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落ちこぼれ聖女候補に転生した魔王は静かな隠居暮らしを目指す~今度こそブラックな人生はごめんです!~  作者: あんずのかおり


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第23話 売れないアイテム

レディア聖院女学園・一般寮の一室。


「うわぁ……これ、どうしよう……」


ユティナはクローゼットの扉を開けたまま、小さく頭を抱えて呟いた。


本来なら制服や私服が整然と並んでいるはずの収納スペース。


しかし、彼女の視線の先――クローゼットの下段には、赤と紫の液体が詰まった小瓶が、隙間なく並べられていた。


どれも雑に扱われているわけではなく、一本一本丁寧に栓がされ、簡易的なラベルまで貼られている。しかし、その量が明らかに常軌を逸していた。


「……つい、作るのが楽しくなっちゃって……」


苦笑い混じりに、ユティナは小瓶たちを見下ろす。


「作り過ぎたなぁ……。これなら、もっとアルマにあげても良かったかも……」


クローゼットの中は、もはや衣類よりも小瓶の方が幅を利かせている。


魔力量を高めるための訓練用として消費はしているものの、使用量よりも製作量の方が圧倒的に上回ってしまっていた。


――作るのが楽しい。

――うまくできる。

――もっと作れる。


そんな感覚に身を任せているうちに、必要数を遥かに超えて作り続けてしまった結果が、この有様だった。


「……売る? いや、さすがに売れないか……」


一人でぶつぶつと呟いていると、コンコン、と控えめなノック音が部屋に響く。


「はーい」


クローゼットを慌てて閉め、ユティナは扉へ向かう。

ドアを開けた瞬間、思わず目を瞬かせた。


「……あ、アルマ?」


そこに立っていたのは、親友であるアルマ。

そして、その半歩後ろには――


「……リンさん?」


アルマ専属のメイド、リンの姿があった。


アルマがリンを伴って寮の部屋を訪ねてくることなど、今まで一度もなかった。


その異様さに、ユティナの胸に小さなざわめきが走る。


「えっと……どうしたの……?」


自然と、声が慎重になる。


何気ない一言のはずなのに、そこにはわずかな不安が滲んでいた。


「あ、ユティ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」


「聞きたいこと……?」


ユティナは首を傾げ、アルマの顔を見つめた。


その表情はどこか歯切れが悪く、いつもの落ち着いた雰囲気とは微妙に違っている。


――気のせい、だろうか。

だが、胸の奥に小さな違和感が残った。


「うん……。あのね、今日もらったアイテムなんだけど……」


その言葉を聞いた瞬間、ユティナの脳裏にすぐ答えが浮かぶ。


「ポーションとエーテルのこと? あ、もしかしてあんまり効き目なかった?」


少し困ったように眉を寄せる。


「うーん……やっぱりアルマにとっては効果、薄かったかぁ……」


「えっと……そうじゃなくて……」


アルマが言い淀むよりも早く、ユティナは別の結論にたどり着く。


「え? ああ、もしかしてあれだけじゃ足りなかった? だったらまだいっぱいあるから、持ってっていいよ!」


――いっぱいある。


その一言に、アルマとリンが同時にぴくりと反応する。


「ちょっ、ちょっと待って!」


珍しく声を荒げたアルマに、ユティナは目を見開いた。


「え……? な、なに……? ど、どうしたの、アルマ?」


親友の動揺に戸惑うユティナ。


その背後で控えていたリンが、低く、しかし確かな声で呼びかける。


「……お嬢様」


その一言で、アルマは小さく息を吸い、覚悟を決めたようにユティナを見据えた。


「ユティ。そのアイテム、見せてもらってもいい?」


「え……あ、うん……」


圧に押されるように頷くユティナ。


「じゃ、部屋にお邪魔するね」


アルマとリンは、そのまま部屋の中へと足を踏み入れる。


二人が室内を見回す様子を、ユティナは所在なさげに見守った。


(……な、なんでだろう。特に悪いことしてないのに……落ち着かない……)


