくださって頂けるなら、ブックマークや☆評価など頂けると幸いですm(_ _)m

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