まるで突然、抜き打ちの立ち入り検査を受けている犯罪者のような気分だった。


「ユティ。あのポーションとエーテルは、どこ?」


「あ、うん……クローゼットの中に……」


その返答を聞くや否や、アルマは即座に振り向く。


「リン!」


「はい、お嬢様!」


リンは一歩前に出て、ためらいなくクローゼットの扉を開けた。


――次の瞬間。


「……うそ……」


「こ、これは……」


二人の口から、ほとんど同時に驚愕の声が漏れる。


室内の空気が、目に見えて張り詰めた。


ただならぬ雰囲気に、ユティナは思わず一歩後ずさる。


「あ、あの……?」


恐る恐る声をかけようとした、その時――


「ユティッ!」


「は、はいっ!!」


裏返った声で返事をするユティナだった。


「こ、これ……全部、ユティが作ったの……!?」


「う、うん……」


「そ、そんな……信じられません……。霊薬士でもないのに、一体どうやって……」


アルマとリンは、揃って言葉を失っていた。


目の前に並ぶ小瓶の数々を前に、開いた口が塞がらない。


「え、えっと……霊薬士っていうのが、よく分からないんだけど……。これくらいの品質のポーションやエーテルなら、魔法で作れるよ?」


「……魔法?」

「……魔法、ですか……?」


噛み合っていない二人の反応を見て、ユティナは小さく首を傾げる。


「えーっと……」


そう言って、机の上に置かれていた一束の草を手に取る。


アルマとリンの目には、道端に生えている雑草と何ら変わらないものにしか見えない。


「これ、ポルカ草って言うんだけど……これにね」


ユティナは草にそっと魔力を流し込む。


次の瞬間、淡い光とともに魔法陣が展開され――アイテムクリエイションが発動した。


光に包まれたポルカ草は、形を歪め、収束し、やがて――

透明な小瓶に満たされたポーションへと姿を変える。


「アイテム生成魔法を掛けるだけ、なんだけど……」


その言葉とは裏腹に、部屋の空気は完全に凍りついていた。


アルマとリンは、微動だにせず固まっている。


それを見て、ユティナの背中を冷たい汗が伝う。


(あ……これ……やっちゃったやつだ……)


「……え……なに、その魔法……!?」

「……わ、私は……夢を……?」


完全に現実逃避を始めた二人を前に、ユティナは乾いた笑みを浮かべる。


「お、お嬢様……?」


リンが恐る恐る声をかける。


「ま、待って、リン……! と、とりあえず……その魔法の話は、今は置いておきましょう……」


アルマはこめかみを押さえ、深く息をつく。


「……それよりも……」


ゆっくりと、視線がクローゼットの中へと戻る。


整然と並ぶアイテム。その光景は、冷静さを取り戻しかけた思考を、再び揺さぶるには十分だった。


「……これで、全部なんだよね!?」


アルマの声が、わずかに裏返った。


「う、うん……」


ユティナは視線を泳がせながら、控えめに頷く。


「これ……私以外に、誰かにあげたりは!?」


「……あ、うん……してないよ」


確認するたびに、ユティナの声は小さくなっていく。


そのやり取りを横で見ていたリンが、クローゼットの中を一瞥し、冷静に――しかし容赦なく現実を告げた。


「お嬢様……ざっと見た限りですが、こちら、六十本近くございますね……」


「ろ、六十……本……!?」


アルマの顔が、はっきりと引き攣る。


もはや冷静を保つ余裕は、微塵もなかった。


「……ね、ねぇ……」


場の空気に完全に置いていかれたユティナが、おずおずと口を開く。


「いったい……どうしたの……?」


その問いに、アルマとリンは顔を見合わせ――そして、揃って深いため息をついた。


「……あのね、ユティ」


アルマは一度言葉を切り、ユティナをまっすぐ見据える。


「実は……今日、ユティに貰ったポーションとエーテルを正式に鑑定に出してきたの」


「……鑑定?」


ユティナはきょとんと目を瞬かせる。


その言葉の意味を、ユティナはまだ理解していなかった。


──


「……はい? ……ハイポーション? ……ハイエーテル?」


アルマの口から告げられた言葉を、ユティナは噛み砕くことができず、そのまま零れ落ちさせた。


一瞬――

部屋に、妙な沈黙が流れる。


「……あはは……」


乾いた笑いが、ぽつりと漏れた。


「じょ、冗談きついなー……。ハイポーションとハイエーテルって……」


(ちょっと待って待って待ってぇぇぇ!? 私が作ったの、ただのポーションとエーテルなんですけどぉぉぉ!? しかも低品質の!)


内心では大混乱しながらも、現実を拒否するように首を横に振る。


「ま、待ってよ〜……多分、何かの間違いじゃ……」


その言葉を、リンが即座に切り捨てた。


「恐らく、それはございません。今回鑑定を行ったのは、ゴールドランクの鑑定士ですので」


「……あはは……」


乾いた笑いが、ひくりと喉を鳴らした。


(え……マジで……?じゃあ、あの時代からアイテムの価値が変わった……ってこと?)


ユティナの脳裏に、かつての記憶がよみがえる。


そこらで採れる素材。

簡易的な手順。

感覚頼りの調合。


自分にとってそれは、特別な技術でも何でもなかった。


少なくとも、“高級品”と呼ばれるような代物とは無縁だったはずだ。


――なのに。


(で、でも……ハイポーションって、失われた肉体を完全再生できるやつだよね……? ハイエーテルだって、私が作ってたのは物よりも大量の魔力を回復できたし……。やっぱり、何かの間違いなんじゃ……?)


ユティナにとっての“ハイポーション”と“ハイエーテル”の定義は、魔王として生きていた時代のものだ。


だが――


時代が変われば、基準もまた変わる。


その当然の事実を、今さらながら思い知らされる。


だからこそ、確認せずにはいられなかった。


「あ、あのさ……。ちなみにハイポーションとハイエーテルって、普通のポーションとエーテルと、どう違うの……?」


どこか気まずそうに問いかけるユティナ。


その言葉に、リンは「今さら何を」と言わんばかりの表情を浮かべる。


アルマも同じ思いを抱いたが――

もしそれを知っているのなら、そもそもこんな事態にはなっていない。


そう察し、感情を飲み込む。


「えっと……違いなんだけど……」


アルマはゆっくりと言葉を選びながら説明を始めた。


現在の定義。

回復量の基準。

希少素材の使用。

霊薬士による製造工程――。


一通りの説明を聞き終えたユティナは、固まった。


(や、やっぱり……私の知ってる常識と全然違う……)


ほんの少しの後悔が胸を刺す。


だが。


――もう遅い。


既に鑑定は済み、価値は明らかになってしまったのだから。


そして――その価値を知ることになったユティナは。


(……ん?)


思考が、ぴたりと止まる。


(……待って……)


一拍。


アルマの説明が、頭の中でゆっくりと整理されていく。


希少品。

入手困難。

市場に出回る数もごくわずか。


それぞれの言葉が、遅れて理解へと変わっていく。


(……ってことは……)


そして。


(じゃあ、これ……売ったら……めちゃくちゃお金になるってこと……?)


気づいた瞬間――

ユティナの口元が、じわりと緩んだ。


さきほどまでの動揺も、不安も、後悔も。

その全てが、別の感情に塗り替えられていく。


きらり、と瞳が輝く。


それは危機感ではなく。


完全に――金策の光だった。


「ね、ねえアルマ……ちなみに、一本いくらくらいで売れるんだろ……? あは、あははは……」


明らかに不自然な笑い方。


その“兆候”を、アルマが見逃すはずもなかった。


「――ユティ〜?」


次の瞬間、アルマの両手ががしっとユティナの肩を掴む。


「ひっ!?」


距離、ゼロ。

顔は笑っている。

――だが、目が笑っていない。


「ま・さ・か〜……売ろうとか、思ってないよね〜?」


「……っ」


完全に見抜かれている。


だが――

ユティナにも、譲れない未来があった。

スローライフ。隠居資金。老後の安心。


(こ、ここで引いたら……目標の隠居生活が……!)


恐怖に膝が震えそうになりながらも、意を決して口を開く。


「あ、い、いや……? ……す、数本売るくらいなら……いいかなぁ……って……」


視線を逸らすユティナ。

全部売りたい、とはとても言えない。

元魔王、意外と小心者である。


「ユティナ様……」


静かに口を開いたのはリンだった。


「差し出がましいことを申しますが……それらをお売りになるのは、お控えになった方がよろしいかと存じます」


その声音は丁寧だが、はっきりとした制止の意志がこもっている。


「え……? ど、どうしてですか?」


ユティナは思わず声を上げた。


「作ったのは、私ですよ!? そのくらいの権利は、私にあっても――」


言いながらも、内心では確信していた。


(さっきの様子からして……絶対、高く売れるやつだよね?)


だからこそ、引けない。


少しでも資金になるなら欲しい。

将来のために。スローライフのために。


その空気を断ち切るように、アルマが真剣な声で言う。


「ユティ。……正直に言うね」


一瞬の間。


「あなたが作ったアイテム、商会で売れば一本五万ルクス。オークションに出せば、二十万前後になる、っていう鑑定結果だったの」


「――は?」


一拍遅れて、理解が追いつく。


「ご、五万!? お、オークションで……二十万!?」


(え、まじで!? そ、そんな値がつくの!?)


頭の中で、瞬時に計算が始まる。


五万×六十本――

いや、オークションなら二十万×六十……?


(ちょ、ちょっと待って……え、これ……人生上がりじゃない?)


動揺と興奮がない交ぜになり、目がきらりと輝く。


「そ、それなら……せめて、ある分くらいは……」


さっきまで「数本」と言っていたのはどこへやら。

欲望が、ぐいぐいと顔を出す。


その変化を、アルマとリンは見逃さなかった。


「はぁ……」


小さく息を吐いてから、リンは静かに口を開いた。


「アルマお嬢様がおっしゃった通り、ユティナ様がお作りになったそれは、従来のハイポーション、ハイエーテルと同等の価値を持つと鑑定されております」


淡々とした口調。だが、その目は真剣そのものだった。


「特に――ユティナ様の品は、従来のものとは色が異なる“前例のない品”です。オークションに出品すれば、希少性を重視するコレクター達が競り合い、さらに高値がつく可能性もございます」


そこで一度、言葉を区切る。


「お分かりになりますか? その価格が示しているのは、“それほど希少である”という事実です」


ユティナは、ごくりと喉を鳴らした。


「ハイポーションとハイエーテルは、通常のポーションやエーテルとは比べ物にならないほど入手困難な品。それを――」


リンの視線が、クローゼットの中へ向く。


「これほどの数、市場へ流せばどうなるか」


静かな声が、逆に怖い。


「当然、値崩れが起きます。供給過多による価格の暴落。市場の混乱。そして、“誰が大量に保有していたのか”という追及」


ぴたり、とユティナを見据える。


「……そのご様子ですと、こっそり定期的に売却しよう、とお考えでしたか?」


図星。


ユティナの視線が、明らかに泳ぐ。


「そ、そんなことないですよ……?」


声が上ずる。


どこまでも白々しい。


リンは、ゆっくりと目を細めた。


「それに――当然ですが」


リンは淡々と続ける。


「これほどの数が市場に出回れば、オークションでの価値も下がります」


「あ……確かに……」


先ほどまで輝いていたユティナの目が、わずかに曇る。

供給が増えれば価格が下がる。

それくらいの理屈は、さすがに分かる。


だが、リンの話はまだ終わらない。


「それだけではございません」


一歩、踏み込む。


「新種のアイテムを正式に売買するには、鑑定書が必要です。つまり――商会ギルドが認め、保証した品であるという証明書です」


「え? でも、鑑定はしてもらったんだよね?」


「はい。ですが――」


リンは静かに首を振る。


「鑑定書は発行しておりません」


「え、なんで!?」


思わず声が大きくなるユティナ。


アルマが申し訳なさそうに口を開いた。


「今回は、あくまで“判別”が目的だったの。まさか、あんな結果になるなんて思っていなかったから……」


リンが補足する。


「現在、商会ギルドの記録上では、“色違いのハイポーションおよびハイエーテルの存在を確認した”という段階に留まっております」


「つまり……?」


「鑑定書が無い以上、それは“ギルドが保証する正式な商品”ではない、ということです」


静かだが、逃げ道を塞ぐ言葉。


「ギルドに加入していない店で売却することは可能でしょう。ですが――保証のない品です。真価を理解されぬまま、安く買い叩かれるのが関の山かと」


「うっ……」


ユティナが言葉に詰まる。


抜け道が、次々と塞がれていく。


しかし――


「じゃ、じゃあ……」


希望を捨てきれず、ユティナは顔を上げた。


「アルマが鑑定書をもらってくれたら……?」


視線は、まっすぐアルマへ向けられる。


そこには、


助けて

でもお金ほしい

なんとかして


そんな思いが、はっきりと滲んでいた。


「う……ま、まぁ……鑑定は終わってるから、鑑定書の発行自体はいつでも可能なんだけど……」


ユティナの真っ直ぐすぎる視線を、アルマは直視できない。

目が泳ぐ。明らかに弱い。


「じゃあ……!?」


ぐいっと距離を詰められ、アルマはさらに視線を逸らす。


「うーん……」


一瞬の沈黙。


そして。


「却下で」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


悲鳴が響いた。


「なんでぇぇぇぇ!? アルマぁぁぁぁ! お願い! そんな後生なぁぁ!」


ユティナは勢いよくアルマの腰に抱きつく。

もはや哀れな物乞いの姿である。


「ちょ、ちょっとユティ、離れて……!」


必死に引き剥がそうとするアルマ。


その横で、リンが静かに口を開いた。


「そもそも――」


その声音は、容赦なく冷静だった。


「貴族ですらないユティナ様が、ハイポーションやハイエーテルを数本でも売却すれば、確実に目立ちます」


ぴたり、とユティナの動きが止まる。


「高額商品を扱う者には、相応の後ろ盾が必要です。

身分も組織も持たぬ状態で売れば……よからぬ輩に目を付けられるのは、目に見えております」


部屋の空気が、すっと冷える。


身の丈に合わぬ富。


それは羨望ではなく、標的になる。


アルマは、ゆっくりとユティナを見下ろした。


抱きついたままの友人に、優しく、けれどはっきりと告げる。


「だからね、ユティ……」


その声は、どこか申し訳なさそうで。


「鑑定書を発行してもらったとしても……ユティナのハイポーションとハイエーテルは、ある意味――売れないアイテムなんだよ」


「そ、そんなぁぁぁぁぁ!」


天を仰ぐユティナ。


その虚しい叫びが、部屋いっぱいにこだました。


──


貴族寮へ戻ったアルマは、自室のテーブルの上に置かれた大きな袋へ視線を落とした。


重みのある、革製の袋。


静かに口を解き、中を覗く。


鮮やかな赤のハイポーション。

深い紫のハイエーテル。


どちらも澄んだ輝きを放ち、瓶越しでも異質さが分かる。


それらはすべて、つい先ほどまでユティナのクローゼットに押し込まれていたものだった。


「……一応、何とかなって良かったですね」


リンが隣から覗き込み、静かに言う。


「うん……」


アルマは小さく頷く。


「ユティには、少し悪いことをしちゃったけど……」


脳裏に浮かぶのは、絶望に打ちひしがれた親友の顔。

あの世の終わりのような叫び。


リンは淡々と返す。


「仕方ありません。事実、あのまま放置はできませんでした」


あの後――

ユティナが“作り過ぎた”アイテムは、すべてアルマが引き取った。


一般寮の一室に、

高価な回復薬を大量保管。


それはあまりにも無防備だった。


だからこそ、アルマが管理を申し出たのだ。


名目は“保管”。

だが実質は、封印に近い。


「そうなんだけどね……」


アルマは瓶の一つを手に取る。


ユティナ一人に管理させるよりも、自分とリンで預かった方がいいと、そう判断した。


あれだけ説明はした。


だが、それでもなお、うっかり市場へ持ち込まないとは言い切れない。


念には念を入れるべきだ。


それに――場所の問題もある。


貴族寮は一般寮とは違い、名家の子女が生活する区画だ。


表立って警備兵が常駐しているわけではないが、各家に仕えるメイドや従者たちは主人を守るために武を修めている者がほとんど。


実質的な警備体制は、むしろ一般寮よりも強固だ。


防犯の観点から見ても、ここで管理するのが最適だった。


全ては、ユティナが余計なトラブルに巻き込まれないため。


友人として、守るための判断だ。


とはいえ、所有者はあくまでユティナ。


使いたい時は申告制。

勝手に処分はしない。


さらに、


・作り過ぎないこと

・アイテム生成魔法は絶対に他言しないこと


その約束を交わした。


「それにしても……」


リンが瓶を見つめたまま、ぽつりと呟く。


「アイテム生成魔法……。あのような魔法が存在するとは。一体どこで知識を得たのでしょう」


アルマは少し考え込む。


ここ最近の、ユティナの変化。


以前は、もっと常識の範囲内に収まる子だった。


失敗もするし、空回りもする。けれど――普通の範囲で。


今は違う。


時折、常識の枠を軽く飛び越える。


だが――


笑い方も、焦り方も、おっちょこちょいなところも変わらない。


間違いなく、ユティナだ。


少しだけ、何かが違うだけで。


アルマは小さく首を傾げる。


「さぁ……?」


それ以上、深く考えるのはやめた。


今はただ、親友を守れたことだけで、十分だった。


読んで頂きありがとうございます(*´∀`)♪

もし、面白い!続きを読みたい!と思ってくださって頂けるなら、ブックマークや☆評価など頂けると幸いですm(_ _)m

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